突如やってきた来訪者

 オレゴン州 サンフィールド家の自宅 二〇一四年六月四日 午前一時〇〇分

 僕はもう……死んでしまったのだろうか? それともまだ……生きている? そんなことさえどうでも良くなるような気持ちの世界を、僕は風船のようにゆらゆらと漂っている。

 僕の未来と過去は、一体どこで狂ってしまったのか? 時計であればネジを回せば、間違った時を刻んでもすぐに修復可能だ。

 しかし僕が理想とする世界には、数本のネジが足りない。そう……たった数本のネジを無くしてしまったために、僕の夢と道程みちのりは狂い……そして音もなく崩れ去ってしまう。

   

 目の前に光が吸い込まれていく中でトーマスがふと眼を覚ます。意識を失っている間の出来事だったが、不思議なことに自分が何を見て何を感じたのか鮮明に覚えている――これも亡き両親が残した、愛する息子トーマスへの愛情なのだろうか? それともリースとソフィーを強く想うトーマスの純粋な心が、奇跡をおこしたのだろうか? 

 しかし鮮明に記憶がはっきりしているからこそ、心の孤独は一層深くなってしまう。

「僕、これから一体どうすればいいの……」

まるで壊れた人形のような状態のトーマスを、突如大きな物音が襲いかかる。

「な、何……今の音は!? ま、まさか泥棒!?」


 物音は少し遠くから聞こえてきたことから、“この家に誰かが侵入したの?”と思うトーマス。だがふとした偶然から生きる気力をわずかに取り戻したトーマスは、客間からそっと耳を澄ませてみる。

 すると足音が少しずつ大きくなり、自分の方へ向かってくる気配を感じる。トーマスはとっさに、どこか隠れる場所がないか一心不乱になっている。

「ど、どうしよう。子供の僕じゃ泥棒に勝てるわけないし。どこかに隠れないと……」

 するとトーマスの目には火をくべるための暖炉が留まり、この暖炉が二階の空き部屋につながっていることを思い出した。

「そ、そうだ……確かこの暖炉を上がると、二階の空き部屋へつながっていたはず!」

 わらにもすがる思いでとっさに暖炉に身を隠したトーマスは息を殺しつつも、謎の足音の正体を探っている。

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