第2ー10話 野生の感なのです。

「ふんふふんふふふ~ん…。」

 コンちゃん歓迎会の帰り道、タマは名曲『変なおじさん』を鼻唄で口ずさんで…いや鼻ずさんでいた。

「タマご機嫌だな。」

 並んで歩くテレちゃんがにこやかにそれを見ている。

「おうよ。やけでマヨネーズ祭を開催したんだが、久しぶりに大量のマヨネーズ摂取が出来たからな。今非常に気分が良い。」

 それはなによりだ。

 そんな2人の横を黒塗りの車がゆっくりと近付いて来た。テレちゃんがそれに気付き警戒する。タマは相変わらず鼻唄を唄っている。

 黒塗りの車は停止するとパンツスーツで右目に眼帯を着けたショートカットの女性とサングラスを掛けた大柄の男が降りてきた。

「おい…タマ、何かヤバい雰囲気じゃないか?」

 テレちゃんがタマを見るとさっきまでご機嫌だったタマがいない。キョロキョロと周りを見ると足下で猫が警戒しているように四つん這いになり腰を上げているタマが「シャー!!」と奇声を発していた。

「何してんだタマ?」

「あの女の人に丹澤先生に勝るとも劣らないただならぬ危険を感じる。シャー!!テレちゃんは逃げろ。」

「そうはいくかよ…。」

 そんなタマの奇行を気にする様子もなく2人は更に近付いて来た。

「玉乃井樹君だね?」

 眼帯の女性が話しかけてきた。

「いいえ、違います。」

「フン…。嘘はついちゃいけないってご両親や先生に教わらなかったのか?」

 鈴木(元)会長のようにはいかなかったな。

「何の用っすか?シャー!!」

「私はこういう者だ。」

 女性は懐から名刺を取り出しタマに渡そうとする…がタマは四つん這いなので受け取れない。女性はタマの目の前の地面にそれを置いた。

 タマはそれを前足…じゃなくて手でちょいちょいと触りクンクンと匂いを嗅ぐ。猫を貫くつもりか?

「おい、お前!」

 サングラスの男がしびれを切らしてタマに何か言おうとするが女性がそれを制止する。女性の方が立場が上のようだ。

「そんなに警戒しなくていい。」

「むう…、俺の野生の感がお前は危険だと言っている。何者だ!!」

「いや…タマ、名刺貰っておいて聞くのか?」

 見守っていたテレちゃんがいつもの癖でツッコむ。

「あ…そうだった。なになに…ごひゃくはたあたまほしりん……?」

「五百旗頭星凜(いおきべ あかり)だ。」

「フリガナを付っておいて貰いたい名前だな。ホシリンって呼んでいい?」

「……別に構わないが。」

 動じない!!

「タマ…肩書きが凄いぞ。『防衛省国家ダンジョン統治局局長』って…ん?五百旗頭星凜ってもしかして…。」

 テレちゃんが何かを思い出したようだ。

「テレちゃんホシリンの事知ってるのか?」

「もしかして『羅刹』の五百旗頭なのか?」

「知っていてくれて光栄だよ。確か…源ていさんだったかな?」

 テレちゃんの事も調べてあるみたいだね。

「『羅刹』って何?」

「知らないのか?タマも含めて世界に5人しかいないマーベリックの1人だよ。確か16才の時になったって話だから…今26か。」

「おいおい、女性の年齢をさらりと言うもんじゃない。…で、こんな所で立ち話もなんだ…ちょっと顔貸してくれないか?不安なら源さんも同席してくれて構わない。」

 立ち話と言うがタマは立ってすらいないぞ。

「いえ、お断りします。私達は未成年ですから話があるなら後日、親や信頼できる大人と一緒に聞くのが筋でしょう?それにあなた達は親や先生に知らない人についていっちゃいけないって言われた事ないんですか?」

 テレちゃんがタマに代わり毅然とした態度で断る。

「つべこべ言わずについて来い!」

 サングラスの男が凄む。テレちゃんが怯むとタマが猫警戒モードスタイルから立ち上がる。

「おいオッサン!テレちゃんを恐がらせるとは俺が黙っちゃいませんぜ!」

 ここで黙っていたら男が廃るな。言ってやれタマ!!

「なんだと?」

 男が更に凄んで一歩前に出ようとすると五百旗頭が男の顔面に拳を叩き込んだ。その光景にタマとテレちゃんはポカンとする。

「黙れ後藤…。我々は公務員だぞ。国民の公僕である我々が高校生を恫喝するなど言語道断だ。」

「で…ですが、局長…。」

 殴られた顔を手で押さえながら後藤と呼ばれた男が言う。

「…黙れと言ったのが聞こえなかったのか?」

 五百旗頭の威圧に後藤は言葉を飲み込んだ。

「すまなかったな。では後日、話す場を設けよう。」

「は…はあ…。じゃあ電話番号を…。」

「大丈夫だ。携帯も自宅もメールアドレスもその他アカウントも全て知っている。」

 五百旗頭はニヤリと笑う。恐るべし国家権力…。

 テレちゃんにも名刺を渡し2人は車に乗り込み去って行った。それを見送るタマとテレちゃん。

「一体何の話なんだろうな?」

 テレちゃんが不安そうに言う。

「うむ…。ダンスパーティーのお誘いではなさそうだな。」

 欧米か!!

「欧米か!!」

 あっ、ツッコミが被った。

「なあタマ、その話を聞く時、私も行っていいか?」

「ん?別にいいぞ。でも面倒じゃないか?」

「心配なんだよ。それに私は…その…タマの彼女…だしな。」

「うん。そうだな。お手数ですがご参席して下さいまし。」

 おっ。うやむやになってたと思ってたがお互いにその認識になってたんだな。ちくしょう…青春しやがって!

「ふう…。何か緊張して喉が渇いたな…。タマ、ちょっとそこのカフェで何か飲んで行かないか?」

「そうだな。俺も緊張してマヨネーズが抜けてしまったよ。補充せねばなるまい。」

 マヨネーズが抜けるってどういう事だ?

「今日はもうマヨネーズは禁止だ。」

「え~!!」

「何だか五百旗頭さんとの話よりタマのマヨネーズ中毒の方が深刻な問題のような気がしてきたよ。」

 テレちゃんが笑う。

 緊張から解き放たれた2人は談笑しながらカフェへと入って行った。


 一体どんな話なんだろうね?丹澤慶子が手を打つ前に五百旗頭が先に接触して来ちゃったし…。まあ、時系列的にこの時まだ丹澤慶子も防衛省と文部科学省が動いてる事は知らないんだから仕方ない。


 次回!!丹澤慶子パニクる!!……つづく!!


 

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