端折りレベルに気をつけるべし

 えー、カクヨムじゃない某SNSをちょいと覗いてみたら、偶然にも某小説賞に出したという作品にめぐり合えまして、ちょろっと覗きました。なんで落ちたか解からない的な発言。うん、ほんとに1~2ページしか読んでないけどね、たぶん、その端折りの度合いが過ぎているからだと思うよ、て感じで。ある事が出来てないの。


 私は長い間、この端折りというのに苦しめられてきまして、未だに苦手です。自分の書いてる作品がとにかく端折りが激しいという自覚がようやく出来て少しはマシになったかという具合ですわ。何度も何度も改稿して、都度で読者レベルを変えて、端折りのチェックをしています。


「端折り」と、<受け手>を選定するってのは、まるで違いますから。


 内輪ウケ小説に成り下がるか、ちゃんと世間の標準にマッチした小説になるかは、この端折りのコントロールで決まります。


 <受け手>ってのは、世間の色んな読者のど真ん中です。警察のクライム小説でも、経済小説でも、そんなもんまったく馴染みがない読者だって、読んでみて「冒頭から意味が解かんない、」というような書かれ方はしていません。某SNSで見たような、いきなりチンプンカンプンなんていう冒頭の出だしはないでしょうよ。


 例えば時代小説。鬼平犯科帳とか名作ですけども、ちゃんと火盗改めがどういう役職か、なぜそれが必要になったか、舞台がどういう時代背景で、どういう風土で、という辺りはしっかり描かれています。必要最低限で済むように、時代劇などでポピュラーな江戸時代にしているし、もう一作の剣客商売では田沼意次を登場させていて、これなども出来るだけ読者が知っている範囲に収めようという工夫の表れですわ。


 創作物で新撰組が人気なのも、それだけ彼らがポピュラーだというのはあるんですね。読者層を選ばねばならないとはいっても、他を篩い落としていくような態度は感心しませんです。

 いくらポピュラーな題材を選んで、時代劇で新撰組でと気を利かせたところで、歴史にあんま興味ない層はスルーしますわ、経済モノ選んで少しは解かるようにとサブプライムを絡めて汚職とか題材にしても、興味ない読者はスルーします、そういう読者は最初から読者層ではないと刎ねていけ、と言ってんです。


 読者層を絞るというのは、内輪ウケにその界隈の通だったら解かるように書けばセーフ、という意味ではありません!


 私が書いたハーレクイン系の作品、『猫かぶりと黒いダイヤ』も、時代は産業革命時のイギリスですわ、教科書で見たでしょ?て舞台です。ナポレオン登場でゴタゴタした後くらいですわ、文化的にはベルバラの延長ですんで絵面は想像しやすいトコを選んでいます。ベルバラ準拠だったら、映像的にはポピュラーなんですね。それの貴族社会とかですから、認知度のど真ん中から少しだけ外れたトコ狙い。


 これが想像しにくい時代だったら困るんです、特に文字だけの小説ってもんは。テンプレほど露骨じゃないけど、イメージをお借りしてくるのは多少はやった方がいいのよ。だって読者には解かりやすいのが一番だもん。


 ここの感覚を、アニメや漫画の感覚と混同してしまっている作者さんって割と多いです。一発一枚絵で済ませられる視覚メディアと区別しなきゃいけない最たる部分なんで、ここの感覚がしっかりしてないと、文章以前なんですね。

 で、読者の多くがイメージを持ってなどいない未知の対象物を、自分と同じに思っちゃって、説明も詳細描写もなしに、知っている前提で、読者に認知してもらうとこを端折って登場させちゃうんですわ。


 あるあるなのが、歴史上の人物ね。よほどの有名人くらいよ、一般の読者が知ってる歴史人物なんか。せいぜい現代までの二千年くらい通しても100人くらいじゃない? 教科書に登場した人物ですらアブナイってのに、自分が知ってるから皆知ってると思いがちな最たるトコロです。ご注意。


 特に冒頭部には、誰でも知ってるだろうことしか書けないと思ってください。ゲームのBASARAでちょっとは知名度上がったけど、土佐の長宗我部元親って言っても全国的な知名度はまだまだと思っといた方が無難なのよ。下手すりゃ「土佐ってなに?おいしいの?」なんて答えすら予測できるんで。(よほどですが)

 この人を出すなら、まずは誰でも知ってる豊臣秀吉から始めるか、薩摩攻め自体は知られてなくても薩摩というネームバリューは周知なので、そこから始めるとか、四国を統一した武将で開始するか、何か工夫が要るってことです。

 あるいは戦国も武将も離れてまずは人間的エピソードをでっち上げて普遍的な魅力に訴えて興味を引くか。(誰だったかの小説はいきなり、庭でしゃがんでた奥さんをデカイきのこみたいだなーなんて感想を抱くトコからはじまる)


 何らか、現代の読者の持つ知識とその物語とを繋ぐ工夫が必要なんです。一足飛びに見知らぬ誰かや世界観に飛ばされても、読者はチンプンカンプンです。



 そんで、テンプレ的な内輪小説ばかり書いている作者さんに足りなくなるのは、こういう工夫の経験値ね。すごく認知度の高い物語の二番煎じしか書けなくなるよ。

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