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 夏はこのときに初めて、まじかでじっくりと照子の顔を見た。

 そうやってすぐ近くで照子の顔を見つめていると、夏はあることに気がついた。一番最初に照子を見たときに(あの長い前髪で目を隠した女の子を目撃したときのことだ)照子の顔や姿に、なんとなく見覚えがあるような、そんな懐かしさのような不思議な気持ちを感じていたのだけど、その気持ちの正体が判明したのだ。

 照子の顔は、どこか昔の、出会ったばかりのころの、七歳の遥とよく似ていた。(顔だけでなく、体つきも雰囲気も、その全身の白色と青い目の色と髪の毛の長さ以外は全部が似ていた)

 その事実に気がつくと、見れば見るほど、照子は子供のころの遥が、青色のコンタクトをして、顔や体や髪の毛を真っ白な色に化粧をして、舞台の上で照子の仮装をしているようにしか見えなくなった。

 夏は久しぶりに、あのころの遥の姿を鮮明な形で思い出すことができて、すごく嬉しい気持ちになった。まるでなくしてしまった昔の写真を、偶然見つけたような気持ちになった。それと同時に、夏は遥が照子に執着する気持ちもわからなくはないと思った。

 昔の遥に似ているということが理由としては一番大きかったのだと思うけれど、夏の中にある照子に対する恐怖と偏見は、この発見の時点で、すでにある程度緩和されようとしていた。夏は確かに照子にとても深い興味を持った。それは不思議なくらい抵抗がない。自然と照子に心を引き寄せられるような、そんな目には見えない新発見の物理現象のような力を感じた。

 ……でも、それはとても危険な気持ちなのかもしれない。もしかしたらそれは悪魔の誘惑なのかもしれない。照子の顔や姿が七歳の遥に似て見えるのは、実は照子の魔法で、夏にとってだけかもしれないと、そんなおとぎ話のようなことを夏はちょっとだけ頭の中で空想した。しかもその魔法は、どうやら遥のキスでは解けないほど強力な魔法のようだった。

「お誕生日おめでとう」照子に向かって夏は言った。

「ありがとう」と遥が答えた。

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