9-2
メロゴースと、という町がある。
シントで異質な存在と出会ったマティス達は、ひとまずそのメロゴースに向かっていた。
一〇時間弱ほどの、近くもなく遠くもない旅路だったが、わざわざ向かうのには理由があった。
シントのチャットルームで、気になる噂話を聞いたのだ。
なんでも、荒らしが多数出現し、メロゴースの町が動揺しているという。
チャンネル思念で情報を集めた結果、噂は本当であると判明。となれば、行くのは必然だった。
道中、三人は窓の流れを静かに見ていた。
広大な草原が只々広がる。メロゴースの町は、この自然の中にあった。
言わずもがな、緑の景は心を癒す効果がある。
「マティスは良いよな。疲れ知らずで」
しかし、今しがた愚痴を漏らした明日駆(あすく)には効き目が無かった。
疲労という概念を持たないクリスタルのマティスとは違い、バイオレットの明日駆とネムは肉体的に脆弱であるため、長旅は体に影響してくるのだ。
「マティスに言っても仕方ないよ。まぁ、これでも舐めてなよ」
が、しかし、流石はアセンションを遂げた新人類。少しの水と少しの食事で回復出来るのだから便利なものだ。
飴が口の中で小さくなる度、車内のざわめきが大きくなる。
やがて、列車の走りを終わらせる決定的な甲高い大きい音が。
待ちわびた、旅の終点である。
「早速行くぞ」
メロゴースの駅について早々、向かう場所は近場のチャットルーム。
そこで休息の傍ら、シンクロ・シティに入り荒らしに関するチャンネル思念がないか探りだす。
マティス達の旅の根元。それは荒らしの浄化である。
荒らしに執着するかのように浄化し回る日々を、長い期間重ねてきた。
そんな日々は、ここメロゴースで新たな極地を迎えることになる……
「馬鹿な。荒らしの報告が一件もない」
マティスの荒々しい一声。それは同じくチャンネル思念を探していた明日駆をびくりとさせた。
飛び上がった片ひざはテーブルの裏を叩き上げ、明日駆は苦悶の声を綿々と上げる。
「……確かに依頼がないのは驚きだけどよ。いきなり叫ぶのは無しだぜ」
下手な荒らし浄化師では、荒らしは一時的な浄化しかされず、しばらく経てば再び現れる。
そのため、荒らしは意外なほど減らず、街には一軒くらいは必ず報告があるのが常だった。
にもかかわらず、この状況。冷静さを乱すのも無理はない。
結果、三人はしばらくチャットルームに居座る事に。
依頼の更新があるかをじっと調べる策である。
客の入れ替わりが激しくなる。三人は目もくれず、ひたすら待つ。
ようやく一件の報告が確認された時、明日駆はすっかりあくびで目を腫らしていた。
『荒らしの浄化をお願いします。荒らしは年老いた姿をしています。場所は……』
それはひどく簡素な内容だったが、ひたすら待ち続けた身としては、さほど気になる事ではなかった。
依頼先は、ここから数一〇キロ先の草原地帯。
ブルーローズという、名産の花が野生で自生する地である。
向かう前に、事前にそれぞれの戦略を決め、役割を話し合う。
もっとも、マティスがほぼ全てを仕切るのだが。
「よし、これで行くぞ」
その結果、今回もいつもの通り三位一体で攻めるやり方で一致。それに伴い、マゼンタプレートは使わない事で合意した――
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