12―3
ザックの瞳は今、深緑を反射させていた。
歩く場所は土の道。隣をラーソが歩き、後ろにはシェインとカインが続いていた。
ここは以前、ザックがシェイン達と訪れた森の中。
数時間の睡眠を終えた後、ザックは三人を連れ、運動がてら足を踏み入れていた。
目的地は、森の奥。以前荒らしの浄化を行った場所である。ザックは、そこで遂げたい事があった。
森は前に来た時より光が無く、影の濃さがなんとも納涼感を漂わせていた。
虫の鳴き声、鳥の鳴き声が、耳へと響き、消えていく。そこにさらに、かすかに水の流れる音が加わる。
音に誘われ、向かった先には湧き水が。丁度喉が渇いていたザックは、ここで休憩をとることにした。
清水を手ですくい、口元に運ぶ。
透き通った流れは、耳と口を泳ぎ身体に深く染み入った。
ひときわ美味しそうに水を飲むシェインと目が合う。
「あ、そうだ。〝とうろくしょ〟みせてよ」
と、思い出したかのようにシェインが口を開いた。
兄の言葉に、カインも同じく見せてと煽り始める。
ラーソの方を見ると、その目はシェイン達と同じ眼差しをしていた。見せるしかないようだ。
観念しザックは、自分だけに見えるように記された登録書の文字を、シェイン達にも見えるように書き直し、皆の前に開示する。
「おれたちの名前、あ、ラーソさんのもある! でもなんだか数がすくない……」
無邪気にそう言い、二人は最後に記された名前から順に、古い記述を遡り始めた。
「一番はじめに書かれてる名前は…… ソシノ。それから、む……?」
そこまで口にした時、シェイン達は急に黙り込み、ふてくされた。
どうやら記された名前が読めないらしい。
そこには〝無柳(むりゅう)〟と記されていた。
「ソシノさんって、前に話した人ですね」
隣で見ていたラーソの、独り言が聞こえてくる。
「そうですね。それから無柳も…… この二人は自分にとって恩人みたいなものです」
ザックは懐かしみ、遠い目をする。涼やかな風が、遠い先からザックの元に吹き込んだ。
その後四人は、再び歩き出す。
目的の広間はもうすぐそこ。ラーソ以外は、勝手知った場所である。
「もうそろそろですわね」
そろそろ着くと言おうとした矢先、ラーソが自信を含んだ表情で言った。
目的地を知っているような口振りを、ザックは疑問に思いはしたが、すぐに忘れ歩き出す。
障害が何も無いため、意外なほど早く広間に着いた。
木々が壁を作り、隔離するようにある広い空間が四人を出迎える。
ザックはその中を足早に歩き出した。
向かう先には、石が積まれたオブジェのようなものが。
旧文明でいう〝墓〟のように積まれた石達。それは、ザックがここで荒らしを浄化した後、その目印にと作ったものだった。
ぼひょうを前に、服の内ポケットを弄る。
そこから現れた物は、透明な小さな瓶。中には光る花ブリザードフラワー。
以前、この荒らしが綴(つづ)った文字化けをラーソに解析して貰った時、荒らしが光る花を欲していた事を知ったザックは、再びここを訪れた際に、それを差し出そうと決めていた。
荒らしとはいえ、その命を終わらせたのは自分。なら、せめて、荒らしが望んだ願いだけは叶えてやりたかったのだ。
しゃがみ込み、ブリザードフラワーをそっと添える。
と、その時、墓標をよく見ると、既に別のブリザードフラワーが添えられているのに気が付いた。
誰かは解らないが、荒らしを哀れみ、花を供えた者が居たのだろう…… 思いながら手を合わせる。
シェインとカインも真似をし出し、場は鎮魂の憂いに染まる。
だが、そこは子供たち。弔いを終えると、すぐに近くで遊んでくると言い、足早に駆けて行った。
「そろそろお話しても大丈夫そうですわね」
二人きりになったタイミングで、ラーソが話しかけてくる。
「実はザックさんが眠っている間、クルトさんの要望で一緒にここに来ましたの。この花は、クルトさんが添えたものですわ」
そしてラーソは、詳しい話を始めた。
それは、先日クルトの依頼でブリザードフラワーがある場所を散策した時まで遡る――
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