一般的に目にすることが難しいと言われている、「命」と「心」について語っている作品です。一見すると重たい内容に見えますが、登場人物たちの成長を描きながら、これらのテーマを深く掘り下げていく様子が感じ取れました。
前半(第一部)では「命」と「心」の成長がテーマとなり、主人公の香澄ちゃんたちの苦労しながらも困難に立ち向かい、日々奮闘するお話です。スラスラと読み続けることが出来るその作風は、まさに作者さまの文章力の高さを象徴していると思います。
一方の後半(第二部)では、トム君の「心」の変化が大きなテーマです。トム君の内面の変化をたどりながらも、生きがいを失い「命」を軽んじるようになってしまった彼の「心」を、香澄ちゃんたちが手を差し伸べるという内容です。
私が読み進めた中での感覚としては、前半より後半部分を中心に、作者さまが本当に伝えたいことが色々と書かれている気がします。
長編小説の中でもボリュームが多い作品ですが、言い換えればそれに匹敵するだけの内容の濃さを堪能できる作品です。
アメリカの大学を舞台に、臨床心理士を目指す日本人女子大生の成長が瑞々しいタッチで描かれています。
その筆致そして文体と作風が、まるで読者に洋書の翻訳を読んでいるかのような気分にさせるのです。そしてそれが見事なまでに本作品の雰囲気と絶妙にマッチしているのです。
本作のテーマは、タイトルにもあるように「命」、そして「心」です。
奇しくもこの2つはハートを意味する概念であり、心臓とは似て非なるものであります。
この一見避けたいようにも思える重苦しいテーマに、作者様は心理学を媒介としながら真正面かつ懸命に描こうとされています。
登場人物表や舞台設定、専門用語への解説など本作品への真摯で丁寧な作り込みを見れば、読者にどうにか自分の思いを伝えたいという熱い気持ちが嫌でも伝わってくるはずです。
物語はまだ半ば途中ではありますが、一度読者として目が離せません。
臨床心理士を目指す主人公の香住は、そして心に傷を負ってしまったトーマス少年は、最終的に一体何を見出すのでしょうか。
読めば必ずや何かを感じるはずです。
命とは何か、心とは何か、一緒に考えてみませんか?
この作品を読み終えた時、実写化・映像化された洋画や海外ドラマの小説版を読んでいるような、どこか不思議な気持ちになりました。
「心理学」「命」「心」が大きなテーマで、第1幕では臨床心理士を目指す、女子大生の高村 香澄ちゃんが主人公、その友人マーガレット・ジェニファーらの成長が見どころです。肌に水が染み込むようなその作風は、まるで自分がその場にいるかのような気持ちにさせてくれます。
そして第2幕ではもう一人の主人公、トーマス・サンフィールド(通称トム君)君が主体となるお話です。トム君の心の葛藤や苦悩がテーマで、第1幕以上に内容が濃く、とても読みごたえがあります。時折涙を拭う場面が多いことも、魅力の1つです。
第1幕・第2幕に共通していると思ったことは、深層心理を詳細かつ丁寧に表現していることです。「命」「心」をテーマにしているためか、人の感情や内面を繊細に引き出すことを、作者さまが強く意識しているように思えました。
さらに世界観に合わせた詩が3つ登場し、作品の風景をより上品に仕上げていると感じました。専門用語や登場人物の紹介なども細かく書かれており、作品に対する熱意や情熱を感じます。
アメリカに留学中の香澄は、シアトルの名門ワシントン大学で出会った講師夫妻から、彼らが引き取ることになった少年の心のケアを頼まれます。
教育実習の一環として、不慮の事故で両親を失った少年のカウンセリングをしてみないかということでした。
香澄は友人のマーガレットとジェニファーとともに、少年――トーマスの面倒を見ることになります。
私は作者さまから、第2部から読んでも問題ないと仰っていただいたので、お言葉に甘えてそうさせていただきましたが、その言葉通り、つまずくことなくすんなりと読み進めることが出来ました。
その第2幕では、精神的にだいぶ回復されたと思われたトーマスの心の深くに残った傷と、それに対処しようとする香澄たちの姿が描かれています。
心理学をベースに、揺れ動く心を丁寧に追いかけた作品です。
そこで描かれる心模様は当然トーマスのものだけでなく、香澄やマーガレット、ジェニファー、そしてハリソン夫妻に至るまで、とても興味深く描かれています。
そして、外面的には元気になったトーマスですが、心の傷はかさぶたになっているだけで、なにか刺激を与えればそこから再び血が出てしまう。
11歳という多感な時期であることもあり、些細な言葉、小さな態度の変化を敏感に感じ取り、それが少しずつかさぶたを剥がしていってしまう。
そういう心の微妙なざわつきが、丁寧に綴られています。
そして、決定的なアクシデントにより彼の心に落とされた影が一気に増幅してしまう辺りから、物語が大きく動き出します。
心の置き場がなくなってしまった少年に残った唯一の希望が、彼を虜にし、「暴走」と言えるくらい大きな行動を取らせていきますが、
その感情がしっかりと読み手の心にも届いてくるからこそ、お話に吸引力が生まれていきます。
本当は平気ではないけれど平気な顔をしてしまう、
けれど自分で望んでそうしたはずなのに、それを信じて「きっと平気なんだ」と思われて、そういう態度を取られると、なんだか無視をされたような気がしてしまう。
そういう経験は誰もにあることで、だからこそトーマスの心に寄り添いながら読むことができるのだと思います。
今回、コンテスト期間までに読み終わらないかもしれないと思ったので第2部から読ませていただきましたが、
第1部も遡ってしっかり読みたいなと思わせてくれる作品でした。
臨床心理士を夢見る女子大生の高村香澄、そして両親が他界したことで生きがい・夢を無くした少年トーマス・サンフィールドの出会いを描いたヒューマンドラマです。
「命」「心」が大きなテーマとなっているため、登場人物の心の変化を繊細かつ丁寧に描いています。「心理学」がベースとなっていますが、知識のない素人の私でも問題なく読み進めることが出来ました^^
そして最大の特徴や魅力が、ドラマチックかつ空気感を大切にしているということです。
他の方の感想でも述べられていますが、この作品は日本小説よりも海外小説に近い作風です。ボリュームこそ多い作品ですが、書店で読む本の内容・パソコンを使って作成するレポート内容がそのまま紹介しています。
舞台となるワシントン大学となっているほか、レイクビュー墓地やオレゴン州ポートランドなど、アメリカでも有数の観光名所が何か所も登場します。
複雑に絡み合ったこれらの特徴が見事に調和しているその作風は、まるで作品の中で起きている出来事を読者が疑似体験している、という感覚になれると私は思いました^^
主人公の香澄は担当教授の依頼で、ある少年のカウンセリングをする事になった。
しかしその少年は心に深い傷を負っていて、香澄や友人達は試行錯誤しながら自分達なりに少年との距離を縮ませていく。
この作品は『命』『心』等といったものをテーマにしていますが、暗く重苦しい雰囲気では決してなく、本筋は日常的な風景の中で進んでいきます。
しかしこの日常的な風景であるからこそ、テーマである『命』という言葉が胸に刺さってハッとさせられる。
この物語はそういうものだと、序盤から察する事ができる程流れるようなストーリー展開です。
一番身近で、それでいてあまり意識する事のない『命』の存在。
自分のものであるはずなのに、時々わからなくまってしまう『心』の行方。
誰もが経験してもおかしくない心の病。
それを鮮やかに且つリアルに、何も余計な事がない文章表現で綴っていると思います。
是非御一読下さい。