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夏はそれだけを考えながら激しい赤色の点滅と大音量の警報音が鳴り響く異様な世界の中を駆け抜けていく。それは夏がこの地下に広がる異常な世界から抜け出して、地上にある正常な世界へと戻るための歩みだった。そのための道は確かに夏のために用意されていた。このままずっとあの遠くに輝く光に向かって走っていけば、……夏は、瀬戸夏は、確かに彼女は救われるはずだった。彼女は幸せになれるはずだった。(それは嘘ではない。そのために木戸遥はこの二日間、計画を練り、実際に行動してきたのだ。それはすべて自分の最愛の親友である瀬戸夏のためだった)
……しかし、そんな希望に満ちた夏の足は数歩駆け出したところで再び止まった。夏は自分がとても遠くまで走っていたような気がした。しかし、自分の幸せな空想の世界から過酷な現実の世界に戻った夏は自分が先ほど立ち止まった場所から(遥の部屋のドアの前から)数メートルも先に進んでいないことに驚いた。すべては夢。すべては幻であり、あらゆることが(自分の存在も含めて)空想の世界の中で起こっていた出来事のようにすら思えた。(夢の中で蝶になる、胡蝶の夢というやつだ)自分は数秒間、夢の世界の中に紛れ込んでいたんだと夏は思い、現実を錯覚した。そんな夏の夢を覚ましたものは研究所の床の上にある、夏の足元の異変だった。
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