8

 女どもから自分を護るため、自分を閉じ込めてしまいました。

「すみません、私のせいで」

俺達を閉じ込めた氷魔法の発動者、ウィズは謝るが、ウィズは悪くない。俺も同じことをしようとしていたのだから。

「ウィズ、なんとか解除できないか?」

「その、これは私が開発した魔法で、時間がたつのを待つしか」

「そうか」

そんなもの、待っていたら先に凍え死ぬ。すると思いついた。氷なのだから、熱で溶けるのではないか?

「『ティンダー』!」

俺は魔法で炎を出すが、小さいため少ししか溶けない。それでも何度でも魔法を使うと、小さな穴が開いた。そして俺の魔力が尽きた。また、俺は気づいた。

「なぁ、これ、ウィズがやった方が早いんじゃないか?」

「はい。ですが、私の魔力ももうほとんど残っていません。もともと、疲れていて魔力が少なかったこともありますが。ドレインタッチで分けてもらえばいけますが...」

「悪い。今ドレインされたら死ぬ」

「ですよね」

これ、最初っからウィズに魔力分けて、氷溶かしてもらえばよかったよな。

するとこちらに向かってくる足跡が聞こえた。敵感知に反応はないが、女どもが戻ってきたのか?しかし、その足跡の主は、仮面のバイトだった。

「ぬ!なぜろう...部屋が氷漬けなのだ。あの貧乏店主め、やらかしたか?」

「おい、バニル!そこにいるのか?」

氷に開いた穴から、バニルが覗いてきた。仮面の目だけ見えると不気味だ。

「おい鬼畜男、女どもが去ったと伝えに来てみれば、これはどうしたことだ。無事なところを見ると、密室でムラムラした貴様が、見てくれだけはいい店主に襲いかかり、あやつが護身したというわけではなさそうだが。ぬぅ、穴の向こうから仮面を突っつくな!」

「そうだバニル、お前この氷を溶かせるか?」

「無理だな。我輩の使うバニル式殺人光線は、光ゆえ氷を透過してしまう。他の技は威力が高過ぎてこの店ごと破壊しかねない」

いつも忘れかけているが、こいつは地獄の公爵、見通す大悪魔バニルだ。本来は魔王すら凌駕する存在なのだ。なぜか今は、一生懸命働くバイトだが。

「なら、この店にマナタイトとか、魔法の威力向上のポーションとかないか?」

「マナタイトは、貴様が魔王討伐のために買い占めてから、まだ入荷していない。威力向上ポーションは、現在、泥沼魔法と触手拘束魔法用が残っているな。どちらも効果範囲を拡大し、自分も巻き添えになる品物だ。要るか?」

「要らねぇよ!とにかく、この氷を溶かすのに使えそうなものを探してくれ」

「よかろう、ただし、高くつくぞ?」

「あぁ、無事に済んだら払ってやるよ」

「ありがたやお得意様だ!」

バニルが去っていった後、俺たちは特になにもできないので、せめて体力の温存のため、じっとしていた。

すると、ウィズがなんの脈略もなくてを握ってきた。

「う、ウィズ⁉」

「その、じっとしていても体温が下がるので。私は平気ですが、カズマさんは人間ですから。それに、触れることで魔力が循環して、より体温安定に繋がるので」

ウィズの体温は、通常人間より低い。だが、氷によって外気温が下がっている今、その手は、とても温かく感じた。

「カズマさん、こんなときじゃないとできない話、してもいいですか?」

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