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 夏は反復行動を繰り返し、ドアにぶつかる。何回も、何回も。でも、いくらぶつかってもドアは開かない。夏の左肩は麻痺している。(もう痛みも感じない)その下にある左手の感覚もあんまり感じない。開かない。……なんで? なんで開かないの? あんなに簡単に開いたじゃない? どうして今は開いてくれないの?

 息を切らせて、激しい呼吸をしながら、夏は思う。赤色の点滅が無性に癇に障った。激しい警報がむかついてたまらなかった。(……もしかして私の気持ちが弱いの? こんなに思っているのに、思っているだけじゃ、……だめなの? 願いだけじゃいけないの? 強く思うだけじゃ、それはどこにも届かないの?)

 夏は少しだけ、泣きべそをかいている。それは痛みからくる涙じゃない。孤独からくる涙でもない。ただなにもできない無力な自分に対する悔しさから発生した自然な涙だった。自分の世界で一番大切な友達を助けに行くことすらできない弱い自分に対する情けない後悔の(あるいは神様に許しをこう懺悔の)涙だった。

 だけど、泣いたくらいじゃ奇跡は起きない。奇跡は自分の命をかけてこそ、起こせるものだ。(それは遥の言葉じゃない。それは遥を探す旅の途中で見つけた夏自身の言葉だった)

 夏は涙を拭って、きっ、と開かないドアを睨みつけた。

(言葉を見つけて)強い気持ちが夏の中に戻ってくる。(それができるくらいには、夏は遥を探す旅を経験することで、強くなったのだ)

 夏は気持ちを落ち着かせて、冷静に今の状況を分析する。

 気持ちに余裕が戻って、再び肩の痛みや体のあちこちに痛みを感じるようになった夏は、そのずきずきという痛みを感じながら、初めからこんな風に冷静に考えればよかった、とそんなことをふと思った。

 冷静になった夏の思考は、まるでドームの外に降る雪のように白く冷たくなっていった。

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