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地上では予報通り雪が降っている。だけどその雪は夏と遥の立っている大地までは落ちてこない。透明なドームが上空を覆っているためだ。ドームの形は普段であれば人の目では見ることができない。だけど今はそれがわかる。ドームの外側には真っ白な世界が広がっている。夏は自分が、巨大な白い壁の中に閉じ込められたような錯覚に陥る。なんて神秘的な光景なんだろう。月も星も見えない夜なのにドームの中は満月の輝く夜のような明るさが保たれている。どうやら透明なガラスで建設された目に見えない半球体のドームはそれ自体が、とても弱い力でだけど、発光現象を起こしているようだ。原理は理解できない。でも遥の説明によるとドームは三重構造になっているらしいので、そのうちの一枚が発光する素材で作られているのかもしれない。
地上の駅から雪の降る夜空を見上げたとき、夏は素直に感動した。遥も夏の隣で楽しそうに笑っていた。だけど夏は、本当は少しだけ残念だった。夏はできれば大地に積もった雪を見たかった。本物の雪を触りたかったし、雪を全身に浴びたかった。だけどそれはできない。それだけが本当に残念だった。でもそれは仕方のないことなのだ。いつだって、ドームは世界を拒絶する。
「すごい。これ見えないガラスが空を覆ってるんだよね?」夏が言う。
「厳密に言うとガラスじゃないけど、……まあそうだよ」
「どうやって作ったんだろう? 建設の過程が全然想像できない」
巨大なドーム状の建造物。この木戸研究所にあるもっとも特徴的な実験施設。世界を内と外の二つに分ける人工の殻。真っ白な雪の中にある巨大なたまご。もしくは、巨大な繭。夏と遥は、そんな世界の内側にある緑色の草原の上に立っている。
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