第253話 禁断の黙示録 ―ポセイドンの槍―
一条も二条もハンも三者三様に前方の巨大なアヤカシの変化に釘付けだった。
本来この三人が周囲の状況から注意をそらすことは稀なことだ。
避雷針を待っている二条でさえそうなのだから、この討伐作戦のゆく末にも等しいアンゴルモアの石化の
二条もハンに倣ってようやく重い腰をあげ黒い物体の上に立つ。
「一条。私の足元の空間もっと広げて。そうね六畳ぶんくらい」
「ほいよ」
一条は左手の親指と人差し指を弾くと、二条の足元にある黒い物体は布にこぼした液体のようにみるみると広がっていった。
ハンはアンゴルモアの石化の状態を逐一観察している。
『だいぶ石化が進んできたな。それでもアンゴルモアは身動きがとれないってわけじゃない』
アンゴルモアは石とそうではない場所とが
一条と二条とハンの三人が空の上の
積乱雲の頂点が竹を割ったように左右に開かれた、これが海ならばモーセの十戒と呼べるだろう。
(な、なんだ?)
アンゴルモアのいる頭上の空気がぐるぐると回転して周囲の雲を巻き込み上昇していく。
真逆の引力に引かれた雲は瞬時に消え去る。
雲の消失点で隕石が惑星に衝突したような――どごん。という轟音が響き渡った。
呆気にとられた、一条の口元からは甘噛みしていたタバコがポロリと落ちる。
いまだあたりに余韻が響いている。
「おっ」
一条はタバコを膝下で手に受け、そのまま自分が座っている黒い物体の中に押し込んだ。
ハンから受け取っていた手紙も併せてそこに入れる。
雲の晴れ間にさらに一段と低音の効いた轟音が轟く。
空が墜ちる、一瞬、そう見誤るような現象のあとに二条がアンゴルモアを照らすために放った球電より
その場に浮遊しているのは神々しいほどに
超巨大なアンゴルモアの体でさえ一突きにできそうなほど大きな槍が突如として現れた。
(あ、あれはポセイドンの
「トライデントか」
一条はトライデントの出現でようやくやる気をみせる。
危機感が不足していたといえばそれまでだが『円卓の108人』をはじめとする作戦指示組織の統率の乱れに嫌気がさしていたという理由も大きい。
一条も二条と同じようにして自分の足元の空間を広げて足場を確保する。
(こんだけスペースがあればいいだろ)
浮遊しているトライデントが空中で伸縮をはじめ超金属の槍がどんどんと縮んでいく。
(トライデントがリサイズしてる)
トライデントはある一定のサイズで固定されたとたん、目に見えない
アンゴルモアの体からは悲鳴にも似た大量の瘴気がもれる。
だがトライデントはいともたやすくその瘴気を掻き消していった。
(……あれだけの瘴気が消えた。そうか、トライデントを避雷針にするのか)
一条がアンゴモアに目を移すと自身の嫌いな注射器はすでにどこかのモニュメントのように石になっていた。
(……なんか目盛りがリアルでイヤだな。つまりあの目盛りのぶんだけ痛みを我慢する時間ってことだよな……)
三人はまた別のなにかが空を裂いてくる音を聞いた、と、同時にそれぞれがそれそれの身に風圧を感じる。
一条が視線を頭上へと移すとハンのところに巨大ななにかが迫っていく途中だった。
ようやく――ビュン。という音が遅れて聞こえてきた。
「あっ、くそっ」
一条はただそれを見送るしかなかった。
「なに?」
さらにそれは二条の真横をすり抜けていったん鞭のようにしなりハンを叩きつけた。
――ばおん。ハンはなにか弾力あるものを撥ね返すようにしてメデューサの盾でそれをいなした。
ハンはそれをまたメデューサの盾で受けたが物体の威力が倍増していて――ばちん。とメデューサの盾もろとも弾き飛ばされていった。
『事後報告だが。一条、晴、目をつむってくれ』
「ああ。いわれなくてもそうしてるよ」
「私もよ」
一条も二条もすでに瞼を閉じていた。
(いったどこまで飛ばされたんだ? 見えねーから感覚でしかわかんねーな)
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