24―2

 数ヶ月前まで過去の透視をする…… 初の試みだけに、高揚感と不安感に苛ませられながらも、ネムは徐々に目的の日に近付いていた。

 サフィームを手にした自身の姿。そこからさらに遡り、ついにその日は訪れる。


(まさか……)


 黒いスーツの男が、奥まった本棚にサフィームを収める姿があった。

 これは、マティスの予想通り、サフィームを意図的に目に付く場所に置いたという事を意味していた。


 透視を終えたネムは、目を強く見開き、早速見たことを伝えた。

 そして、偉大な発見が自分達の功績ではなかった事実に、明日駆と一緒に肩を落とす。


「……確かに、ここは俺達以外にも来る奴はいるんだ。それなのに長年サフィームが発見されなかったのはおかしいと思っていたんだ」


 だが、ここで新たな疑問が現れる。

 何の目的で、サフィームを自分たちに見つけさせたのか……


「それは直接本人に聞くとしよう」


 マティスはそう言い、したり顔を覗かせた。 ともかく、今回の目的は達成した。

 得た情報は大きい。後は、マゼンタプレートの効果が無くなる前に帰るだけ。

 しかし、ネムは思う。

 もったいない、と。

 今の自分は、生きてきた中で一番オーラが活性化している状態。この力、実に惜しい……


(そうだ、あれをやろう)


 名案が起きた。

 すぐに実行、ピラミッドパワーの中で、一心不乱にタグを綴る。


「直接本人ってお前、誰の仕業か知ってるのか」

「まあな。クレロワ、奴しかいないだろう」

「クレロワさんだっって! まさかそんな……」


マティス達の問答の傍ら、尚もタグを綴る。


「ってお前、なにしてるんだ?」


 聞かれてもお構いなしに。

 今書いているタグは、空気中のフォトンエネルギーを圧縮し質量を持つ物質へと変換させる〝ブロックタグ〟である。

 変換された物質はオルハルコン、またはヒヒイロカネと呼ばれ、主に浄化師などの武器の素材として使われる。

 また、ブロックは思念紙同様、作り手の思念や生体磁場によって強度が変わる特徴を持つ。

 ネムは、この優れた状況下の元、高い強度の素材を作り、より高度な武器を作ろうとしていたのだった。


「なるほど、武器作りか!」


 気付いた明日駆が、賛辞を送る。


「かっこよく仕上げてくれよ!」


 多少うるさく感じつつも、なんとか素材を完成させる。

 赤く輝く物質が、どこか怪しげに周囲の景色を映し出す。


「俺は今までので十分だから作らなくて構わん」


 マティスの言葉にネムは頷く。

 一呼吸。姿勢を整え力を抜く。


「ちょっと時間が掛かるかも。こっちは大丈夫だから先行ってて」


 二人の足音を耳に、再び目を閉じる。

 一人きりの室内に、静寂と遺跡らしい厳かさがやってくる。

 ネムは、ヒヒイロカネを思念によって形付け、一振りの棍を作り上げた。

 服の埃を静かに払い、背筋を伸ばし、リラックス。

 細かい調整や装飾は、街に戻ってから加工師に依頼する事に決め、ひとまずストレージタグで棍をフォトンエネルギーに変換。魂に保存する。

 用も済み、後は仲間の元へ向かうだけ…… なのだが、足は未だ動かない。

 一旦ピラミッドパワーから出るものの、再び中へと入り、一息。

 そして、意を決す。

 新たにブロックタグを書き、頼まれてもいない武器を作り始めた。

 背丈ほどに伸びた長剣…… それを作り終えたネムは、満足感を持って部屋を後にした――

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