第64話 開幕!全高ダンなのです。

「え~だらからして~、皆さんには~…」

 那須の道の駅ダンジョンでは全高ダンの開会式が行われている。壇上では教育委員会のなんとかさんの話が長々と続いていた。

「…長い上につまらないし内容はないしハゲてるな。」

「タマ君。ハゲは言い過ぎじゃないかな…」

 メガネがタマをたしなめる。

「メガネよ。じゃあ、あれはハゲてないのか?」

「……ハゲてるね。」

「だろ?」

「タマ君、メガネ君。もう少しの我慢なんだから静かにしてよ。」

「じゃあフェミちゃんはどう思うんだ?」

「……ハゲてると思う。」

「人の身体的特徴をとやかく言うのは如何なものかと思うぞ。」

「テレちゃん。そんな事は分かっている。ハゲは悪い事ではないし、場合によっては魅力的にもなる。問題なのは『話が長くてつまらないハゲ』だという事なのだよ。そういう意味であの人はどうだ?」

「…話が長くてつまらないハゲだと思う。」

「だろ?君もそう思わんかね?」

 タマは近くにいた初対面の他校生徒に声をかける。

「…思います。」

 素直な子だった。

「タマ君。他校を巻き込まないで!ほら終わるよ。」

「……と言うわけで、がんばって頂きたい。以上。」

 

「ふ~。やっと終わったな。これからどうするんだっけ?」

「何も聞いてなかったの?くじ引きで引いた番号順にどんどんダンジョンに入るのよ。あなたたちは38番ね。ほら急いで!」

 丹澤慶子が急かす。

「はいはい。審判は?」

「タマ…逆に何を聞いていたの?入口で合流してそのまま入るの。それに『はい』は一回!!」

「ふぁ~い。」

 

 道の駅ダンジョンに続々と選手達が入って行く。第一は大分後ろの方にいる。

「第一は何番なんだろ?」

 フェミちゃんがメガネに聞く。

「どうやら80番代らしいよ。ちなみに高崎大雅高校は120番代だってさ。」

「メガネよ。良く覚えてるな。何チームいるんだ?」

「タマ君、180チームって言ってたじゃないか。今年は応募が250を超えて多すぎるから平均レベル30以下のチームは参加を遠慮して貰ったって。」

「そうか…何回勝てば優勝なんだ?」

 メガネに代わり丹澤慶子が答える。

「失格チームが出なければ8回ね。3日間でだから1日3回最終日2回って事…もちろん決勝まで勝ち進んだらの話よ。」

「ふ~ん。」

「カチンときたからブッ飛ばしたい気分だけど時間みたいね。皆行ってらっしゃい!頑張ってね!」

 丹澤慶子の激励に送られて第5ダンジョン部は審判と共にダンジョンへと入って行った。



「ちょ…ちょっと…君達…速…過ぎないかな…。」

「何を言ってるんだ中条(なかじょう)君!そんな事で審判が務まると思っとるのかね!?」


 中条靖(なかじょう やすし)、42歳、栃木県ダンジョン課職員である。ダンジョンでの職業はランサー、レベル73。

 今日は審判として県から派遣されて来たのだが、ダンジョンに入るのは実に16年振りというペーパープレイヤー(?)である。

 上司の命令で審判講習を受けてこの場にいるのだが、16年という歳月は彼の体を青年からオッサンに見事に出世させていた。その証拠に彼が必死についていっているチームは体育会系のチームではない『タマちゃんと愉快な仲間たち』なのだ。


「すいません中条さん!一番に着く気持ちで行くっていうのがウチの作戦なんでよろしくお願いします!!」

 一番小柄で一番装備が重そうなフェミちゃんに言われては中条も「はい」としか言えなかった。頑張れ中条!!負けるな中条!!


 そんな中条の体力が尽きようという頃、第5ダンジョン部はボスの間へとたどり着いた。実はタマの体力も尽きようとしていた事を誰も……いや、みんな分かってた。

「タマ、大丈夫か?」

 テレちゃんが心配そうに話し掛ける。

「あた…あた…あたり…前…じゃ、ないか…。4…40代の…オッサ…オッサンに負けて…たまり…ますかって…」

「フェミちゃん、メガネ。少しだけ休もう。」

 ダメみたいでした。フェミちゃんはコクりと頷く。

「そだね。3分…いや、5分休もうか。」


 タマの呼吸が整うのに時間にして1分もかからなかった。一方中条さんはまだゼェハァいいながら波打ち際のセイウチの様に横たわっている。若いってスゴい。

 作者もね、たまに若者と仕事する事があるワケよ。それでさ、体力的に同じように仕事してて違いなく出来るから「俺もまだまだ若いじゃん!」とか思ってると夕方近くなるとこっちはもう帰って横になりたい位なのに若者はこれから遊びに行こうって話してるワケさ。自分もそうだったな~…とか、思わず遠い目で空を眺めてしまう…。それにさ…え?ダンジョン?そうだった…いけねぇいけねぇ。


「よし!!行こうか!!陣形整えて!入った途端にテレちゃんはアンデッド召喚。相手がいたら先制攻撃来るからね。メガネ君は相手を分析して指示してね。」

 まだ足元がおぼつかない中条さんを最後尾にフェミちゃんとマー君が扉を開ける。

「!!敵がいる!防御姿勢で前し…」

 フェミちゃんの指示が途中で途切れる。その瞬間前衛組が爆発に巻き込まれた。


 何やら食らってしまったようだね。フェミちゃん、メガネ、そしてマー君は無事なのか?そして中条さんの呼吸は調ったのか?

 次回!!1回戦の行方!!……つづく!

 




 

 


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