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 気がつくと瀬戸夏は空の中にいた。(無限に広がる青色の空の中だ。真下には真っ白な雲の海が広がっている)そうか、これは夢だ。その事実をすぐに夏は理解した。何故なら夏が自由に空を飛ぶことができるのは、いつも夢の世界の中でだけの話だったからだ。夢の世界でなら安心して生きることができる。安心して笑うことができる。夏はいつもそうだった。ここは現実じゃない。(ここでは私は瀬戸夏じゃない)この世界では私は、もはや瀬戸夏ですらないんだ。(瀬戸夏を演じる必要はない。彼女の責任を、彼女の義務を背負う必要はないのだ)

 ここでなら私は瀬戸夏をやめることができるんだ。ただの私で居られるんだ。それが素直に嬉しかった。ずっと背負っていた重い荷物を下ろせたみたいだった。(実際にその通りなのかもしれない)一枚の羽のように体が軽い。下から吹き上げてくる風がすごく力強い。青色の空の中を夏は思う存分に泳いだ。(青色は夏が一番好きな色だ)とても気持ちいい。なにもかもが奇麗だ。なにもかもが輝いている。現実の世界とは大違いだ。

 自分も子供のころは、ずっとこの世界の中で生きていたのかな? 夏が忘れてしまった夏。……もう世界のどこにもいないかわいそうなあの子。居場所のない子。ずっと泣いている小さな女の子。あの子はどこにいってしまったんだろう? もしかして、この空の中に溶けてしまったのかな? そうなのかもしれない。あの子は空の中に溶けてしまった。夏から離れて行ってしまった。

 消えてしまった。

 あまりにも空が綺麗すぎるから、そんな空の青色に憧れて、あの子も空の青と同じ青色になってしまったのかもしれない。そういうことはよくあることだった。夏にはそれがわかる。伊達に十五年間も生きているわけじゃないのだ。伊達に十五年間も夢を見続けているわけではないのだ。

 夏はにやっと笑う。それから、うーんと空の中で体を大の字に伸ばした。ぽきぽきっと骨の鳴る音がした。(すごく気持ちがいい)

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