第2ー8話 エビはプリプリなのです。

 コンちゃんのダンジョンデビューを終えた第5ダンジョン部の面々は居酒屋『しぐれ』に来ていた。もう慣れたもので丹澤慶子の引率なしに躊躇いもなく店内に入る。コンちゃんだけは「ここ居酒屋ですよ?いいんですか?」と困惑気味だ。

「あら、早かったわね。さあ、座敷に上がって上がって!」

 カウンターで既に飲み始めていた丹澤慶子が出迎える。


「では…コンちゃん第5ダンジョンへようこそ!そしてダンジョンデビューおめでとう!かんぱ~い!!」

 丹澤慶子が乾杯の音頭を取り歓迎会が始まった。

「それで、コンちゃんの職業は何になったのかな?」

 既にほろ酔いの丹澤慶子がみんなにたずねる。

「『町娘』でした。」

「あ…そう…なんだ。ま、まあ、あれね。その…大丈夫よ!」

 何が大丈夫なんだ?

「先生、ランクDの職業って激弱っていうのが常識ですよね?」

「そうね。」

 メガネの問いに丹澤慶子が即答する。フェミちゃんがそれに続く。

「ところが『町娘』のスキル『応援歌』が凄まじい効果なんですよ。タマ君のヒノキの棒の一撃で山盛りスライムが瀕死になったんですよ?私の通常攻撃も感覚で申し訳ないんですけど5倍位の威力になってました。」

「そんなワケないでしょ…と言いたいところだけどフェミちゃんが言うなら本当なんでしょうね…。」

 丹澤慶子が俄には信じられないように口元に手を当てて考えを廻らせている。そんな中、『しぐれ』のオヤジが次々に料理を運んで来た。

「まあ、立て込んだ話は取り敢えず後回しにして食べましょう!今日は海鮮の良いのが入ったみたいだからね。あ、他にも食べたい物があったらどんどん注文してね。」

 丹澤慶子の言う通り刺身の盛り合わせやコアジの南蛮漬け、エビフライにホタテフライなどの海鮮が並ぶ。他にもサラダや丹澤慶子お気に入りのもつ煮もある。そしてオヤジはタマの前にドンッと業務用のマヨネーズを1本置いた。

「おっ!オヤジさん分かってるね~!これこれ!」

 タマは愛しそうにマヨネーズを撫でる。

「タマ、程々にしとけよ。」

 テレちゃんはタマの健康を心配している。

「まあまあテレちゃん。今日はめでたい日だからな。贅沢にマヨネーズ祭を開催させてもらうよ。」

「その祭は個人的に開催しろよ。周りを…特にコンちゃんを巻き込まないようにな。」

「ふぁ~い。」

 

 タマは4ヶ月程前マヨネーズが原因でテレちゃんを激怒させる事件を起こしていた。

 それはテレちゃんが初めてタマに手作り弁当を作って来た時の話だ。口に合うか心配そうに見ているテレちゃんの目の前でタマはその弁当に常に持ち歩いているマヨネーズをとぐろを巻くように大量にかけてしまった。テレちゃんはタマを殴った。グーで…。

 まあ、殴られて当然だよね。テレちゃんはタマと口をきかなくなりタマはメールでの謝罪、直接の謝罪、土下座、土下寝、土下シンクロナイズドスイミング(ソロ)を駆使しやっとの事で許してもらったのだ。

 読み手のみなさんも気をつけようね。作者も気をつける…。


「ん~!このエビのお刺身美味しい!プリプリだ~。」

 フェミちゃんは大ぶりなボタンエビを幸せそうに頬張っている。うまそうだな…。

「フェミちゃん、こっちのエビフライもプリプリしてて美味しいよ。」

 メガネは20センチはある大エビフライを絶賛する。タマのマヨネーズを絞り出す手が止まる。

「おい。フェミちゃん、メガネ、今何て言った?」

「え?エビが美味しいって言ったんだよ?」

「違う違う。食感の話だ。」

「食感?ああ、プリプリだよ。ねぇフェミちゃん。」

「うん。プリプリしてて美味しいよ。」

 タマはハアと溜め息をついた。

「君達は勉強は出来るのにそんな事を言っているのか?そうだな…じゃあ、コンちゃん。」

「は、はい!」

 イカの刺身をモキュモキュと食べていたコンちゃんは急に名前を呼ばれて驚いて目をぱちくりしている。

「まずはエビの刺身を食べてみてくれないか?あ、アレルギーとかないよな?」

「はい、大丈夫です。じゃあ…。」

 タマが何をしようとしているのか分からないままコンちゃんはエビの刺身を口に運ぶ。

「どうだ?」

「とっても美味しいです。」

「プリプリか?」

「はい。プリプリです。」

「うむ。では次にエビフライを食べてみてくれないか?」

「はい…。」

 コンちゃんはエビフライをサクサクと食べる。なんか小動物みたいだ。

「どうだ?」

「これも物凄く美味しいです!生も良いですけど火を通したエビも食感が変わって良いですよね。」

「お!聞いたかみんな!今、コンちゃんが俺の言わんとしている事を言ってくれたぞ!」

 タマだけテンションが上がる。

「まあ、タマが言いたい事は何となく分かったけど、そんなのどうでもいいだろ?」

 テレちゃんがコアジの南蛮漬けを味わいながら言う。

「テレ先輩、どういう事ですか?」

「要するにタマは生のエビと火を通したエビの食感が全然違うのに同じ『プリプリ』という表現で良いのかって事が言いたいんだろ?」

「さすがテレちゃん!!その通りだ!!違う食感が同じ擬音で良いはずがない!俺が思うにプリプリしているのは生のエビだ!」

 ああ面倒くさい…。

「じゃあ、火の通ったエビの食感は何ていうの?」

「ん?」

「だから、火の通ったエビの擬音だよ。」

「そ…そうだな…例えば……モリュプチッって感じかな?」

「何だかあんまり美味しそうな音じゃないな。」

 テレちゃんは冷ややかだ。

「気持ち悪い。」

 フェミちゃんは感想をストレートに言った。

「センスを疑うよ。」

 メガネにも不評だ。

「ぷはー!!!」

 丹澤慶子は酒に夢中で聞いてすらいない。

「なんだいなんだい!!文句ばっか言いやがって!」

 そもそも文句を言ったのはお前だろ?

「まあまあタマ先輩!『プリプリ』についてで『プリプリ』怒らないで下さいよ。ぷぷぷ…。」

「……。」


 タマを黙らせるとは凄いぞコンちゃん!!ある意味大型新人かもしれないね。これ以上続けたら丹澤慶子の鉄拳が待ってたんだからコンちゃんに感謝しろよタマ。

 黙らされたタマはやけマヨネーズをして業務用マヨネーズを2本飲み干したそうな…。まさにマヨネーズ祭!!


 次回!!丹澤慶子が飲み続けるぞ!そして、巨大な組織が動き出す!……つづく!!

 

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