24―4

「カニールガーデンの光速機動隊、すごいよな」

「おれ、その制作風景見に行ったんだ」


 騒然としたチャットルーム。

 笑い声や雑談に囲まれ、ザックは時間を待っていた。


 夜光祭が無事に終わり、夜も明けた今日。

ムゲ達がワイス行きのジョウントタグの経費を払うと約束していたため、ここで待ち合わせをしていたのだ。


 前席には、マゼンタプレートを手にしたラーソが。

 このマゼンタプレートは、シオンと対峙した際に手にした戦利品。これを空き時間を使って見てもらっているのだ。

 ラーソは、プレートを両手で挟み、折り曲がるかどうか撓(しな)らせたり捻ったりと、なにやら原始的な方法で観察を行っていた。

 その間ザックはというと、目を閉じてのテレパシー。


『……解ったよ。プレゼントは別のにするよ』


 話し相手は、シェイン。

 話す内容は、相談。

 母であるレリクの誕生日が近い事から、プレゼントは何が良いかシェインから聞かれたのだ。

 ほほえましい相談に気が安らぐが、つかの間。プレゼントに最近流行のダークミラーを考えている事を知り、ザックは慌てて否を出した。

 何度か理由を聞かれたが、うまくはぐらかし、ようやく事なきを得る。


『でもザックにも言われるとは思わなかったな。実は父さんにも言われたんだダークミラーはやめとけって』


 そして、話は父クルトの話題へと移る。


 父と共に初めてスカイフィッシュ討伐の依頼を達成した事、そして、父が前より頼もしく感じる様になった事……

 それを聞き、ザックはクルトとの時を思い出す。

 懐古に浸ると同時にシェインの成長を嬉しく感じた。

 冒険者を目指し着実に邁進する姿勢は、見習うべき所があった。


『じゃあまた。父さんと母さんによろしく』


 ザックはテレパシーを終え、一息着いた。

 が、矢先。ラーソが新たな用事を作り出す。


「マゼンタプレートの力の履歴を調べた結果…… ザックさんの予想していた人が浮かんできましたわ」


 ――信じられない。

 ラーソの表情はそう告げていた。


 このマゼンタプレートは、元々シオンが所持していたもの。

 その使用履歴を、オーラを読み取る要領で調べれば、他の進化派の元に行き着くかもしれない…… ザックのその考えは、間違ってはいなかった。


 ――クレロワ・カニール。


 その姿がまじまじと浮かび上がったとラーソは告げた。

 クレロワが進化派ということは、最近流行らせようとしているダークミラー、そしてそれを作り上げた人物も、きな臭い可能性があるという事になる。



「光速機動隊、面白いよな」

「やっぱりカニールガーデンのはひと味違う」


 周囲から聞こえる絶賛の声。その絶賛の元もまた、クレロワが絡んだもの。

 アニモーションまでは無関係だとは思いたいが、避けた方がいいかもしれない。

 いずれにせよ、はっきりしたことがある。


「リリ・アンタレス…… やはり彼女も進化派でしょう」


 その言葉に、ラーソは肩を落としていた。

 リリに憧れ占術師を目指したというラーソにとって、この事実は辛いものだったのだろう。

 酷な事だが、受け入れて貰う他無い。

 ザックも一緒に落胆し、同時に深いため息を付いた。


「二人とも、暗い顔してどうしたんだ?」


 と、そこに、待ち合わせをしていたムゲ達が姿を見せた。


「わたしと別れるのがそんなに悲しいのかしら?」


 スズナはラーソを見るなりそんな冗談を飛ばす。

 落ち込んでいた矢先の明るい姿勢は、憂いた空気を中和した。


「俺達はこれから世界中を回って、実力を磨くことにしたんだ。メンバーも集めて、いつかまたここに戻ってくる」


 ムゲは嬉々として夢を語った。

 ザックは素直に激励を送る。


 会話は、弾む。

 互いの距離が近付くにつれ、別れの時も近づいてくる。


 そして、時は来る。


「じゃあな。村の英雄さん。あ、一つだけ…… 最後に聞いて良いか?」


 別れ際、ムゲが神妙な面持ちで話し出す。


「あんた達はどうやって村の異変を知ったんだ?」


 ムゲの問いにザックは「知人から話を聞いた」と返答した。

 途端にムゲはスズナと顔を見合わせる。


「変だな。村の異変は絶対に漏れないようにしているってあいつは言ってたんだが…… おっといかんいかん。こんな話でお別れは辛気くさすぎるな」


 ムゲの機転で、話は終わる。

 ザックもまた、清々しい別れの際に水を差したくなかった。

 笑顔だけを選別にしようと、明るくつとめる。


「じゃあ、また!」


 手を振るムゲ達に見守られ、二人はジョウントタグに包まれミレマの地を後にした――







 ワイスには瞬く間に着いた。

 馴染みのチャットルームに出迎えられ、ザックは安堵で表情が緩む。

 外に出ると、丸い土屋は無く、四角いビルの列があった。

 これも馴染みの景色である。


「とりあえず、サムの所に戻りましょうか」


 ザックは、盛観に立ち並びながらも、どこか虚しさを感じさせるビルを眺め、ラーソと二人、馴染みの道を進んでいった――

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