第56話 SS タピタ

 ぽかぽか陽気に寝ているような感覚。あったかいなぁ。ちょっとお腹が痛くてうずくまっている。雑草をむしったりして痛みが治まるのを待つ。

 最近、数時間毎に具合が悪くなる。お母さんの手伝いも出来ない日が増えちゃった。調子の良い日は外に出て仕事しないと。


「薬草ない……。あ、これは染料になるから回収。」


――――――――――

※ 主人公と出会う前日


 採取の仕事さえ、お母さんは反対する。外で倒れたら大変だから。

 「心配しすぎ。」と言うと、悲しそうな顔をしちゃうから言わなくなった。

 折衷案せっちゅうあんで、同じ採取依頼を受ける人と行動する事になった。しかも午前中だけ。「少しでも痛くなったら帰ってくるのよ?」と言われるけれど、ちゃんと成果をあげないとね!


――――――――――

※ 当日

 

 急いで用意を整え——着替え中にちょっとお腹が痛くなった——門の近くに行く。私はギルドに登録していないので、外に出る人を捕まえて交渉する。ギルドの前で募集した時に、怖い顏の職員さんに追い払われちゃった。


「今日は、調子が良いから。」


 そう自分に言い聞かせ、声をかけていく。

 門番の人たちもお母さんに聞いたのか、私に気をつかってくれる。

 心苦しい。

 お母さんの手前、私を一人で外に出したくないらしい。告げ口するから、

 何度か一緒に採取に行ったバ……人たちが、一緒に行ってくれるみたい。感謝は、してるよ? 言ったことないけど。

 そこら中に生えている薬草を採取する簡単なを始める。


 黒いキツネさんを見つけたのは、優しい3人組の年長さんだった。ちなみに18歳。年少さんと兄妹で、私の事をと思っているらしい。

 残りの優しい人も18歳だそうで。どうでも良いアプローチが、ちょっぴりウザイ。

 実は、お母さんからの依頼で「私と行動を共にし、報告している事」を知っている。だから迷惑をかけないようにしてる。外出できなくなったら嫌だし。


 いつもは見守っている風なのに、その日は後ろから腕を掴まれた。

 顔を上げると、年少ちゃんも懸命に目を凝らしていて。

 「横顔は兄妹だなぁ、多分妹ちゃんは見えていないだろなぁ。」と思いつつ二人の視線の先に目を向けた。


 森の切れ間の向こう——魔獣の住む森の奥——倒木の陰から上に飛び乗った黒い生物。鞭のように腕の生えた黒い球形の生物は、木々の根を物ともせず真っすぐに進んでくる。何あれ、魔獣? 大人を呼んでこなきゃ……。


 年長さんの服を引っ張ると、真剣な顏で私と年少ちゃんに下がるよう指示された。素直に従おう。

 年少ちゃんと少し離れた木に向かって歩き出した時、年長さん2人の弓を放つ音が聞こえた。心配そうな顔の年少ちゃんを撫で、落ち着かせる。


 そんな私たちの元に、触手ウネウネが飛来することになる。泣くわ騒ぐわ大変だった。私も泣いちゃったけど。


――――――――――

※ ゲシトクシリ


 触り心地の良いキツネさんを撫で、見張りのおじさんに言う。いつもどこから見てるんだろ。

 キツネさんが優しい3人の事を聞いてきたから教えてあげると、黙っちゃった。

 この通路、綺麗だから見惚れてるのかな?


 通路を抜け、手元が見えるようになった。キツネさんが静かなのは気を失ったからみたい。慌てて服飾店に戻ってお母さんに相談したけれど、安静にして経過観察と言われてしまった。お医者様は、お金持ちの相手をしているらしい。明日の朝、診せに行く約束をした。


 私のベッドで寝かせていたけれど、起きる気配がない。せっかくお話できたのに……。

 夕食を食べずに看病を続けようとした私に、お母さんが「看ててあげるから、お風呂入っちゃいなさい……臭うから。」と言われ、服を嗅いでみた。ごめんなさい、入ってきます。キツネさんも臭いと思ったかな……ちゃんと洗おう。


―――――――――

※ 風呂にて


「キツネさんは、どこから来て、どんな物が好きで、どんな事を知ってるのかな。」


 浴槽のへりに両腕を、腕の上に頭を載せ、一日を振り返る。

 私の肌は小麦色。褐色の多いドワーフの中で異質な色。お母さんが色白だから、嫌と言うのははばかられる。

 肌の色で触るのを嫌がる皆と違い、私から触れても嫌な顏をしなかった……と思う。毛並みの綺麗なキツネさんは、森で暮らしていたのかな。


「もっと、お話したいなぁ。」


 酸っぱい実を食べたことが無いようだった。ゲシトクシリの近辺では、ありふれた果実なのに。私の行ったことのない場所の話も聞けるかな。

 キツネさんは年長さんくらいのな感じがする。私に兄はいないけれど。私が泣いた時の慌て様を見て、怖い魔獣ではないのかな、と思えたし。


「うっ、痛い……。」


 脇腹から腰骨辺りに疼痛とうつうが——圧迫されているような重い痛み——出始めた。

 ここ数日、痛みの頻度も種類も増したように思う。それにお腹周りの色も。


、痛くない。」


 痛くて泣くのは卒業したもん。

 黒変した腹部を撫でながら、自分に言い聞かせ、浴槽からあがる。

 お母さんの用意してくれた寝間着に着替えながら考えてしまう。


 きっと、助からない病気なんだと思う。お母さんも話したがらないし。明日くらいに服飾の仕上げして、その後にお医者さんの所へ行こう。お薬は苦いけれど……無くなっちゃったし。


 少し口の中が、ぬめってした。


――――――――

※ タピタの部屋


 自室の扉を静かに開けると、椅子に座ったお母さんが船を漕いでいた。明かりを点けずに寝ちゃったみたい。私の薬代捻出のために、休み無しで働いているもんね。


 お母さん、本当にありがとう。


 お母さんに抱き着いたら起こしちゃった。お母さんに、ぎゅってされるの大好き……死にたくない。死にたくないよぉ。


 キツネさんを撫でながらベッドに入る。

 起きたら一杯お話しようね? あ、夜だから駄目なのかな。でも、お母さんは寝てるし良いよね。何から話そうかな……。


 そんな事を考えていると、キツネさんは、くしゃみをした。私の顔に向かって。

 ……汚い、お風呂入ったのに。


―――――――――


 次の日、寝ぼけたまま台所へ行くと「お母さんに顔を洗ってきなさい。」と言われてしまった。もう、寝癖を引っ張らないで!

 水瓶みずがめから一掬ひとすくいの水をもらい、顔を洗う。


 お母さんが私の部屋に入ったのを確認して、服で顔を拭いたのに……バレた。

 むむ。













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 あとがき


 タピタという少女の雰囲気が伝われば、と思います。

 本編にて「治療」をされますが、少し趣が異なるようで。

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