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 澪が戸惑っていると、シェルター室のドアが外側から開いた。澪はその音に一瞬で反応してドアを見つめる。遥かな? と澪は思う。しかしそこに立っていたのは遥ではなかった。そこにいたのは『全身を真っ赤に染めた』木戸照子だった。

 照子の顔は真っ赤。長くて白いはずの髪も真っ赤。照子の白いワンピースのような服も真っ赤。白い手も足も真っ赤だった。

 照子の目は片方が開いていない。そこにある青色は一つだけだ。照子の額からは血がどくどくと流れている。(照子は額に怪我をしていた。その怪我はどうやら壁か床に、頭をぶつけたときにできた傷のようだった。きっとシェルター室までの移動中に壁にぶつかったか、床の上で転んだりしたのだろう。意外と大きな傷だ。血の量も多い。でも明らかにそれは照子の全身を真っ赤に染め上げることができるような血の量ではない)その血が照子の片目を塞いでいた。


 澪はそんな照子の姿をじっと見つめる。照子もじっと画面の中にいる白いクジラの姿を眺めている。少しして照子が部屋の中に足を踏み入れる。照子がシェルター室の中に入ると自動で後ろのドアが閉まった。照子はそのまま足を止めずに部屋の中を移動する。ぺたぺたという照子の足音のほかにずるずるという変な音が聞こえる。真っ白な床の上に小さな赤色の足跡と一緒にべったりとした太くて長い真っ赤な線が描かれていく。それはまるで赤い小川のようだった。

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