5ー4

 猛獣〝ガゼカ〟を退けたマティス達は、その後無事に目的の場所に着いた。

 美しい景観が広がる…… が、一切を度外視し荒らしの気配を探った。

 水面に目を凝らす。浮かんでいる、影がある。

 マティスが近寄ると、傍らの少女もそれに気づき、その名を呼んだ。


「リオ!」

「ミ、ミユねえさん……」


 突然の呼び声に、荒らしは驚いたか勢い良く振り返る。

 だが、それ以上に驚いたのがマティス達。


「おい、なんかまともそうだぞ。てことは話せば解るんじゃないか?」


 嬉々とした、明日駆の提案だった。

 周りの空気も、賛同の意を含み一気に軽くなる。

 だが、マティスは首を横に振った。


「……荒らしは浄化されるためにある存在だ」


 そして、ネムに目配せをする。

 直後、ペーストタグ(フォトンエネルギーとして魂に保存していた物質を外部に取り出すタグ)が目の前に広がる。

 自身の身から、光と共に現れた短刀を手に、構える。

 少女と明日駆、二人の懇願(こんがん)を、マティスは介さず走り出す。


「ボクは…… 戻るって、約束したんだ」


 うろたえる荒らしに突きを一、二。切り払いを軽く三回。

 一気に決めるつもりでいたが、意外に決まらない。

 荒らしの顔つきは怒りに変わり、ついには、身体全体から思念波を放つ。

 マティスは両手で防ぎ無傷で済んだが、反撃を許した事に憤りを覚える。


(やはり面倒だ。自我があるってのは)


 しかし、その時は来る。

 

「ミユ姉さん……」


 終わりはあっけなかった。

 マティスの刃が、ついに荒らしを切り裂いたのだ。

 荒らしが最期に残した一言は、憎悪でも、恨みの言葉でもない。それは、自分が愛する者の名。


 少女の元から、力なく倒れる音が聞こえた。

 そして、森が震えるほどの叫び声と、悲しさと憎しみを込めた瞳が、マティスに押し寄せる。


「わたしは絶対あなたを認めない、あなたのような人間にはならない!」


 マティスは黙って背を向けた。


「それがいい」


 誰に言うでもない、無意識に発した言葉だった。


「……俺にはこれは受け取れない」


 泣きじゃくる少女に、明日駆はたまらなくなったのだろう。受け取っていた報酬を返し、慰めを始めた。

 そんな明日駆と目が合う。疑念に満ちたそれを、じっと見返し今度ははっきりと、


「お前も解っているだろう。俺にはこの生き方しかないんだ」


 皆に聞こえるよう言い放つ。

 にらみ合いで、時は止まる。

 ネムの瞳には、その様子がじっと映し出されていた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る