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「澪、起きてる? 返事して」
夏は顔を動かすと不思議そうな目をして遥を見た。この部屋には今、遥と夏の二人だけしかいないので、遥が誰に話しかけているのか理解することができなかったのだ。
「起きてるよ。なに? 今、忙しいだけどさ」子供の声がする。男の子の声? どこかやんちゃな感じのする少年の声だ。
「誰の声? 誰としゃべっているの?」夏は部屋の中をきょろきょろする。
「そっちこそ誰なの?」男の子の声が言う。
「夏、こっちだよ」夏が戸惑っていると、遥が人差し指で大きなディスプレイの画面を指差した。夏がディスプレイを見ると、その四角い水槽の中から、白いクジラがじっと夏のことを見つめていた。
「最初からずっと夏のことは監視していたよ」
さりげなく、とてもひどいことをこの人工知能はあっさりと言う。最初からとはどういうことなのか? 研究所に着いたとき? それとも地上であのおもちゃみたいな列車に乗ったときだろうか? それとも、もしかしたら私が遥を追いかけるために黙って瀬戸の実家を飛び出したときだろうか? ……答えは、わからない。でも記憶を探ってみると、なぜかいろんなところに、ずっと昔から、白いクジラはいた気がする。
「プライバシーて言葉知ってる? それと人工知能による人間の監視は違法行為じゃなかったっけ?」
「違法じゃないよ。公共の空間でやったら違法。私有地なら問題ない」
本当かな? 夏は疑問に思う。
遥は自信満々でそう言い切ったわけだが、疑わしい。夏は法律に詳しいわけではない。一般常識程度の知識しかない。なので遥の意見が正しいのかどうか夏には判断することができなかった。通信が遮断されているため、ネットワークを利用して調べることも不可能だ。
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