第25話
なんだ、この状況は……。ある程度近づいたところで立ち止まる。手前に肌の青そうな女性が倒れている。その奥に、地面に刺さった角材に縛り付けられた子どもがいる。子どもの後ろに大きな縦穴が見える。
うつ伏せに倒れている人物は、その見た目から女性だという事が分かる。身長160センチくらいだろうか。ボンテージで体のラインが丸分かりだ。尻尾の付け根には穴が開いているので特注品なのだろう。30センチほどの尻尾自体は付属品なのだろうか。気絶している様で全く動かない。
女性が持っていたであろう
子どもは身長1メートル程だ。着ているのは
ツンツン……ピクッ
倒れている女性の尻尾をつついてみる。おぉ、少し浮いた。良かった、死んでないな。ん?
女性の横を通り過ぎ、子どもの側に行く。呼びかけながら頬をペシペシと叩くと、起きたようだ。
「ん、ん……え?」
目を開けた子どもが俺を認めると、血色の悪かった顔をさらに青白くさせ
しばらく見つめていると、俺の
「おーぃ、お前、話せるか?」
「ひっ、誰っ……え?」
「話せるな……大人はどこへ行ったんだ?」
「えっと、どこ行っちゃったんだろ……。」
「ふむ、何で縛り付けられてんだ?」
「わかんないよぉ。」
うーむ、要領を得ないな……。泣きそうな子どもを宥めつつ、縄を解いてしまおう。俺が黒球に指示を出そうとした時、突如地響きが俺たちを襲った。立っていられない上に喋ったら舌を噛みそうだ。数秒で地響きは治まった。余震があるかもしれない。今のうちに離れよう。
俺はジリジリと女性の横へ下がる。縦穴が収縮すると、俺の体毛が逆立った。
ヤバイ、何か知らんがヤバイ。身構えていると黒球が俺を掴み、さらに後ろへ下がる。俺の足元で起きた土煙が縦穴に吸い込まれていく。子どもが再度気絶し、女性も苦しみだす。俺は何ともない。
10秒ほどで縦穴の吸引は止まった。余震も治まったようだ。
「……大丈夫か?」
周囲を確認する。子ども……そう言えば名前を聞いてなかった。すまん、急だったから助けられなかった。女性の方は……おや?
「小さくなってない……か?」
気のせいだろうか、
倒れている元女性の前に置かれた角材。子どもの分だけ重心が……。
「ん、あれ……なんで倒れて……。」
「お、起きたか、避けた方が良いぞ?」
「え? しゃべ――」
ガン
あーあ、言わんこっちゃない、と思うが言わない。元女性は残念なやつだろう、放置だな。角材の下敷きになった子どもを角材から解放し、縦穴から離す。角材と元女性にぶつかり、たんこぶが出来てしまっている。
「たんこぶって治せるのか?」
っと聞くと、子どもの顔にジョウロのように水をかけ始めた。……子どもから花でも咲くのだろうか。子どもの顔を
「……あちちっ。」
熱かったのかね、すまんね。子どもは飛び起きて、額を抑えている。後頭部も熱そうなんだが……。
「とりあえず、ここを離れるぞ。運べ。」
「あちーにゅあー。」
問答無用で子どもを黒球に持たせ、近くの民家に入る。少し前まで人が生活していたのだろう。ほこりが積もっていない。誰もいないのだから使わせてもらおう。子どもを降ろそうと見やると、
「ふにゃー。」
「……くつろいでやがる。」
「だぁってぇーふにゃー。」
黒球に持ち上げられている子どもは、猫のようにだらっとしている。適当に放り投げておく。不平を言っているが無視して、木の実を食わせておいた。
そんなことをしていると、外から騒ぐ元女性の声が聞こえてきた。
「あー、もう! どこ行ったー出てこーい!」
随分と御冠のようだ。今出て行ったら面倒だな、と思った時、再度吸引が始まったようだ。定期的に吸い込むみたいだな。戸口に近づいて様子を伺ってみると、
……ガンッ……バタッ
「うん、やっぱ残念なやつだ。」
安心して子どもの方に目を向けると、スヤスヤとうずくまって眠っていた。のんきなもんだ。子どもの前に少しばかりの食糧を置き、外に出る。
そこで俺が見たものは、縦穴から上半身だけが見えている元女性だった。……どうやら吸い込まれているらしい。見殺しには出来ないよなぁ……はぁ。
肩まで引きづりこまれている元女性は
元女性のひざが見えてきたあたりで、縦穴が収縮し始め、元女性を
「うぐっ……はっ、ぐぁ!」
「おい、暴れたら……あっ。」
気絶していた元女性が起きてしまった。しかも首を
慌てて穴のあった場所に近寄るが、穴など無かったかのように縦穴は無くなっている。黒球に元女性の場所を聞いても無反応だった。……地中深くに
「無事、とは言えないか……。」
とりあえず情報が足りない。判断は子どもから話を聞いてからにしよう。元女性の残していった大剣を黒球が片付ける。ファンタジーにありがちな
子どもの寝ている家に戻ると、起きて食事をしようと口を開けたところだった。月明りで子どもの周りだけが照らされている。
「あーんあ?」
「あー、食ってていいぞ。」
「モシャモシャ……これ、おいしい!」
そうかい、と
「まぁ、それ食ったら、ここを離れるぞ?」
「えっと、どこ行くの?」
「とりあえず、お前独りじゃ何もできないだろ。人の多そうな街でもあれば何とかなる。」
「怖いよぉ。」
黒球を淡く光らせると、興味を示し触ろうとする。黒球が天井付近まで上昇し、子どもが届かない絶妙な距離を保っている。……いい性格してるな。子どもは、しばらくして諦めたのか食べるのを再開した。
「そういや、お前、名前は?」
「んえ? あうう!」(んえ? アルフ)
「食ったままじゃ、分からんよ。」
「……アルフ!」
「アルフか、よし、行くぞ。」
「ま、待ってー。」
俺が問答無用で部屋を出て行こうとすると、慌てて付いてきた。歩きながら色々聞くとしよう。黒球には
「歩くと痛いかもしれんが、しばらくそれで我慢してくれ。」
「全然痛くないよ。」
「隣町までの距離なんぞ分からんが、道なりに行くしかないな……。」
「ここを出るの初めてだよ。ふふん。」
「……まぁ、がんばれ。」
なんか嬉しそうだが、アルフは今までどんな扱いを……。色々な意味で平和な日本しか知らない俺には分からない。器や角材など色々なものが黒球に吸収されていく始終を、アルフは
歩き始めて10分ほど。村が未だに見えている程度の距離を歩いた。
「ぜぇ、はぁ、ふぅ。」
「……休んどけ。」
アルフは絶望的なまでに体力が無かった。今まで遊んだりしてこなかったのかもしれない。黒球に持ち上げさせて移動すれば、と試してみたら俺の魔力がゴリゴリ減っていった。慌ててアルフを降ろすが、少し遅かったようだ。全力疾走した後のような疲労感に襲われる。
「……だいじょーぶ? 辛そうだけど。」
「……大丈夫だ。」
子どもの前で情けないが、黒球の上で休む。アルフが背中を撫でてくれているので礼を言っておく。垂れている尻尾が気になっているようだ。尻尾で遊んでやっていると程なくして、分かれ道に差し掛かった。
左に進めば森がある。数時間も経てば明るくなるだろうが……アルフを連れて入るのもなぁ。
右には山に向かう真っすぐな道が伸びている。安全と言えば安全か。車輪のあとがあるのは右の道だけ……。
「アルフ、休憩したら、どっちに進もうか。」
「え? えーっと……変な跡が右にあるし、こっちかな。」
「ほぉ……。」
良く見ている。歩き疲れているだろうに、
休憩中に森の方から俺たちの様子を伺っている野生動物がいた。不足分の魔力の糧になってもらう。アルフは興味深々な様子だが、余った肉を軽く調理して
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