「小説の書き方」二種のアプローチと特殊ジャンル

 小説は「人間を書く」と言われますが、その方法はざっくり分けて、「深堀りしていく手法」と「外堀から埋める手法」との二つがあります。

 文学は典型的に深堀りタイプで、ラノベは典型的に外堀タイプです。当て嵌まらない作品も数多くありますが、イメージ的にはそうです。


 深堀りは一人の人間にスポットを当て、深く深く掘り下げて書きます。およそ、その一人だけで終始することさえあります。

 外堀はストーリーの中で動いている姿を見せて、結果論で人間を書きます。全部読んで漠然とその人間が解かる感じです。


 どちらも人間を描くことに違いはありませんし、両方が混ざっていることも多いのですが、極端に偏らせることで別の項目に着目させやすくなります。推理小説などはこれを利用して、人間ではなく事件やトリックに読者の興味を向けさせています。なので、かつて推理小説は小説ではないなどとも言われました。人間を二の次に置いたからです。推理小説はだから特殊なのですね。

 ホラー小説も推理同様に人間は二の次で恐怖を主題にしています。SF(サイエンスフィクション)も人間よりも科学を書きます。


 私には解からない事がありまして、上記の理屈だと、ファンタジーとサイエンス以外のSFで、人間を押しのけてまで書こうという、その主題は何になるのでしょう?


 もし、人間を押しのけるまでもない、他の主題が無いのなら、やはり書くべきは「人間」という事になってしまうのです。人間を書くのか、それ以外を書くのかで、アプローチやレトリックは随分と違ってきてしまうのですねぇ。

 推理小説だと、トリックが主題であれば、人間はそれこそただのガイドキャラでもいいんです。RPGゲームにおけるNPC程度にしか書かれなくていいんですね。新本格の作品などは多く、その登場人物にはあんまり記述が割かれていませんが、それは新本格というジャンルはトリックをこそ主題にしているから、という事なのです。


 推理とホラーとサイエンスSFは特殊として、他のジャンルではやはり人間を書くことが主軸になります。なぜ、推理など三つのジャンルが別格になるかと言えば、それだけの読者層を獲得したから、という理由になります。

 そもそもは人間を目的に読む読者しかいなかったところへ、トリックを目当てにする作品を、あるいは恐怖を目的に読む作品を、浸透させていったということです。なので、これら作品での人間がまったくのお人形で書かれていたとしても、別段文句は出ないのです。主従が逆転したから、特殊ジャンルなのです。

 一般の人々の間でも、推理やホラーでは、人間が書かれていないという批評の方が的外れだというくらいは浸透しています。そのくらいの知見を獲得して初めて、ジャンルが成立するということです。


 なので、今でこそ小バカにされる向きのあるテンプレ小説だったりケータイ小説だったりも、読者層がしっかりと根付けば立派に一つのジャンルとして定着します。しかし、これらを他のジャンルと違わないとか言うのは完全に間違いですので、それだけは容認できませんね、私は。完全に特殊ジャンルではないですか。


 特殊ジャンルには、それぞれのルールやレトリック、アプローチの手法があります。一般的な「人間を書く小説」とは違ってくるのはむしろ当たり前ですよ。


 その作品の主軸がどこにあるのか、この見極めは大事です。軸が人間にはないとなれば、評価そのものがズレてきたりします。描写を丁寧にする意味も変わってきますし、構造そのものも意図が変わるのです。


 推理小説のファンはトリックを目的とする読者が多いでしょう。なので、いくらキャラクターが魅力的でも、トリック自体がテキトーだったらその作品は駄作です。書籍化も結構ですが、推理の看板など外してしまわれてはどうか? こういう逆転現象の末に、サイエンスフィクションは行き詰ってしまった経緯があります。

 サイエンスは今や、専門分野すぎて一般人には遥か遠い世界の出来事になりましたから。説明出来る範囲を超えてしまったのです、サイエンスを主軸に置くとネイチャーなどの専門誌と変わりがなくなってしまいました。

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