【追加記事】三人称を使う時の注意【重要】

 三人称といえば、「三人称・多視点」とか「三人称・一人視点」とか「三人称・神視点」とか、同じようなので、一人視点と似た「一元視点」などがあります。


 よく解からないものは使わないのが一番、というのは基本、セオリーです。


 この中でいうなら、神視点、一元視点、多視点、という順でよく解からなくなります。人称問題は、立ち位置と立場がややこしいのです。

 私はこれを理解するのには、まんま、映画を持ってきます。地の文をカメラと捉えることで、まず大前提としてカメラに人格を認めないものとし、これにより登場人物の内面をあれこれ考えることを禁じます。

 これは名高い「マルタの鷹」の、完全版ハードボイルド文体と同じです。一切、登場人物の内面に触れられることはありません。視覚情報、聴覚情報、嗅覚情報といった、現実にも人間が感知しえる情報のみで構成され、第六感やナレーター的な心情描写という作者側の補助説明文は入りません。筆者はカメラの立場を取り、冷徹に、ただ事象だけを捉えて描写し、作者自身も一切の感情を文章に混ぜないというスタンスです。なので地の文は非常にクリアです。これがリクツとしても一等、筋が通っています。私はこれをベースとして三人称を捉えています。(その上で一人視点として、主役の心情だけプラスにしています。)


 よく問題にされたのは、「~のよう」という比喩のことでした。この、~のようだ、と感じているのは誰なのだ、という問題だったのですが、昨今ではもっと下へ下がって心情描写をどうのこうの、という問題になっているようです。


 現実に即して、我思う故に我あり、というようにまず一人称から見ていきましょう。「私」から見た世界や事件や物語、これをそのまま記述するのですから現実にも沿っています。

 そこから客観視する私が出てきます。ワトソン形式もこのカタチです。吾輩は猫である、も途中からこれに移行して、文学構成というものの深淵を見せる形式らしいです。構成の中に張り巡らされた暗喩や意図、ルールが、批評家の手によって鮮やかに解析されているものを一度は目にするべきでしょう。


 ワトソン形式の「私」という傍観者がさらに発展します。私は物語に登場しなくてもよい、そこで伝聞形式になります。聞いた話だが、との前置きが抜かれることで、それは三人称の原型ともいうべきカタチとなります。

 誰かが聞いた話なのです。だから、現在も過去も結末すら、書き手は知っています。「聞いた話だが」がすっぽ抜かれたものなのです。だから、人の内面を書く時には「~と、思っていたそうだ。」となるわけです。


 しかし、ここでまた問題が出ます。それでは全てが過去形、終わった話の体裁でしか語れません。現在進行形の緊張感はないわけです。三人称はあくまで他人事を語る形式からの出発ですので、迫真というのとは相性が悪かった。

 今、現在の話としたなら、目の前で起きている事柄をリアルタイム実況している、という体裁になるでしょう。そうなれば、内面はリアルでは見えない。、「~と思った、」という内面のことも解かるのです。


 そもそもで古代からの神話だとか民話だとかの物語形式と分離して、小説として整備されていく際に培われていった「ルール」です。これが滅茶苦茶でもお話は作れます、実際に神話や民話はそうだったのですから。だけど、それは物語であっても小説ではないのです。小説のルールは、実は非常に論理的だったりしますので、だからこそで、批評解析ということも可能となるのです。


 現在、小説の書き方はかつてほど煩くは言われなくなりました。読者が混乱無く読めればナンデモアリです。読者というのも千差万別ですが、標準のルールというものが脈々と受け継がれており、これを守っていればまぁ安全パイだという程度の感覚でいいと思います。標準ルールを外れるほどに、読者の数が減るだけのことです。



 余談。


 三人称一人視点と一人称はよく似ていると言われますが、明確に違いはあります。一人称は「私」が基準ですが、三人称は「伝聞」ですから。ナゾナゾだよ♪


 叙述トリックで一人称が使いやすいのは、一人称が恣意的な文体だからです。本格推理は三人称が多い印象ですが、それもやはり公正性ゆえでしょう。報道文に近いのです。立場の違いが、一人称と三人称一人視点では明確に違います。

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