小説と批評の関係

 文学論とか文学批評というものが、袋小路の頭打ち状態に陥ってかなり長いんだそうです。囓り読みした何かの書物にそう書いてありましたが、その書物自体がまた茶色く変色してるものだったりするので、こりゃそうとう停滞しているということなのでしょうかね。ポスト構造主義から先のヤツ、聞かないけど出てんでしょうかね。


 えー、今回のは観測報告や私的感想を超えた、私見で語らせて頂きます。


 文学批評というものについては、私見としては「ものさし」程度の理解です。作品そのものだけではよく解らない時に、分解してみる、あるいは試験紙を使って分析を試みる、理解を助けるための道具、それだけのものと考えております。


 作品は確固としてそこに存在し、これの正体を探る手法としての批評が付随してあるのだから、変化すべきは批評論の方であり、ものさしに作品を合わせるが如きは本末転倒と考えています。そのものさしで測れないならものさしが違うのです。


 作品は作者のものなのか、読者のものなのか、という古い問題提起がございまして、これに対する私のスタンスも明快に決まっております。作品は独立独歩。テキストとしてカタチを為してしまった以上、作者の頭から抜け出した時点でそれはどこにも属せず、例えば読者がそのテクストを読んで解釈を与えるならば、それは二次創作の域を出ないものでしかない、という立場。


 つまり、批評は新たな読者が新たに”対象作品の解釈”という二次的作品を自己の内に創造するための補助的道具であり、批評自身もまた二次的作品の一つと数えるべき存在である、ということです。作者の脳内から解き放たれた原本作品は、実際には脳内にある原本の写しですらなく、これまた原本を元にした二次創作になります。脳内から原本は一歩たりとも出てはこず、これは批評などの二次的作品群にも言えます。


 テクストは、原型を写してはおらず、原型は比較も伝達も不可能な存在ゆえに、この写しであるテクスト作品というものの出来不出来もまた論じることは出来ません。ただ延々と、新たな”対象作品への二次的創作”としての解釈なり、批評なり、応用作品なり、感想文なりが生成されるばかりです。


 言語の性質上、100%の伝達は不可能なのだから当然でしょう。テクストを幾ら推敲しようが、思考は常にその先を行くのだからこれを超えて完成に到達することもまた不可能です。なので、テクストは不完全が常態となります。不完全でのコミュニケーションで相互が完全な理解に及ぶことはまずないので、作者と読者それぞれの解釈にしても一致するわけがない、というわけです。


 そのような状態において正確な分析が行えるはずはなく、俎上に上がるのは常に二次創作物であり、作者の脳裏に描いていた作品でもなければ、読者が解釈した作品でもありません。その解釈もまた言語に翻訳された時点で自動的に二次化され本来の姿からズレるからです。そうして、言語を介した伝言ゲーム的に二次創作物としてのテクストが連なっていくだけの現象の中に、小説と批評は同列に存在するでしょう。


 優れた小説と同等に、優れた批評には文学的価値があり、批評自体もまた作品として批評という二次創作に値する価値が認められ、果てなきテクストのサイクルに組み込まれていくのだ、という




 持論、です。(笑


 ほれ、言語はそもそもコミュニケーション手段で、正しく、コミュニケーションとして、それ以上でも以下でもない機能を果たしている、という理解ですね。


 優れた小説、優れた批評、この基準点はどこにあるのかといえば、これは個々人で違いますので厳密に定義することは不可能ですが、偏差値的な位置そのものは推測で割り出すことが可能です。分布を見ればよろしい、という話なので。ただし、この分布も社会情勢や民族性、はたまたグループ化した構成員の平均的価値観などで千差万別に分かれるものであり、相対的な基準にしかなり得ませんよね、と。


 あなたにとってはそう、あるいは、あなた方にとってはそう、という程度の偏差値ですが、サンプル数を大きくしていけばかなり正確な位置づけも測れるはずです、理論上。(笑


 まー、アレです、魅力がなければそのテクストの二次創作は生まれません、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る