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初めて研究所に入ったとき、まるで宇宙船の中みたいだと思った。宇宙を漂う宇宙船の中での生活。邪魔する家族も面倒くさい家もない孤独な生活。限定された自由。自由とは孤独であること。だけど夏はその孤独に耐えられない。だからいつまでたっても自由になれない。鳥かごの中の小鳥。それが私。
夏は視線を遥に向ける。遥の寝顔はとても可愛い。夏は思わず笑顔になる。
……でも遥がいてくれれば別だ。一人だったら絶対に嫌だ。でも遥が一緒だったらそれでいい。それだけでいい。今日みたいに遥が一緒に寝てくれるなら、私はもう、それだけで満足だ。あとはなにもいらない。遥だけでいい。夏は本気でそう思った。
今夜はもうクリスマスだ。しばらくして夏はそんなことを突然思い出した。
本当にここが宇宙だったらいいのにな。遥と二人で火星に行きたい。金星でもいい。地球での出来事を全部忘れたい。遥以外のすべてを捨ててしまいたい。……なんでそれができないんだろう? 遥にできて、どうして私にはできないんだろう? どうして私は操り人形のような人生を送っているんだろう? どうして私は実家から出ていかないんだろう? やっぱり孤独に耐えられないから? (私は強くないから? 弱いから? 一人じゃ生活できない子供だから?)
それは私の頭の中だけの問題だから? 私の問題は私の頭の中にだけしか存在しない。私は自分の意見をきちんと口にすることができないんだ。私の悩みなんて誰も知らないんだ。ああ、なんてつまらない人間なんだろう。私は私に謝らなくちゃいけないんだ。
ごめんなさい、私。今度生まれ変わってこの世界に生まれ落ちるときには、もっときちんとした精神と一緒になってください。
夏は暗い天井を見つめたまま、どこにいるかもわからない、見たことも声を聞いたこともない神様に向かって両手を合わせて、二人がずっと一緒に入られますように、とお願いをしてから、目をつぶってお祈りをした。すると夏の心臓が少しだけどきどきした。夏はそっと目を開いた。夏は奇跡を期待していた。しかし部屋の中にはなんの変化も訪れなかった。相変わらずそこには暗い天井があるだけだった。夏は小さなため息をついた。
全然眠れないし、お水でも飲もうかな? ベットからこっそりと抜け出した夏はそのままキッチンまで移動しようとした。そのとき突然、どこからかドアの開く音が聞こえた。
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