第275話 信頼
寄白さんが黙ってどれくらい時間が経ったのか? 体感ではわりと長く感じた。
そしてようやく寄白さんが動きはじめた、と思ったら俺のほうを向いた。
「さだわらし?」
「な、なに?」
「私と九久津の話聞いてただろ?」
「うん」
「放課後お姉のことは頼んだ」
「わ、わかった」
おっ!?
寄白さんが俺にこれほどストレートにお願いをしてくるとは。
すこしずつだけど俺のことを認めてくれてるのかも。
だから朝も俺を呼んでくれたのかな? 能力者って意味では社さんとも距離が近づいてきたし。
エネミーとはまあ出会った初日からあんな感じだ。
寄白さんが今、俺に九久津との電話を聞かせてくれたのもそういうことなのかもしれない。
「それと」
「なに?」
「今日の四階のことは放課後になってから考える。場合によってはさだわらしに任せることになるかもしれない。
「えっ、うん。任せて、あっ、で、でも」
こ、校長の頼みが……。
「放課後四階に異変があったらそっちを優先してね?」
俺がなにもいわないうちに校長がカバーしてくれたけど、なるべくなら校長室の更衣室に隠れて例の出来事の終わりまでを見届けたい。
「はい。わかりました。四階に異変があった場合すぐに対処して校長室にいきます」
四階でなにかあるときって基本的には七不思議のどれかがブラックアウトした場合だよな? まあ俺の
「無理しなくていいからね?」
「は、はい」
俺が校長にそう返したとき、ふと寄白さんのスマホを握る手が目に入った。
ものすごく力が込められている。
「霞さんところにいく前にやることがある」
その眼は戦いのときと変わらなかった。
きっと重大な決断をしなきゃならないんだろう。
「うん、わかった」
俺は圧倒されてそんなふうにしか答えられなかった。
この世に未練を残した
今までもそうやって六角市の市街をパトロールしてたのか? ドタキャンされたこともあったけどあれもそうだったのかもしれない。
それでも徐々に俺を頼ってきてくれてる。
ただ……。
――できるなら自然な成仏を待ちたいってことでしょ?
――ああ、私たちのような能力者の能力で強制的にってのはしたくない。
九久津と寄白さんの会話から察するに場合によっては、その
「ところで調子は?」
寄白さんは意表をつきまたスマホの向こうの九久津に声をかけた。
「うん。大丈夫だよ」
ああ、やっぱりこのふたりも信頼で繋がってるんだ。
寄白さんはっきりと言葉には出してないけど九久津のあの黒い風のことを訊いたんだ。
九久津もきっとそれを理解しているはず。
モナリザが痙攣するくらいの風、心配して当たり前だよな? そもそも昨日の言い合いだって寄白さんが九久津を心配してのことだし。
「そっか」
寄白さんはそれ以上なにも
「うん。あと今のところエネミーちゃんを護衛してるべとべとに動きはなし」
「まあ昨日の今日だからな。それでも油断はできない」
「まあね」
しかもこのふたりでエネミーを守ってる。
おたがいがバラバラだったら守る者も守れない。
――キーン。コーン。
――カーン。コーン。
あっ、予鈴のチャイムだ。
もうすぐ昼休みも終わる、そろそろ教室に戻るか。
俺は電話を終えた寄白さんとふたりで校長室から廊下にでた。
そこで確認しなければならないことがある、それは山田だ。
校長がターゲットとはいえ
――きみたちまたふたりで。といわれかねない。
寄白さんはそんな俺に気づいたのか――いないよ。といった。
なんでわかるんだろう?
「
えっ!?
寄白さん、霊長類ヒト科ヒト属の新種「山田」の習性は把握済みなのね。
寄白隊員と社隊員で山田の生態調査完璧じゃん!!
ってことはやつはいまだ自分の机で『保健だより』をながめてんのか?
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繰はテレビをミュートにして教育委員会に一報を入れていた。
「四階の修理をお願いしたいんですけど」
「わかりました。二、三日かかりますけどよろしいでしょうか?」
「はい」
――修文222円という硬貨を使おうとした客が逮捕されました。
最近これ似た事件が相次ぎ、一種のいたずらではないかとも考えられています。
現在、警察では――
繰が背を向けている無音のテレビでそんなニュースが流れていた。
(戸村さんにも背中を押してもらったし。どっちに転んでも今日の放課後に結果が出る。ただ放課後、私ひとりだった場合はちょっと心細いかな? できれば沙田くんに一緒にいてもらいたいんだけど。どこか安心感があるのよね)
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