第45話 イルカを漢字で書くと海豚なのです。

「ねぇタマちゃん。今日は海で遊ぶの?それともどこか行く?」

 合宿最終日、朝食を終えた第5ダンジョン部の男達は荷物をまとめていた。チェックアウトはするものの荷物はホテルのフロントに預ける事になっている。

「すまんハンクス。テレちゃんと水族館に行く約束をしてしまったのだよ。それが終わったら海で遊ぶ予定だ。」

 失恋した矢先のハンクスには濁して言った方が良くないか?タマ。

「そ…そう。メガネ君は?」

「僕はフェミちゃんと水族館に行く約束してるんだ。」

 お前もかメガネ…。

「そう…。」

「ハンクスはどうするんだ?」

「ん?まあ、適当にやってるよ。」

「そうか。じゃあ、俺たちは行ってくるな。」

「うん。行ってらっしゃい。」


「チッ。」


「ん?何か言ったか?ハンクス。」

「ううん、何も言ってないよ。行ってらっしゃい。」

 ほら~。ハンクスやさぐれてるじゃんか。


「あっ。二人ともこっちこっち!!」

 水族館のチケット売り場にフェミちゃんとテレちゃんの姿がある。

「待たせたな。チケット買って来る。」

「僕も。」

「ちょっとメガネ君。」

 チケット販売機に向かおうとするメガネをフェミちゃんが引き留める。

「お礼なんだから私が払うよ。」

「僕は一緒に水族館に行こうって言ったんだよ。払ってなんて言ってないよ。」

 男前だなメガネ。

「じゃあ、お言葉に甘えて俺とテレちゃんの分も頼むな。」

 おい。

「それは却下だよタマ君。ほら行くよ。」

 メガネに促されタマもしぶしぶ販売機に向かう。


「お~!!サメカッコイイ!!凄いな~デカイな~強そうだな~。」

 水槽にへばりつきタマは悠々と泳ぐサメに目を奪われていた。お前は小学生か…いや、今日日小学生でもそんな反応はしない。

 入口を入ってすぐにメガネとフェミちゃんと別れテレちゃんと二人きりで館内を回っている。

「タマはサメ好きなのか?」

 呆れつつも優しくテレちゃんが問い掛ける。

「だって強そうじゃんか。強いモノに男は惹かれるもんなのだ。」

「じゃあ、丹澤先生にも惹かれるワケだ。」

「丹澤先生は物理的に強いだけじゃなくて…もっと精神的…いや、魂までをも打ち砕く破壊力のある強さだからな。先生ならサメにもライオンにも勝てそうな気がしないか?」

「それは…そうかもしれないな。」

 テレちゃんもそう思っていたのか?

 笑いあい、時折メガネとフェミちゃんとニアミスしながら二人は巡って行った。

「なあ、タマ。イルカのショーが10時からあるみたいだから観に行かないか?」

「おう。行こう行こう。イルカも好きだぞ。あのヌメヌメした感じ…そしてあの尖った口のオトボケ顔…たまらんね。」

「どういう見方だ。そんな風にイルカを見た事はないな…。早めに行った方が良い席で観られるから、もう行こうか?」

「そうだな。何か飲み物でも買ってくるからテレちゃん先に行って席を取っておいてくれ。」

「いや、私が買ってくるよ。タマが取っておいて。」


「おい。タマ。」

 ペットボトルを2つ持ったテレちゃんがタマに話かける。

「お~飲み物サンキュー。最高の席を取っておいたぞ。」

「って、メチャクチャ水掛かる所じゃねぇか!!」

「テレちゃんは分かってないな~。イルカショーの醍醐味はあの生臭海水を豪快に浴びる事じゃないか。でもまあ、テレちゃんにはこれを用意してあるぞ。」

 そう言うとタマはビニール製のレインコートをテレちゃんに渡した。

「お…おう。ありがとう。タマはちゃんと着替えはあるのか?」

「そんなもんはない!!後先考えないのが男気だ!!」

「それは男気を履き違えていると思うぞ。」

 もっと言ってやれテレちゃん。あ、ショーが始まるみたいだね。

「みなさ~ん。こんにちわ~!!」

「こんにちわ~!!」

  飼育員のお姉さんが挨拶すると子供たち、そしてタマが大きな声で返した。

「!!おい…タマ…あの右端にいるのって……。」

「ん?右端?あれ?何であいつが!!」

 そこには黒のウェットスーツを着たハンクスが立っていた。

「ハンクスだよな…。」

「ハンクス…だよな。」

 

 時間は少し前に遡る。

 タマ達が水族館に入った直後、ハンクスも水族館を訪れていた。他の魚や展示には目もくれずハンクスはイルカを眺めていた。

「イルカ~、聞いてくれよ。タマちゃんもメガネ君も酷いんだよ。もう少し気遣ってくれても良いと思わない?結構ダメージ受けてるんだけどな~。」

 一頭のイルカがアクリル越しにハンクスに近付きまるで「分かるよ」と言うかのようにコクコクと頷いた。

「そうか。君は分かってくれるんだね。ありがとう。」

 ハンクスがアクリルに手を付けるとイルカもそれに応えるようにひれをそれに合わせた。

 そんなハンクスを見つめる一人の男…門倉泰蔵(かどくら たいぞう)55歳。イルカの飼育員一筋32年、イルカの為に生き人生の全てをイルカに捧げた男。人は彼を「イルカと結婚した男」または「イルカ変態」と呼ぶ。

「そこの少年。」

 門倉はハンクスに声を掛けた。

「え?僕ですか?」

「そうだ。イルカは好きか?」

「え?は…はい。」

「そうか…。ついて来なさい。」

 その言葉に逆らう事なくハンクスは門倉の後について行った。

 そして今に至る…。えっ?説明が足りない?じゃあ、もう少しだけ続きを……って思ったけどしばらく更新してなかったし、文字数多くなりそうだから………つづく!!

 

 



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