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 幼いときからずっとすごい成果を出し続けている遥だったが、ここ数年はさらにとんでもないことになっている。もしかしたら世界で一番頭がいいのは遥ではないのか? そう思えるくらいのすごい研究成果だ。少なくともこの数年は世界最高峰と断言できる。現在、木戸遥が人工進化の分野で世界トップを走っていることは間違いない。そのほかにも数学とプログラムの分野で世界初の発見と発明をしている。遥がもともと得意としているのが、この数学とプログラムの分野だった。このレベルの話になると夏にはもう遥の研究を理解することができなくなった。残念なことに夏には遥の研究を理解できるだけの頭脳がなかったのだ。いや仮に遥と同じ科学者の人たちに話を聞いたとしても、遥の研究を理解している人は世界に数人しかいないだろう。そして本当の意味で遥の研究を理解しているのは、今私の眼の前で美味しそうに焼き魚を頬張っている木戸遥本人だけなのだ。しかも遥にはまだ余力のようなものを感じさせる論文がいくつかある。これは遥の戦略だと思う。それを餌にしてお金と人を集めているのだ。最初は半信半疑だったけど、実際に研究所を訪れたことでそれは確信に変わった。遥はその変化球をおそらく照子のために投げている。すべては照子のため。遥の行動のベクトルは照子に集中している。遥の興味を引いているのは小さな照子一人だけなんだ。

 ……夏は遥に太陽の輝く青空の下で暮らして欲しいと願っている。木戸遥は青空の似合う女性なのだ。自由に空を飛ぶように生きて欲しい。私は空を飛ぶ遥がみたいんだ。

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