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 いくつもの監視用のモニタの画像と緑色の光学的なデザインをしたキーボードが、ガラスの壁から出っ張った細長い長方形の形をしたテーブルのようなスペースに映し出されている。その出っ張りは透明なガラスとは違い黒い色をしていた。どうやらその出っ張り自体がタッチパネル式のディスプレイとして機能しているようだ。

 遥は出っ張りの前に置かれた背もたれのある椅子の上に体育座りをして、じっとガラスの壁の反対側の部屋の中で、大人しく真っ白な丸椅子にちょこんと座っている照子の姿を、さっきから長い時間、飽きもせずにずっと眺めている。研究所を訪れて遥と再会したときにも、遥はこの場所にいた。おそらくここがこの部屋の中での遥の定位置なのだと夏は推測する。

 部屋の奥側に当たるガラスの壁には透明なドアが一つ設置されている。そこから向こう側に移動することができるようだ。

 照子のいる真っ白な部屋の中は天井に照明になっていて、とても明るい。反面、二人のいる部屋の中は明かりが弱く薄暗い。ガラスの壁の向こう側とこちら側で光の強さに強弱をつけているのはなぜだろう? もしかしたらこのガラスの壁は向こう側からはこちら側が見えないマジックミラーのような構造になっているのかもしれない。

 そんなことを考えながら、夏は照子の部屋の様子をじっと観察している。するとしばらくして、夏は照子の部屋の奥に白いドアが一つあることに気がついた。(向こう側はとても明るい上に、白い壁と白いドアが同化して、とてもわかりづらいのだ)

「あのドアはどこに続いているの?」夏が言う。ドアの奥に空間があるとすれば、位置的には通路を挟んでコンテナの保管されていた倉庫の反対側になる。

「あの奥は普段、照子のお世話をするスペースを兼ねた私の個人的な研究室になっているの。だから照子のベットもそこにあるし、日に三食の食事もそこでする。体を洗ったりもするし、トイレもある」

 遥の答えを聞いて、夏は視線をガラスの壁の端っこに移動させた。

 部屋の一番奥のスペースには、先ほど確認したガラスの壁の向こう側に移動するための透明なドアが設置されている。あそこから中に入って、向こう側にいる照子の手を握って移動させ、白いドアを開けて一緒に奥の研究室に移動する。そんな遥と照子の姿を夏は頭の中で空想し、実際に二人を動かしてシミュレートする。夏の空想の中では遥も、そして照子も笑っている。



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