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夏はそこで夢から覚めた。なにか随分と長い夢を見ていた気がする。なにかとてもいろんなことを考えていたような氣がするが、目覚めてみると、それと同時にすべては夏の中から消えてしまっていた。
全然思い出せない。とてもいい夢だったような氣がするので、夏は残念な気持ちになる。かすかに時間、それからタイムトラベル、というキーワードが頭の中に引っかかっている。だけど、その二つのワードは夏の頭の中でしっかりとした映像として結びつくことはなかった。
なんだろう? 夏は思う。でも、まあ思い出せないということは忘れてしまって構わない、ということだ。夢を忘れるのはいつものことだし、今更気にしてもしょうがない。
夏はよく夢を見る。でもその夢は決まって朝、目覚めると夏の中から消えてしまうのだ。そして夏の中には『夢を見ていた』という感覚だけがいつも残っている。
楽しい夢だったらいいな。
どうせ忘れてしまうのだから、楽しいということにしておこう。私はポジティブなのだ。そう思って夏は笑う。
それから夏は寝起きでまだぼんやりしている思考をゆっくりと回転させ、体を起こして、周囲の風景を見渡して、現在の状況を確認する。
ここはどこだろう? ベットの上? それと遥の部屋? あれ? おかしいな? どうして私、遥の部屋にいるんだろう? 確か私は、照子の部屋の先にある、遥の個人的な研究室の中に入って行って、……そこで、遥と少しお話をして、それから澪と出会って……。
夏の意識はまだはっきりとしない。でも、部屋の中にはとてもいい香りが漂っている。それは淹れたてのコーヒーの匂い。それから夏の大好きな木戸遥の匂いだった。
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