第44話 恋はした方が良いのです。

「かんぱ~い!!」

 その日の夕食時、丹澤慶子がジョッキを叩き割る勢いで第5ダンジョン部メンバーと乾杯をする。危ないな…。

「みんなよくがんばったわね。タマ君のスキルがあるとはいえ、ここまでやるとは思わなかったわ。」

 言い終わるや否やハイボールを飲み干す。

「そして気付いた?レベル60のランクアップで属性が付いた事。フェミちゃんは聖にハンクス君は闇にメガネ君は雷、タマ君は…よく分からないけど…。ダンジョンでの今までの言動、元々の性格とかで決まると言われているわ。」

「ふ~ん。じゃあ、ハンクスは闇の心を持っている極悪人って事ですね。」

「それは違うわタマ君。闇は悪ではないのよ。私だって最初はソシアルナイトでレベル60でダークナイトになったんだから。」

「じゃあやっぱり闇は極悪人…」

 そこまで言うとタマは口をつぐむ。丹澤慶子から凄まじい圧力を感じたからだ。

「あっ。先生、鈴木会長から決闘…いえ、練習試合を申し込まれたんですが、どうしましょうか?」

「練習試合?那須の道の駅ダンジョンでかしら?」

「ええ、そうみたいです。」

 丹澤慶子は「う~ん」と少し考えた後2杯目のハイボールを飲み干した。

「いいんじゃない。やってみたら?対人間の戦い方は後でレクチャーするわ。まぁ今日はその事は忘れて楽しくやりましょう!」

 ただ飲みたいだけだろ?

「そうよ。文句ある?」

 ないです。


「ふぅ…。」

 宴の喧騒を離れて、フェミちゃんはバルコニーにいた。

「お疲れ様です。部長。」

「あ。メガネ君。今回は色々ありがとうね

。」

「今日で終わりみたいな言い方だね。合宿は明日までだよ?」

「明日は帰りの3時まで完全自由行動じゃない。終わったみたいなものよ。」

「いや、家に帰るまでが合宿だよ。」

「アハハ。メガネ君はやっぱり真面目だね。そうかもしれないけど、やっぱりありがとうだよ。何かお礼しなくちゃね。」

「いいよ別に。」

「そうはいかないよ。私の気が済まないもの。」

「じゃあさ…。明日一緒に水族館行かない?」

「……うん。」


「おいタマ。」

「なんだ?」

 海の幸を堪能しているタマにテレちゃんが話し掛ける。

「宿題ちゃんとやってるか?」

 タマの動きが止まる。

「ややや…やってるぞ!!」

「そうか…やってないか…。」

 バレました。

「勉強会の時に半分は終わらせただろ?」

「その節はお世話になりつつ酷い目にあいました。」

「あの拷問…教育装置なしで見てやろうか?」

「あの装置がなければ、めんどくさいがお願いしたい。あの装置は酷いんだぞ。あのビリビリのせいで肩こりは治るし頭は冴えるし…。」

「良い事しかないじゃないか。まぁ、元々健康器具だしな。」

「しかしタダって訳にはいかんな…。何か礼をせねばなるまい。」

「じゃあさ…。明日一緒に水族館行かないか?もちろんタマのおごりで。」

「うむ。それで手を打とう。」


 宴も終わり丹澤慶子はホテルのデッキで酔いを醒ましていた。…ビールを飲みながら。醒めるか!!

「先生。」

「ハンクス君…。もう遅い時間よ。部屋に戻りなさい。」

「まだ11時ですよ。子供じゃないんですから。」

「……高校生は子供よ。」

「……。」

 丹澤慶子はビールを一口飲む。

「言わなきゃいけないとずっと思ってたんだけど…ハンクス君の想いに応える事は出来ないわ。ごめんなさいね。」

「…そう…ですか…。」

「さあ。部屋に戻りなさい。おやすみなさいハンクス君。」

「…はい。」

 ハンクスは返事だけするとトボトボとホテルの中に入って行った。

「ふう…。」

 ハンクスの姿が見えなくなると丹澤慶子は深く溜め息をついた。

「もう少し…他の言い方はなかったかしら…。ダメね…教師としても女としても…。」

 そう言うと残りのビールを一気に飲み干した。


「むう…。」

 タマはうつむき唸っていた。眼下には真っ白なオセロの盤面がある。

「タマ君、もう止めようよ。」

「後一回!!後一回だけ!!」

「三回連続全取りなんて僕も初めてだよ。」

「なぜだ…。なぜ一枚も残らないんだ?」

 メガネが強いのかもしれないが、弱すぎるぞタマ…。

 ガチャリと音を立ててドアが開きハンクスが部屋に帰ってきた。

「ただいま!!オセロしてるの?僕もまぜてよ。」

「テンション高いなハンクス。何か良いことでもあったのか?」

「いやいや逆逆!!しっかり先生にフラれてきたよ。」

「そうか。それは残念だったな。」

「タマ君それだけ!?」

「いいんだよメガネ君。その位あっさりしてくれた方が気が楽だし。」

 無理に元気を出すと痛々しいぞハンクス。

「よし!!ハンクス、その気持ちをオセロにぶつけろ!!メガネを叩き潰せ!!」

「うん!!」


「むう…。」

 ハンクスとタマはうつむき唸っていた。眼下には真っ白なオセロの盤面がある。

「四回連続全取りなんて初めてだよ…。」


 斯くしてハンクスの恋は終わった。頑張れハンクス!!負けるなハンクス!!丹澤慶子を見返す程の男になってみろ!!

 無理だろうけど!!

 そしてメガネ少しは手加減しなさい。……つづく!!

 


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