第53話 お前ら誰だ!!なのです。

 栃木県那須町。福島県との県境の町である。古くから避暑地として別荘が並び、温泉、遊園地やサファリパーク、おしゃれなカフェやレストランがある人気の観光地だ。

 そんな那須町にある道の駅にある地下タイプのダンジョンが全高ダンにも使われるダンジョンである。

 第5ダンジョン部の面々は朝8時に道の駅に来ていた。第1ダンジョン部はまだ来ていない。

「遅いな~第1。」

 あくびをしながらタマは言った。

「早く着き過ぎたわね。8時半集合なんだから仕方ないわよ。私ちょっとあっち見てくるわね。」

 そう言うと丹澤慶子は地元の朝採れ新鮮野菜を販売している直売所に向かって行った。

「先生自由だな…。私たちはどうする?」

 テレちゃんは丹澤慶子の後ろ姿を見送りつつ皆に問いかけた。

「準備運動でもして身体を温めておこう。第1の事だから10分前には来ると思うから。」

 さすが部長。フェミちゃんの言葉通り第1はバスで10分前に到着した。

「おはようございます。待たせちゃったかしら?」

 鈴木会長はにこやかに話し掛けてきた。。後ろには男ABCとメガネ女子山内が控えていた。一通りの挨拶を済ます。

「あら?丹澤先生は一緒じゃないのかしら?」

 会長が聞くや否や直売所から両手いっぱいの野菜を抱えた丹澤慶子が小走りにこちらに向かって来ていた。

「いや~ごめんごめん。見てこれ!!こんなに買ってたったの2000円よ!お得だわ。」

 第5は慣れたもんだが、第1の面々はポカンとしている。

「先生。確かにお得ですけど、とりあえず挨拶と一言頂ければ…。」

 丹澤慶子より精神的に大人のメガネが促した…っていうか注意した。

「あ…そ…そうね。取り乱したわ。ごめんなさい。」

 丹澤慶子は急いで新鮮朝採れ野菜を車にしまうと咳払いを一つする。

「皆さん、おはようございます。今日は第1ダンジョン部一軍と第5ダンジョン部の練習試合を行います。メガネ君、懐中時計は持って来てるわね?」

「はい。」

「よろしい。第1は誰か持ってるかしら?」

「もちろんです。」

 鈴木会長が懐から装飾された銀の懐中時計を取り出した。高そう…いくらするんだろう?

「そう。じゃあ、メガネ君と鈴木さん、二人の時計を秒単位まで合わせてちょうだい。」

 メガネと会長は歩みより時計を合わせる。その距離が近いのでフェミちゃんが少し不機嫌そうだ。ジェラシーですねフェミちゃん。

「はいOKね。第1はどれくらいでボスの間に着くのかしら?」

「直行で1時間位でしょうか?」

「第5は初めてだけど、マップは覚えてるから一時間半あれば着くと思うわ。でも少し余裕を見て1時間40分後の10時20分にボスの間に入るって事で良いかしら?」

「了解しました。」

「じゃあ、受付して始めましょうか。みんな頑張ってね。」


 道の駅のダンジョンの内部は黒みがかった石で出来ていた。転んだら痛そうだ。

「さあ、遅れるわけにはいかないから急ぎましょう。早く着いて少し休憩出来る位がいいわね。」

 道の駅ダンジョンは中級ダンジョンだ。敵は今の第5ダンジョン部にとっては大して強くはない。撫でるように倒しながらボスの間へと向かった。


「早!!俺達もしかして凄く強いんじゃないのか?」

 ボスの間には一時間少しで着いてしまった。

「タマ君、全てはマップを暗記してるメガネ君のおかげよ。」

 フェミちゃんが冷静に答えた。自惚れんなよタマ。

「はいはい。全てはフェミちゃんの彼氏のおかげですよ。」

「な…そういうつもりで言ったんじゃないからね!!」

「彼氏って部分は否定しないんだな。」

 フェミちゃんは赤くなって黙り、メガネはそんなはずはないのに聞こえないふりをしている。

「おまえら面倒くさいな。もう付き合っちゃえよ。気を使うこっちの身にもなれや。」

 タマ、お前はもっと気を使え。

「タマ、『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って言葉知ってるか?」

「それ何だ?呪文かテレちゃん?」

「江戸時代の“どどいつ”だよ。他人の恋を邪魔する人はダメ人間だって意味だよ。」

 物知りメガネの豆知識だね。

「何でドイツ人にダメ人間と罵られなくちゃいかんのだ!?」

「タマちゃん、ドイツじゃなくて“どどいつ”だよ。」

 言っても無駄だぞハンクス。

「それに俺はキューピッドタマちゃんと呼ばれているんだぞ。現にハンクスの想いを丹澤先生に伝えてやったじゃないか!!」

「タマ、誰も呼んでないし…その…ハンクスはフラれてるわけだからな。ごめんハンクス。」

 テレちゃんは言ったものの申し訳なさそうに目を伏せる。

「むう…。だがな、テレちゃんもハンクスもそしてマー君もそう思うだろ?どうせイチャイチャするなら付き合ってもらってた方が…」

「さあ、時間だね。行くよ。10秒前…8、7……」

 メガネがタマの言葉を遮るように言った。

「チッ。時間切れか…終わったら決着をつけてやるぜ。」

 もう一度言うぞタマ『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』。

 タマの無駄話のせいで思うような休憩が取れなかった第5ダンジョン部はメガネのカウント0を合図にボスの間の扉を開く。僅差で先制を取られる事を想定して防御重視の構えを取りながら慎重に入室する。

「あれ?いない。」

 ボスの間にはまだ第1ダンジョン部は到着していない。

「メガネ君、時間は?」

 フェミちゃんがメガネに尋ねる。

「僕達は時間ぴったりに入ったはずだよ。」

「そう…。第1に何かあったのかもしれないね。」

「誰かのウ○コが長いとかかな?」

 一同ハンクスを見る。

「な…なんだよ~。」

 ウ○コといえばハンクス、ハンクスといえばウ○コなのだから仕方がない。

「まあ、先制が取れたって事で陣形整えて待ってよう。テレちゃんはアンデットナイトとソルジャー召喚しといて。」

 

 陣形を整え終わると同時に向かいのドアが開く。

「みんな!!来るよ!!」

 一同身構えハンクス、テレちゃんは攻撃魔法の詠唱を始める。

「いや~ごめんごめん。金沢のウ○コが長くてさ~…って、あれ?」

 入って来たのは見知らぬパーティーであった。年は同じくらいの男5人組だ。

「え?」

「え~と……」


「「お前ら誰だ!!」」

 ハモりましたとさ。


 何か想定外の事が起こってしまったようだね。どうするんだ?

 次回!!とりあえず戦ってみますか的な。………つづく!!


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