12―4

「なんで花を欲しがるかって? 荒らしになった俺の親友の為かな」


 青草映える山の中。ラーソがふと口にした質問に、クルトのあっけらかんとした言が返る。

 クルトには竹馬の友がいたと言う。その友は、近々家庭を持つ予定の身だったらしい。


「だから俺はブリザードフラワーを妻に贈れば良いんじゃないかって提案したんだ。なんたってこの世界で最高室の贈り物だ、あいつも二つ返事で乗ってきたよ」


 クルトの家の近くの森は、ブリザードフラワーが良く咲く所として知られる場所だった。そこならきっと見つかるはず。そう思っての提案、だったというが……


「まさか行った時に夜になるとは。せめて…… ランプを持っていれば良かったんだがね」


 友の話を終えたクルトは、ガックリとうなだれていた。

 ラーソは、言葉が出て来ずうろたえる。


「俺は、その時にはもう進化派の考えとは無縁だったよ。だけど、今回は進化派の思想に戻りそうになった。人がさらに進化をすれば、荒らしになんかなることもないってね。でも……」


 クルトが振り返る。朝露で滑りやすくなっていた青草は、その足元をよろめかす。

 とっさに体勢を建て直し、すまし顔を決める様に、ラーソは思わず笑みを溢した。


「かっこよく決めれなかったな。まあ、なんだ。進化派なんてのは、アセンションを口実に今の不都合から逃げてるだけだ。俺は友の分まで力強く生きていきたい。このままの世界でな」 


 クルトは再び歩き出す。心なしか軽快なその背中を、ラーソはどこか満たされる思いで見つめた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る