描写の構築②

 小説の文章は、カメラワークでいうズームとパンがあり、描写というのはズームに当たります。プールもプールサイドの床もそれを囲う金網やら壁やらも一緒くたにサクッと『〇〇市の市民プールだ。』で済ませちゃったら、パンということで。全景を一度に映してしまうということですね。


 ズームというのは、まずどこに焦点を絞って、次にどこをクローズアップして、といった「映す順番」を考えますが、描写も同じでどこから書き始めるかがあります。

 市民プールに来た。から始めて詳細を描写、というのはつまり、パンで全体映してズームに移行ということです。これが文章の構成となります。


 物語レベルでエピソードをどう順序付けて書き記していくかを管理するのと同じに、一文ごとでもやるわけです。


 では、プールの水面から描写すると仮定します。


 真似の癖がついていて、重症な人だとここで、『水面がキラキラと光っている。』とか平気で書いちゃいます。冬のプールです、別にキラキラしててもいいけど、ふつう読者にとってそれは夏のプールのイメージじゃないですか?

 定型文でよくある文章なのですね、プールであると伝わればいいとか思っているんで、そのまんま、伝わるだろうで使ってしまったわけです。確かに伝わってますよ、違和感コミコミでね。


 同じ要領で『水中は藻が大量発生して底が見えない。』とやっちゃう。水面がキラキラしてて、だけど水質はサイテーだ、てのはまぁあるでしょう、ありますけどもね、書き方ですわね。


 水面がキラキラしてりゃ、透明で綺麗な水を湛えたプールを連想しますわね、それがひいては夏のプールの涼しげなというイメージで、定型でよく使われる表現ですんで。藻が発生して底が見えないも同じく定型で、こっちは汚れたプールの表現としてよく見る文言です。その性質とか、文の与えるイメージまで理解して綴っていないからチグハグになるわけです。伝わればいい、で処理するから。


『水面がキラキラと光っている。水中は藻が大量発生して底が見えない。〇〇市民プールは冬の底冷えで凍りつき、傍に立つ〇〇は寒さに震えるかじかんだ手を擦り合わせながら襟を立てた。』


 チグハグ文の連鎖チェーン組んでみました。ザ☆違和感ツムツム。


「キラキラと」とかの形容詞だとかを、なんとなくの響きだけでくっつけたりしてるから、波及効果で他の文章とバッティングしていても解からないんです。

 読者が、その一文をどう捉えるか、世間一般のイメージではどうなのか、但し書きは必要ではないか。細心の注意を払って文章を綴っていても起きる事柄ですので、伝わればいいなんてズボラな扱いでは頻発するのがむしろ当然ですよ。


「役不足」だとかの言葉は世間でも間違った意味で覚えている人が大量に居るわけですから、もはや説明なし、フォロー無しでは使えない単語になったってことですわ。説明無しでも万民に通じるとされる一般常識からは外れたわけですから。

 標準漢字とかと同じです、第二標準に落ちたからそのまんまじゃ使えない。ルビが要る、と。間違ってる方で使うのは考えものですけどね。


 違和感ツムツムの連鎖箇所、答えは解かったでしょうか? 伝えたいことが何なのかはなんとなくでも解かるでしょうから、脳内補完で「ああ、こう言いたいんだな、きっと。」てな感じにセルフでトラブルシューティング掛けていけば、読めないこともない文章ですわ。


 脳内補完にも限度がありまして、個人差ありますんで、どんだけレスキューソフト動かしゃいいんだよ!となった読者から順に離れていく、というわけであります。

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