6-4

 釜を馬に縛り付けて出発した。アントーニオの向かった先は、デイジーが知っている。

「あたしは殺される前からずっと奪ったものの一部を砦とは別の場所に隠してたのさ」

 デイジーは釜の中でいった。

 エリオット、アンナ、ニーナの乗せた馬三頭は東へ向かっていた。

「価値はあるのか?」

 デイジーの話し相手はエリオットだ。

「国家予算よりちょっと少ないくらいだね」

「大きく出たな」

「なんせ私は大盗賊だからねぇ。あんたら私の隠し財産を見たら驚くよ」

「アントーニオは、なんて言ってた?」

「姉さんの為ならなんでもするって言ってた」

「見え透いた嘘だな。それで場所も教えたのか?」

「可愛い弟だからねぇ。生きてるうちに何もしてやれなかったし」

「甘いんだな。大盗賊も人の子かよ」

「あんたに兄弟はいないのかい?」

「妹がいる。もちろん甘やかしたよ」

「同じじゃないないか」

「性別の違う兄妹ってのは、そういうもんだろ」

「何の話だ?」

 アンナが口を挟んできた。

「デイジーは弟に甘い」とエリオット。

「無駄話か」

「心の交流だよ。なぁ、デイジー、隠し場所はまだか?」

「そこの山を越えた先だよ。その先に壊れた城があるんだ。あたしはそこの地下に財宝を隠したのさ」とデイジー。

「嬉しそうだな」

 エリオットが言った。

「あたしの稼ぎだからねぇ」

 山に入り、越える。小さな山で、古く管理はされていないが道もあったので難しくはなかった。

 デイジーの言うとおり、城があった。古城だ。城壁は崩れて門はどこにも見当たらない。塔は倒れて、内部が丸見えだった。

「酷いな」

 アンナが呟いた。

 デイジーが財宝を隠した城の状態を見て言ったわけではない。

「全滅か――」

 エリオットが言った。

 盗賊団らしき男たちの死体だらけだった。

「ごめん」

 ニーナが口元を押さえて、馬から飛び降りた。そのまま後ろで嘔吐する音が聞こえる。

「何があったんだい?」

 釜の中でデイジーが言った。良からぬことが起きたことは気づいているらしく必死に釜を揺らす。

 地面には弓矢が散乱していた。

「奇襲だな」とアンナ。

 死体の転がり具合を見ればわかる。弓矢の雨を打たれ混乱し、散り散りに逃げ出したところを一人ひとり狩られたのだ。

「デイジー、あんたの部下は死んだ。ここにはもういない」

 エリオットが言った。

「はっきり言うのね」

 後ろからニーナの声。

「こういう宣告は慣れてる。これが一番いい」

 エリオットはそう信じていた。「それとも少しだけ生きてると嘘でも吐けってか?」

「あたしにも見せとくれ」

「死体だぞ。必要ない」

「いいから、早く」

 エリオットは釜からデイジーと取り出した。

「どうだ」

 古城の壁にもたれる死体、平原に突っ伏す死体、肩から胸を深く切られた死体、頭部を破壊され脳が飛び出した死体。

 目玉、内臓、千切れた四肢、歯が無造作に散らかっている。

「アントーニオはどこだい?」とデイジー。

「いないな」

 アンナが言った。「全部は見終えていないが、それらしい死体もない」

「調べるか?」とエリオットはデイジーに聞いた。

「頼むよ」

 それからエリオットはデイジーを担いで死体を周った。

 デイジーは死体の中にかつての部下の顔を見つけると、エリオットにその団員について語った。

「こいつがうちに入ったときはまだ童貞だったんだよ」

 殺された団員を見てデイジーが言った。

「そういうことは言うなよ。男の繊細な部分だぞ」とエリオット。

 目玉が潰れて、唇が耳の裏まで裂けている。

「隣の奴は太った女しか愛せない変な奴だった」

 こっちは喉が切れて開いていた。

「もっと他の話題ないのか。好きな食べ物とか、歌が上手かった、そういう牧歌的な話とかさ」

「盗賊団は女と酒の話しかしないんだよ」

「夢のような場所だな。隠し財宝はどこへ隠した。確認しよう」

「城の中だよ。あの壊れた小屋の中に隠し戸があるんだ。そこの地下倉庫に入れた」

「ほとんど壊れてる」

「とりあえず行きな」

 城壁の内側へ。

「隠し戸はあったぞ。開きっぱなしだ」

 壊れた小屋の床、正方形の戸は開いたままだった。梯子があるが、降りずにそのままデイジーの顔を突っ込んで様子を窺わせた。

「あったか」と尋ねる。

「ない」

 デイジーを引き上げた。

 今度はエリオットが顔を突っ込んで確認する。

 地下倉庫は空っぽだった。

「あんたの財宝、盗まれたな」

「相手が悪かった。一流の盗賊団団長の弟だからねぇ」とデイジー。

「弟に甘いな」

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