3rd Single:初陣

Track 01. ELEMENTS


 ――学校がこんなに楽しみだなんて、一体いつ以来のことだろう?


 昨年度までの華子はなこのスクールライフにあったのは、いつか仲間が増えてくれたらいいなと願う寂しさと、きっと自分は卒業まで一人なのだろうという諦めの気持ち。

 それでもいいと思っていた。たとえ陽の当たらない場所でも、大好きなスクールアイドルを続けられるなら。

 チームメイトがいなくても、夏の大会の個人部門に出ることはできる。部室スタジオを奪われても、一人ならカラオケの個室ででも練習はできる……。

 この日常が良い方に変わることなんて、もうないと思っていた。

 虐げられていた者の境遇が一夜にして変わったりとか、そんなのはドラマの中だけの出来事で。

 自分はこのまま、マリナ達のグループに睨まれないように息を潜めて、卒業の日まで耐え忍ぶしかないのだと。


 だが――火群ほむら結依ゆいと出会ったことで、全てが変わった。


 入学式のあった月曜日、結依は笑顔で自分の手を取って、キャプテンと呼んでくれて。

 火曜日、衣装を汚されて泣きそうな自分のかわりに、彼女は毅然とマリナに立ち向かってくれて。

 水曜日、大きな野望を打ち明けてきた彼女は、「Marbleマーブル」のライブを通じて、まだ見ぬステージでの戦いを決意させてくれて。

 それだけじゃない。木曜日、怜音レオンとあいり、二人の入部希望者との出会いが生まれたのも結依のおかげだった。

 そして金曜日の今日。華子は、一度は取り戻すことを諦めていたこの部室で、結依とともに、少し前まで敵だったはずのマリナ達と向き合っている――。


「……華子ちゃん」


 制服姿のマリナは、いつになく神妙な面持ちで華子の前に立っていた。その後ろには、マリナの取り巻きサイドキックスだった三人が、バツの悪そうな顔をして控えていた。

 華子より少し背の高いマリナの視線が、ちらりと華子の横の結依に動いてから、再び華子に向けられる。


「あたし達、今まであなたに沢山ひどいことを言ってきて……本当に、ごめんなさい」

「マリナさん――」


 拍子抜けするほど素直な謝意を宿したマリナの瞳の色に、華子が思わず目を見張った瞬間、学園の元女王クイーンは彼女に向かって深々と頭を下げてきた。

 そんな、同い年なのに――。華子は慌ててマリナに声をかける。


「マリナさん、いいから、顔上げてっ」

「華子ちゃん……。あたし、ほんとにバカだったなって思うの。自分がこんなことになるまで、あなた達の気持ちを考えようともしなくて」


 マリナは半端に顔を上げ、遠慮がちな上目遣いで華子と結依を見ていた。少し前なら信じられないことだった。彼女がこんなに歯切れ悪く話すのも。彼女がこんなに後ろめたそうな目をするのも。

 ……そういえば、同じ学校に身を置いて三年目になるのに、マリナとちゃんと目を合わせて喋るのは今が初めてであるような気がした。


「華子ちゃん。こんなんじゃお詫びにならないけど……」


 マリナの仲間の一人がおずおずと華子に歩み寄り、何かの紙袋を差し出してきた。華子にはちらりと見ただけでその中身がわかった。渡された袋いっぱいに詰まっていたのは、衣装の縫製に使う、色とりどりの新品の生地だった。

 そんなものを貰うなんて――と、華子が首を振ろうとしたとき。


「違うの、モノやお金で許してもらおうっていうんじゃなくて。これ――」


 言いながら、マリナはスクールバッグから何かの布切れを取り出してきた。

 いや、よく見れば、それはただの布切れではなかった。薄いピンク色の布は、歪んだ裁断と未熟な運針でどうにかこうにかワンピース型に縫い合わせてあり、フリルやリボンで飾り立てようとした形跡も見て取れた。

 誰の目にも出来損ないとわかる衣装を見て、華子が目をぱちぱちとしばたいていると、マリナの友人達が異口同音に謝罪の言葉を述べ始める。


「……ごめん、華子ちゃん」

「衣装作るのって大変なんだね。ウチらじゃ全然無理だった」


 えっ、と自分の口から驚きの声が漏れるのを華子は止められなかった。


「これ、作ったの……? マリナさん達が……?」


 こくりと頷いて、マリナは手元のヘタクソな衣装を見下ろし、照れ隠しのように少し笑った。


「華子ちゃんにお詫びしなきゃって思って、昨日、あれからみんなで夜中まで粘ったんだけどさ。全然上手く作れなくて。……実際やってみて、わかったの。華子ちゃんの凄さと……あたし達のやってきたことの酷さが」


 ホントにごめん、と繰り返し謝るマリナを前に、華子はぽかんと開いた口を閉じることを忘れてしまっていた。

 昨日、なし崩し的にアイドル部の五人目の部員になることを了承し、気まずそうに「よろしく」とだけ言って華子達の前を去っていったマリナが、その後にそんなことをしていたなんて――。

 ふと隣を見ると、この時ばかりは流石の結依も驚きに目を丸くしているように見えた。


「すぐに許してもらえるなんて思ってないけど……あたし、華子ちゃん達の仲間になれるかしら」


 真剣な響きに震えるマリナの言葉を聴いていると、自然に口元がほころんだ。

 この人でも、こんな顔をすることがあったんだ――と。

 自分とは別世界の住人だとばかり思っていたマリナのことが、なんだか急に、とても親しみやすい相手のように思えてきた。


「そんな、反対する理由なんてないよ。ね、ユイちゃん」

「ハイ。わたし達がアイドルの心を叩き込んであげますから、覚悟してくださいねっ」


 結依は笑みを交え、弾むような調子で言った。結依の目がそう促しているような気がして、華子は自然とマリナの前に片手を差し出していた。

 華子の手を握り返してくるマリナの白い手には、生身の人間らしい僅かな手汗と温かさがあった。


「じゃあ、ウチらは邪魔にならないように先に帰ってるから」

「華子ちゃん。マリナをよろしくね」


 マリナの友人達が部室を後にするのを見送った直後、彼女らと入れ替わるようにして、逆瀬川さかせがわ怜音レオンがからりと音を立てて扉を開けた。その後ろには、三つ編みの新入生、網野あみのあいりを伴っている。


「こんにちは。遅くなりました」


 怜音は今日も男子用パンツルックの制服を身に着け、私服らしきジャケットを羽織っていた。前に噂で聞いたところによると、授業時間中は真っ当に制服スカートで過ごし、放課後には好きな格好に着替えているらしい。

 まだどこかオドオドしている様子のあいりを「さあ」と招き入れる怜音の姿を見て、ふと華子は思った。この人気者は、マリナが頭を下げる場面をあいりに見せないために、わざわざ部屋の外で待っていてくれたのだろうか――。


「改めて、今日からよろしくお願いします」

「よろしくお願いいたします」


 怜音に次いで、あいりも折り目正しくぺこりとお辞儀をしてきた。言葉遣いと同じく、育ちの良さを感じさせる綺麗な礼だった。


「これで全員揃いましたね!」


 結依が嬉しそうな顔で「みんな、自己紹介しましょう」と促してくる。怜音もあいりも、そしてマリナまでもが穏やかな笑みを浮かべているのを見て、華子はふいに熱い何かが胸にこみ上げてくるのを感じた。

 ああ、ダメだ、と思った瞬間、歪む視界の真ん前をマリナの手が遮ってくる。


「ちょっと、華子ちゃん。なんで泣いてるのよ」

「だって……去年までわたし一人だったんだよ?」


 ちょっとまだ信じられなくて……と、自分の喋る言葉がどんどん涙の渦に飲み込まれていく。

 結依一人が入ってくれただけでも嬉しかったのに、いつの間にか自分を入れて五人もの部員がこのスタジオに集っている。こんなの、いきなり状況が変わりすぎて、夢なんじゃないかと思ってしまうくらい。

 やれやれ、という目でマリナが自分を見てくるのが、なんだかまた嬉しくて。


「しっかり仕切ってよね、華子キャプテン」


 マリナの言葉に同調するように、皆が自分に暖かな視線を向けている。皆が、部長キャプテンとしての自分を見ている――。

 しっかりしなきゃ、と気持ちを奮い立たせて。

 華子はハンカチで涙を拭って、くるりと一同を見渡し、「えっと」と自己紹介の口火を切った。


「アイドル部の部長をやらせてもらってます、三年の千葉華子です。スクールアイドルは中一からやってて……全然、大会で結果とかは出せたことないんだけど、アイドルが好きって気持ちは人一倍あるつもりです。えっと、だから、みんなで頑張りましょう」


 よろしく、と締めくくると、皆はぱちぱちと拍手で応じてくれた。

 でも、これで終わりじゃない。自分は部長なのだから、皆を仕切らなければならないのだ。


「じゃあ、入部順に――ユイちゃん」

「はい、ユイちゃんこと火群結依です。十歳から十二歳まで、公営放送の『パパママといっしょ』に出てました。目標は秋葉原エイトミリオンのトップに立つことです」


 勿体ぶることも恥ずかしがることもなく、結依はさらりとそう宣言した。昨日の夕食のメニューでも述べるかのようなフラットな口調で。

 ふむ、と怜音が頷き、えっ、とあいりが目を丸くする。


「エイトミリオンって……あのエイトミリオン……?」

「あなた……ホントに本気なのね」


 マリナも微かに声を震わせていた。マリナだって、結依の言葉を今さら疑っているわけではないのだろうが、それでも思わず聞き返してしまう気持ちは華子にもよくわかる。

 結依の力を間近に見ていても。彼女の決意の固さを知っていても。それでもやはり、結依が口にする目標は、自分達の日常とレベルがかけ離れすぎていて――。


「もちろん本気ですよ。そのためにも、まずはスクールアイドルで日本一にならなきゃいけないんです。皆さん、力を貸してください」


 しいん、とスタジオが静まり返ったような気がした。真紅のフレームの眼鏡グラス越しに、暖かな洋燈ランプのような結依の瞳が皆を見ていた。

 華子はごくりと息を呑んで、そして。


「うん、もちろんだよ、ユイちゃん」


 その言葉が自然に口をついて出た。誰もそれに驚きの表情を見せはしなかった。

 ここに集まったのは――結依の熱気に胸を焦がされ、彼女の燃える瞳に導かれた者だけだから。


「じゃあ、次は、あいりちゃん」


 華子が指名すると、あいりは「はいっ」と声を裏返らせた。


「網野あいりと申します。中学では茶華道部でした。アイドルは初めてなんですけど……実は、わたくし、ずっと女優さんに憧れていて」


 あいりが頬を赤らめて述べる言葉に、へえ、と皆が口々に興味を示す。華子も彼女のプロフィールには興味津々だった。何しろ、新入生である彼女のことは、まだ何も知らないのだ。


「お気に入りの女優さんとかいるの?」

「一番は豊橋とよはしレナさんです。あの方もアイドル出身なんですよね。だから、わたくしも、アイドルっていいなって思ってたんですけど……」


 皆の顔色を確かめるかのように、あいりは言葉を切りながら続ける。


「でも、ウチは親が厳しくて、とても芸能人になりたいなんて許してくれなそうで……わたくしには遠い世界の話だって思ってたんです。火群さんとみなと先輩の戦いを見るまでは」


 火群さん、と結依の名を挙げたときの彼女の目は、きらきらとした憧れの色を隠そうともしていなかった。


「火群さんは、ハンディキャップにも負けずに、本気で夢を目指していて……ほんとにすごいなって思ったんです。それに比べたら、わたくしの前にある壁なんて、なんでもないのかなって。だから、わたくしも、ほんとにやりたいことのために頑張ってみたくなって……親に相談して、まずは部活でアイドルをやるだけなら、って認めてもらったんです」


 少しずつテンションを上げていくあいりの語りを聴いて、ああ、そうだったんだ――と華子は思いを改めていた。初対面の印象から気弱そうな子なのかと思っていたが、実は彼女は自分なんかよりよっぽど強い子なのかもしれない。


「……ごめんなさい、長く話しすぎちゃいましたけど、わたくしも精一杯頑張ります。よろしくお願いいたします」

「よろしく、あいりちゃん」


 結依があいりの前に歩み寄り、ふわっと手を差し出す。はにかんで握手に応じるあいりに、結依は、「わたしのことはユイでいいからね」と柔らかに笑いかけていた。


「……ユイちゃん」


 恥ずかしそうにあいりがその名を呼ぶ。そのまま、自然な流れで、今度は怜音が自己紹介のバトンを引き継いだ。


「二年生、逆瀬川怜音です。半年ほど前までは歌劇団の訓練所に入っていました。この際なので、みんな、自分のことも、気軽にレオンと呼んでください」


 朗々と張る声と、気さくな笑み。彼女に『様』まで付けて騒ぎたくなる下級生の女の子達の気持ちが、少しわかるような気もする。


「自分はこの通り、男役寄りのキャラで売ってきましたが……本当は女子じょし女子じょししたものにも憧れていたんです。あいりちゃんと同じく、ユイちゃんの勇姿を見て、新たな舞台に挑戦する勇気が湧きました。やるからには全力を尽くしますので、よろしくお願いします」


 怜音のぎらりとした眼力めぢからが作り出す雰囲気に飲まれ、皆と一緒に華子も自然と拍手を送っていた。

 最後はマリナの番だ。皆の注目が一手に集まる中、彼女は一つ咳払いをして「湊マリナよ」と気取った声で名を告げた。


「入るからには、あたしも負けないからね。特にユイちゃん!」

「はい?」

「一度負けただけで降伏したと思わないでよ。必ずリベンジしてあげるんだから」


 マリナの強気な宣言に、結依はふふっと笑って答える。


「いつでも待ってます」


 健全な火花をバチバチと散らし合う二人を見て、華子は嬉しさにまたこぼれそうになる涙を必死に喉の奥に呑み込んだ。

 ――なんだか、いいチームになれそうな気がした。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 自己紹介の後、華子達が早速取りかかったのは、全員の現時点でのスキルをチェックすることだった。

 何しろ、春の大会、スプリング・アイドライズの地区予選のエントリー期限がもう迫っているのだ。部員が揃っただけで浮かれているわけにはいかない。このメンツでどこまで戦えるのか、大会までの限られた時間で何を練習するべきなのか、一刻も早く作戦を立てる必要があった。


「恋したくて――愛したくて――」


 スピーカーから溢れるオフボーカルのメロディに乗せ、華子は身体が覚えた振り付けと歌唱を皆の前でこなしていく。この曲――秋葉原エイトミリオンの黎明期のナンバー『愛したかった』は、中学のアイドル部で練習曲エチュードとしても使われていた、きわめてシンプルな振りと歌詞の一曲だ。

 この曲なら難しいことなど何もない。唯一の敵である恥じらいをなんとか押しのけ、ぴしりと前方を指差すポーズで華子がワンコーラスを歌い終えると、四人から一斉に拍手が起こった。


「華子ちゃん、やっぱり歌上手いんだ」

「全然、わたしなんて」


 マリナの言葉でたちまち顔面が熱くなり、華子は片手で顔を扇ぎながら、結依の隣のパイプ椅子に腰を下ろす。

 全員の力量を吟味する審査役は結依にお願いしていた。アイドルパフォーマンスに関して彼女の実力が一人抜きん出ているのは明らかなので、誰もそれに異を唱えることはなかった。

 華子は結依のを務めるつもりで横に座っていたが、正直、結依の力なら、口元や表情を見れば音程やリズムのズレも容易く見抜いてしまえるのではないかとも思えた。


「やっと目覚めた――この想いに――突き動かされて――僕は君の待つ場所へ急ぐ――」


 やはり凄いのは怜音だった。身体を動かしながらでも微塵もブレない歌唱、聴く者の魂を揺さぶるような表現力。歌詞の一音一音が彼女の色に塗り潰されているかのようだ。ガールズアイドルの雰囲気にマッチしているかといえば疑問はあるが、そのギャップを補って余りあるだけの実力を彼女は見せつけていた。


「恋心――隠しておけず――君の前――顔でバレてる――」


 マリナも決して悪くなかった。歌は人並みで、気恥ずかしさも抜けきっていないが、チアで培ったダンスのキレはやはり本物だった。テスト前に何度か通しで見ただけの振りを、もうほとんど覚えて踊りこなしている。彼女の持ち前の負けず嫌いさを炸裂させたような、渾身のパフォーマンスだった。

 その二人と比べると、不安が残るのはやはり新入生のあいりである。


「……恋したくて……愛したくて」


 決して歌が下手なわけではない。むしろ綺麗に音程が取れているのは華子にもよくわかったし、リズムが走ったり遅れたりすることもなかった。だが、声の小ささや、恥ずかしそうに強張った表情が、せっかくの歌を殺してしまっている。

 何より、ダンスの方が全然踊れていない。無理もないと華子は思った。歌唱と踊りを同時進行でやるなんて、そもそも初心者が初日からできるようなことではないのだ。


「……ごめんなさい、わたくし、歌もダンスも未経験で……」


 ワンコーラスが終わった途端、あいりは泣きそうな顔になって華子達を見てきた。

 華子には彼女の気持ちが痛いほどよくわかった。自分も、中学で初めてアイドル部に入ったときは、小学校からダンスやバレエをやっていた子達に全く付いていけなくて、何度も泣いたものだった。

 だが、あいりが次に発した言葉は、華子の予想とは少し違っていた。


「こんなわたくしでも、あと一週間で大会に出られるレベルになれるでしょうか」


 足手まといになるくらいなら自分抜きでエントリーしてほしいとか、そんなことを言われたら、大丈夫だからと励ましてあげようと思っていたのに――。

 その瞳には涙をためていても、心は折れていない。この子はあくまで出るつもりなのだ。このアイドル部の一員として、数多の強豪ひしめく東京都予選に。


「なれるよ。わたし達が絶対引き上げてみせる。ね、華子さん」


 結依の言葉に、華子は迷わず頷いていた。


「うん。この五人なら、わたし達、きっと最高のチームになれる」


 我ながら一秒後には恥ずかしさの波に襲われそうな台詞だったが、マリナも怜音も、茶化しもせず同意してくれた。

 地区予選まではあと一週間と少し――。皆の明るい顔を見渡し、このアイドル部を良いチームにしようと決意を新たにしたとき、華子はふと大事なタスクを思い出した。


「そうだ。グループの名前、決めなきゃ」

「名前? 双柱ふたばしら学園アイドル部、じゃダメなの?」

「ダメじゃないけど……やっぱり、大会に出てくるグループには、凝った名前が付いてることが多いから」


 かくいう華子自身も、高校に上がってからは一人きりだったので、グループ名など考えたこともなかった。だが、「Marble」をはじめとする強豪グループと渡り合おうというのなら、やはりそれなりの看板はあった方がいいに決まっている。

 みんな、何か――と華子が言いかけたところで、結依がぴょこんと可愛く手を挙げた。


「それなら、わたし、考えてるのがあるんです」


 その燃える瞳は、今までで一番得意気とくいげで。

 この話題になるのを待っていた、とでも言いたそうだった。


「なに、『ユイちゃんず』とか?」

「マリナさん、そういうのはダメです。わたし一人が目立ったらグループの意味ないじゃないですか」

「冗談ってわかりなさいよ!」


 ムキになるマリナに皆がくすくすと笑ったところで、結依は改めて一同を見渡し、ずっと言うのを楽しみにしていたのであろう名前を告げた。


「『ELEMENTSエレメンツ』ってどうですか。四大元素とか五行思想とかの、エレメント」

「なにそれ?」

「わたし、自他ともに認める炎属性なんですけどね。でも、炎だけじゃダメだと思うんですよ。色んな元素が――みんなの個性が集まって世界を形作る、グループアイドルならそんな感じがいいのかなって」


 語気を弾ませ、皆のアイドルは語る。

 誰も反対などしないことは、最初からわかっているようだった。


「……まあ、いいんじゃない? ユイちゃんがそれでいいなら」

「自分も賛成だな。いい名前だ」

「わたくしも素敵だと思います」

「じゃあ――グループ名は、ユイちゃん謹製、『ELEMENTSエレメンツ』で」


 皆の期待を肌に感じながら華子は宣言した。いよいよこれから始まるのだ。スクールアイドル「ELEMENTS」の第一歩が。


「わたくしにも属性って付けてもらえるんですか?」

「そうだな、とりあえず自分は『雷』の属性を頂くとして――」

「華子ちゃんは『空気』とかで十分よね」

「ええっ、マリナさん酷い!」


 意地悪い笑みを向けてくるマリナや、満足げに腕を組んでいる怜音。前向きな笑顔のあいり、そして楽しそうに「華子さんはフラワー属性ですよ」なんて言ってくる結依。

 フラワー属性って何?と心の中で突っ込みを入れながら、華子は皆の顔を見て、今日一日で何度も噛み締めた思いを新たにしていた。

 ――本当に、良いチームになれそうだった。

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