第2ー32話 小学生と本気の勝負なのです。

 『大通りのダンジョン』その名の通り札幌大通り公園にあるダンジョンである。

 札幌ラーメン特有の濃い味のために水が手放せない第5ダンジョン部の面々はラーメン屋で知り合った小学生達と共にそこを訪れていた。

「いや~流石札幌ラーメンの有名店…美味かったな~。」

「ああ、少し味が濃かったけど美味しかったな。」

「何を言うテレちゃん!塩分大好き栃木県人には最高じゃないか。」

 タマ、それは間違った認識だぞ。栃木県人は濃い味が好きと言われていて栃木県人もその自覚があるんだけど、年間塩分摂取量は栃木県は下から数えた方が早いのだ。因みに1位は青森県…らしい。

「さあ、塩分談義はそれくらいにして早速ダンジョンに入るわよ。あっ…そうだ芝山先生、勝負ですけどハンデどうします?」

 ラーメン屋で名前は芝山と判明していた先生に丹澤慶子が話し掛ける。

「ああ、いらないですよ。私も一緒に入りますし。」

「いやいや芝山っち!こちとらマーベリックがいる高校生軍団ですぜ!いくら芝山っちが入ったからって…」

「『小樽東高校』って知ってますか?」

 タマの言葉を遮り芝山は話し出した。

「知らねっす!!」

 タマは元気良く答えた。記憶をたどる仕草くらいしろよ。

「小樽東高校……って一昨年の全高ダン優勝校ですよね?」

 フェミちゃんがタマとは違いちゃんと思い出した。そう言えばそうだったね。

「ええ。今年から小学校教諭に採用されたんですけど、私昨年まで小樽東高校のダンジョン部コーチだったんです。職業はエレメンタラーフレイム、レベルは78です。この子達は小学2年生からダンジョン攻略していて皆レベルは35くらいあるんですよ。それに、栃木県と違って我々は上級はまだ無理ですから、せいぜいこの初級の『大通り公園のダンジョン』か中級の『小樽のダンジョン』しかないですからね。目を瞑っててもクリア出来るんです。ですからハンデは不要です。」 

 勝負を挑んだクソガキの塚地も芝山の話からすると決して無謀な提案でもなかったみたいだね。ハンクスは闇属性が付いてエレメンタラーイビルだったけど芝山は同じエレメンタラーでも炎属性が付いている。

「そうか…。じゃあこちらも遠慮は無用って事だな。じゃあ行くか。」

「ちょっと待った!」

 テレちゃんの声にダンジョンへ向かい出した皆を塚地が止めた。

「何だ?トイレか?俺達との勝負への緊張でシッコでもチビったのか?」

「違うわ!!」

「シッコじゃなければウン……」

「だから違うって言ってるだろ!!玉乃井、勝負するからには何か賭けないか?」

「塚地君…賭け事は刑法185条で『賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処せられる』って禁じられているんだよ?」

 要するに賭け事はダメって事だね。メガネ…真面目か!!

「でも、その185条の但書に『ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは不処罰とされている』ってありませんでしたっけ?」

 要するにその時だけ遊びで商品やお願いを聞いて貰ったりする位なら良いよって事だね。まあ、限度はあるけど…って光里ちゃん…何者なんだろう…この子。

「た…確かにそうだけどね…。」

 流石のメガネもたじたじだ。

「うむ。では少年、何を賭けようか?」

「そこの美人の姉ちゃん2人貸して……ゲフッ!!!」

 とんでもない提案をした塚地の腰に光里ちゃんの強烈な前蹴りがめり込み彼はその場に崩れ落ちた。ラーメン屋の時は相手を吹き飛ばす蹴り、今回は衝撃を叩き込む蹴り…それを使い分ける小5女子って…。

「申し訳ありません。しかし、勝負とは何か報酬があった方が励みになるというモノ…。負けた方が3時のお茶を奢るというのはどうでしょうか?」

「いや、でもこちらは高校生、そちらは小学生だから経済的に…」

「心配は無用です。店はこちらが指定させて頂きますが、私、そこでツケがききますので…」

 丹澤慶子の言葉に光里ちゃんが返す。ツケがきく店を持ってるって…スゲェなこの子。

「……じゃ…じゃあ、それでいきましょう。それじゃ始めますか!」

 色々な疑問を押し殺してフェミちゃんが言うと光里ちゃんは気絶する塚地をトンと叩き意識を戻した。

「おおう!え?あれ?俺はいったい…」

 キョロキョロと辺りを見回す塚地を引き摺るように光里ちゃん達はダンジョンへと入って行き、第5ダンジョン部はお互いに顔を見合せながらそれに続いた。



「さあ!!小学生なんぞに負けてられないですぜ!!ガンガン飛ばすぜ!!」

 我先にと先頭を行くタマに壁から放たれた矢が刺さる。

「ギャーーース!!!」

 タマの悲鳴がダンジョン内に響き渡った。

「ああ、タマ君。このダンジョンは部屋内にしか敵は出ないけど通路が罠だらけだから気を付けてね。」

 メガネが動じずに頭の横に矢の刺さったタマに話し掛けた。

「メガネよ…。それは入る前に言ってくれないかね?」

「事前の説明で言ったから大丈夫だと思ったんだけど?」

 皆がコクコクと頷く。本当に話を聞いてないな。

「何ですと?慎重に進んでたらあいつらに勝てないじゃないか?」

「まあ、罠の場所や発動のタイミングは全部覚えてるから僕に着いてきてくれれば大丈夫だよ。」

「それで勝てるのか?」

「う~ん…向こうは『目を瞑っててもクリアできる』って言ってたからね。かなり微妙…ってより負けて当たり前かもしれないね。」

「な…何だと!?じゃあこんな所で話してる場合じゃないだろ!!走れメガネ!!」

 お前が罠に掛かったからだろうが…。


「やるからには勝ちたいけど、地元の子オススメのお店でお茶出来るならお金払っても別に構わないよね。」

 全力で走りながらも普通にフェミちゃんがしゃべった。

「まあな。ここの報酬も初級の割には良いし。」

 テレちゃんも息は上がっていない。

「こ…ここの…報酬って…何なんだ…?」

 最後尾を走るタマは呼吸音がヒューヒューいっている。そして背中には新たに槍が刺さっている。避けきれなかったのか?

「ここの報酬は『胃腸機能の向上』ですよ。これから美味しい物たくさん食べるからちょうど良いですよね。」

 マー君の背中に乗るコンちゃんもラーメン食べたばかりなのに乗り物酔いにはなってないようだ。良かったね。

「さあ、もうすぐボスの間に着くよ!この勢いのまま突入してすぐにコンちゃんの攻撃的の上がる『応援歌』歌って!テレちゃんは攻撃魔法を連射、タマ君は……とにかく着いてきて!相手は初級ダンジョンのボス…5秒で仕止めよう!」

 メガネが言い終わると同時にボスの間に突入した。


「うんうん…じゃあ、今日の夜8時にはこっちに来れるのね?え?あの子達は今ダンジョンに入ってるわよ。…うん、気付いてないわね。タマ君だけは不安だけど皆がいるから大丈夫……だと思いたいわ。それじゃね。待ってる。」

 ダンジョンの出入口付近のベンチに腰掛けていた丹澤慶子は通話を切った。スマホを持つ反対の手には缶ビールが握られている。また飲んでたのか?そして誰と話してたんだ?

「そろそろ…かしら。」

 腕時計で時刻を確認した丹澤慶子はダンジョンの方を見た。

「よいしょ!!」

 掛け声と共に先ずはフェミちゃんが姿を現す。そして続々と第5ダンジョン部メンバーと小学生達もダンジョン前に姿を現した。

「先生!どっちが早かったですか?」

「う~ん…。一番最初に見えたのはフェミちゃんだけどほぼ同時ね。」

「同時!?それじゃ困りますぜ先生!!」

 別にいいじゃんかタマ。

「そう?じゃあ、取り直しって事でもう一回行ってくる?」

「あ…それは嫌です。」

 なら言うなよ。

「初めてでこのスピード…流石高校生ですね。」

 芝山がにこやかな表情でこちらに歩いて来る。

「いえいえ、慣れてるとはいえ小学生でこの時間でクリア出来るなんて凄いですよ。」

「塚地君が途中トイレに行かなかったら勝てたんじゃない?」

 芝山の後ろに控えていた大人しそうな少年がボソリと言う。

「おい!言うなよ!漏らすよりマシだろ?」

 塚地はばつが悪そうにしている。

「…で、引き分けって事ですから賭けは不成立ですね。残念ですがここで解散でよろしいでしょうか?」

 光里ちゃんは少し残念そうに話した。負けて残念なのかな?それともお茶に行けない事が残念なのかな?そんな光里ちゃんにテレちゃんが歩み寄る。

「それなんだけどな。ダンジョンでずっと走ってて喉が渇いたんだ。何処か良い場所があったら教えてくれないか?教えてくれたお礼に奢るからさ。丹澤先生、別にいいだろ?」

 丹澤慶子がコクリと頷くと光里ちゃんは満面の笑顔で「はい」と答えた。


 テレちゃん優しいね。因みになぜ今回のダンジョン報酬が『胃腸機能の向上』なのかというと、作者が今胃腸の調子が悪いからだ!!と、どうでも良い発表をしたところで…次回!!光里ちゃんの正体が判明するのと…やっぱり食べ物の話。……つづく!!

 

 


 

 


 

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