第2ー24話 結局最強は母ちゃんなのです。

「よう、みんな。」

 今日もスタンプラリーのために自転車で行ける初めてのダンジョンに来た第5ダンジョン部に野太い声がかかった。

「よう!ハンクス。って、お前…。」

 そこにいたのは世紀末覇王化したハンクスだったが、その姿を見て流石のタマも言葉を失う。

「ん?どうかしたかい?」

 ハンクスは派手に改造された荷車にドカリと座り、それを男子部員6人に引かせていた。両隣には女子部員をはべらせている。心なしか言葉使いも何か変わったな。

「おい。ハンクス、だいぶ派手にやってるみたいだな。」

 テレちゃんが不愉快そうにドスを効かせた声で言った。

「ああ、テレちゃん。お陰様でな。そうだ…第5を辞めて第1に来ないかい?テレちゃんもフェミちゃんも厚待遇で迎えてやるぞ。」

 そう言うとハンクスは豪快かつ下品に笑う。

「せっかくの誘いだけど、心の底から遠慮するよ。」

 テレちゃんが冷たく言い放つ。

「ハンクス、これは忠告だが、あまり調子に乗ると痛い目にあうぞ。お前はモテないウ○コ野郎だという事を忘れてはならぬぞ。」

 忠告はもっともだが、その後はいらないんじゃないか?

「タマちゃん、昔の俺とは違うんだよ。まあ、精々頑張ってくれたまえ。」

 昔って言ってもたった半年前だぞ。ハンクスは高笑いをしながらダンジョンに向かって行った。

「アイツ変わっちゃったな。とてつもなく悪い意味で…。」

 タマはかつての友人を遠い目で見る。……って『かつて』かよ!今は違うのか?

「そうだね。僕は前のハンクス君の方が好きだったな。」

 メガネが呟く。

「俺は前のハンクスも特に好きではなかったぞ。」

 おい!!

「本当に困ったモノね…。」

「!!」

 背後からの突然の声に第5ダンジョン部はびくつく。

「や…山内先輩?」

 そこには元第1ダンジョン部のバーサーカーであり、ハンクスの彼女でもある山内が腕を組んで立っていた。

「久しぶりね。」

「あ、お久しぶりっす。山内先輩、アイツどうにかした方が良いんじゃないっすか?彼女の言う事なら聞くでしょうに。」

「無理よ。だってもう彼女じゃないもの…。」

「は?」

「だからあなた達が何とかしてちょうだい。」

「話が三段跳びからの棒高跳びくらい飛びましたけど…、もう少し詳しく話してもらえませんか?」

「仕方ないわね…。じゃあこれを見てもらおうかしら…。」



【泣いた塩野谷】作・山内


「むか~し昔、ある所に塩野谷という少年がいました…」

「山内先輩、ちょっと待って下さい。何で突然紙芝居が始まってるんですか?」

 急に始まった可愛い絵の紙芝居にフェミちゃんが困惑気味に質問した。

「いや、解りやすく説明しようと思って作ってきたの。」

「そうですか…。」

 山内のナチュラルな返答に一同は黙り紙芝居を見る事にした…体育座りで。近くで遊んでいた子供数人も集まって来ている。

「じゃあ始めるわよ。むか~し昔、ある所に塩野谷という少年がいました。」

 山内は紙芝居をめくる。

「塩野谷は極々平凡な少年でしたが、ある美女に恋をしました。塩野谷は猛烈にアタックしてアタックしてアタックしまくりました。そして美女は根負けと見せかけた暇潰しで付き合う事になったのです。」

 なんかさらっと酷いカミングアウトをしてないか?

「美女は自分より弱い男が嫌だったので塩野谷を鍛えました。するとどうでしょう!」

 山内が紙芝居をめくるとさっきまで可愛い絵だったのが急にムキムキマッチョな男が劇画調で描かれていた。子供達が「うわあ…」と小さく悲鳴を上げる。

「塩野谷は美女の予想以上に鍛えられ美女よりも強くなりました。そして美女は思ったのです…。飽きたな…と。」

 え?

「美女は塩野谷に別れを告げました。塩野谷は号泣しました。そして涙も枯れ果てた時、塩野谷は言いました。『愛を失うとはこれ程にツラいモノなのか…ならば愛などいらぬ!』…と。そして塩野谷は愛を捨て暴君になりましたとさ。めでたしめでたし…。」

 山内は紙芝居を終え自ら拍手をした。

「塩野谷かわいそう…。」

 子供の一人が呟く。

「美女酷いよな!」 

 他の子供が声を荒げる。それにつられるように子供達の間に「塩野谷は悪くない」とか「美女サイテー」の声が上がる。

「うるさい!!!」

 山内はキレた。大人気ない…。子供達はビビって蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。何やってんだよ山内…。

「まあ…、そういうワケよ。」

「そういうワケよ……じゃないですよ。100%先輩が元凶じゃなですか!!」

 温厚なメガネも流石に声を荒げる。

「そうだぞ先輩!ハンクスは見た目がラ○ウみたいなのにやってる事がサ○ザーみたいじゃないっすか!キャラがブレブレですぜ!」

 お前は論点がブレブレだぞタマ。

「はいはい。言いたい事はそれだけって事で良いかしら?じゃあ、後は任せたわよ。」

 突然現れた山内は帰るのも突然であった。変な人だ…ってこんなキャラだったっけ?


「どうする?」

 フェミちゃんがみんなに向かって問いかける。

「そうだな…。ファミレスでいいんじゃないか?」

「タマ、今日のお昼の話をしてるんじゃないんだよ。ハンクスの事だ。」

 ツッコむのも大変だねテレちゃん。

「そうだよタマ君。ハンクス君をこのままにしといて良いと思う?」

 メガネは正義感が溢れだしている。本当に真面目。

「うむ。コンちゃんはどう思うんだ?」

「え?あ…ハンクス先輩の事よく知らないんで何とも言えないです。」

 だよね。

「そりゃそうだ。何とかしたいのなら俺が何とかしようじゃないか。」

 タマが率先して解決しようとするなんて珍しいな。

「本当かタマ?どうするんだ?」

 テレちゃんは俄には信じられないようだ。

「まあ、見てなさい。5分で終わるからちょっと待って。」

 タマはスマホを取り出しどこぞに電話をかけた。

「あ、もしもし丹澤先生?何かハンクスが第1の暴君みたいになってるみたいだから問題になる前に校長と共にシメといて下さい。よろしくです。は~い…。……まずは良しと…。」

 電話を切るとまた電話をかける。

「あ、もしもし玉乃井です。お久しぶりです。善朗君が部活で悪さをしてるみたいなんで庭の木にでも吊るして大好物の歌舞伎揚を与えないようにして下さい。よろしくで~す。は~い…。…これで良し!」

 ハンクスは歌舞伎揚が大好物だったんだ…。美味しいよね歌舞伎揚。でも30越えて食べ過ぎると胸焼けするから気を付けようね。

「誰に電話したの?」

「ハンクスの母ちゃんだよ。ハンクスよりハンクスの母ちゃんとの方が俺は仲良いからな。これで大丈夫だ。さあダンジョン行くぞ!!」


 なんかあっさり解決しましたとさ。


 気が付けばこの話が通算100話目だったんだよね…。どうでもいいんだけど!

 次回!!今年も合宿するみたいだよ。……つづく!!


 


 

 


 

 

 

 

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