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 照子は両手を使って一生懸命になにかを引っ張っている。澪は無言のまま照子の行動を観察して、……記録する。こうして自分の見ているものを記録することが澪の役目の一つだった。夏のことだってずっと監視していた。その役目を今も澪は忘れてはいない。澪はあくまで観察者なのだ。現実の物事には、できるだけ介入しない。(それができるのはプレイヤーである人間だけだ)


 ……あれはなんだろう? と澪は思う。どうして照子がここにいるんだろう? (もちろんいてもいいのだけど)そんなことを不思議に思う。そうか。照子って、こうして一人で動けたんだ。

 ……すごいな。すごく頑張っている。

 照子はあんなに一生懸命になってなにをしようとしているんだろう? 澪の思考の間にもぺたぺたという照子の足音とずるずるという照子がなにかを引きずっている音は途切れることなく、ずっと澪の耳に聞こえ続けている。

 照子は時間をかけてゆっくりと移動して、澪のいる画面の前まで到着した。そこで音が途切れて世界は無音になった。照子がじっ---、と一つだけの青色の瞳で澪を見つめる。澪もくるんとモニターの中で体を一回転させてから、照子にじっと注目する。(モニターがやや高い場所にあるので、小さい照子との身長差で、二人の視線は斜めに交差している)そのときになって澪はようやく照子が引っ張ってきたものが、『木戸遥』であることに気がついた。遥は眠っているのか、まったく動いたりしない。……まるで壊れた人形のように、床の上でじっとしている。


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