第188話 スイーツパーラー

 エネミーはそういっておどけたあとにエネミーも手前にあったもうひとつのメニュー表をとってパフェを選びはじめた。

 えっ、なにもう注文するの? 校長と社さんがまだきてないけど……。

 いくら社さんがここに向かっている途中だからって、待つという選択肢があっていいんじゃないの?と思ったけど、社さんの立場になってみればこのふたりがすでにパフェを注文して食べてるのも想定内な気がしてきた。


 そうこうしていると俺たちのもとに水が運ばれてきた。

 パフェの店なのに水が出るんだよな。

 それはアイスの専門店なんかでも同じか。

 あれっ? 店員は水だけを三つ置いていくと注文も訊かずに銀色のお盆を小脇に抱えてまた一階に下りていった。


 「この心太しんたさんとはどんな味でしょうか?」


 寄白さんは自分が見ているメニュー表をエネミーのほうに向けてそこを指さして問いかけた。


 「なにアルか? 美子それはきっと心太しんた味アルよ」


 「そうですか。あまり美味しくなさそうですね?」

 

 エネミーそのままの答えだな。

 俺が今日の小テストで想像した「おみなえ師」に通じるものがある。

 てか寄白さんのいってる「しんたさん」とはなんのことだ? 俺は寄白さんが持っているメニュー表をのぞきこんでみた。

 よ、寄白さん、そ、それは心太ところてんって読むんだよ。

 今日の三、四時間目の小テストでおもいっきり出てたじゃん!!


 今回はつっこまずに放っておこう。

 うん、それがいい。

 た、たしかに俺もテストで心太ところてん心太しんたと読んださ。

 他に読みかたがない気もするし。

 そこで俺が頭をフル回転させて絞り出した結果、答案用紙になんと書いたか……それは心太こころぶと……そう俺は心太こころぶとと書いた。

 ふつうに爆死したけど。

  

 「心太しんたはきっと酸っぱい系アルな」


 「わたくし。酸っぱいの嫌いです」


 「うちも酸っぱいのイヤアルよ」


 エネミーの味の予想結構かすってるな。

 こういう店って甘いものがメインだからすこししょっぱい系のサイドメニューも置いてあるんだよな。

 しかもカロリー気にする女子向けに心太ところてんを置くとはなかなかわかってるな。

 あと春雨のコンソメスープもあるし。

 体が冷えたところに温かいものをどうぞ的な絶妙ラインナップだ。


 「エネミー。社さんってもう本屋出たんだよな? まだ着かないの?」


 「出たアルよ。けど雛はリッパロロジストアルから途中で良い本見つけて

もう一回戻ったかもアルな?」


 「リ、リ」

 

 リッパロロジストだとぉ!?

 な、なんだリッパロロジストって? リッパをロロるのか? ぜんぜんわかんねー。

 しかも悔しいのはエネミーがそのリッパロロジストの意味を知ってるっていうことだ。

 第三セクターの悪夢ふたたびだな。

 言葉の終わりに「スト」がつくってことはスタイリストとかネイリストとかファッション的なやつか? いや社さんはそんな浮いたタイプじゃない。

 ならばセラピスト系の癒し方面か? リッパってリンパの違ういいかたとか? おっ!?

 てことはリンパマッサージが近い気がしてきた。

 リンパ流して美を極める……。

 こ、これはハズれだ。

 今の社さんにそんなものは必要ない。


 「お待たせしました。こちらミックスパフェです」


 お、おいっ!? 

 いつの間にパフェ注文したんだよ? あっ、店入ってすぐのときか。

 下で注文して二階に運んでもらうパターンなのここ? だからさっき店員が水だけ置いて帰ったのか? じゃあ、そのメニュー表の確認はただの復習かよ? そういやふたりともレジ前でキャイキャイしてたな~。

 俺は女子だけらけだからあの場から遠ざかったんだった。


 「ここに置いてほしいアル」


 「わたくしの前にも」


 店員さんはコトンとコトンとガラスの入れ物をふたりの前に置いた。

 そして手際よく紙ナプキンをパフェの横に置きその上にスプーンとフォークのセットを乗せていった。

 ふたりは満面の笑みを浮かべている。

 この流れならリッパロロジストの話題は消えていきそうだ。

 あとでひとりになったらエネミーにドヤられる前にスマホで検索しよう。


 「以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」


 「はい。揃っております」


 「あるアル」


 エネミー――あるアル。って「あるある」みたいじゃねーか。

 俺がパフェを注文したのかしてないかなんてどうでもいいのね。

 いや、そもそも俺がここでパフェを食べるとういう選択肢さえこのふたりにはないんだろう。


 「では、ごゆっくりお召しあがりください」


 店員さんは一礼してまた一階へと下りていった。

 まあ、いくら美味しいといわれていても女子率高めのこの場でパフェを食べる気にはなれねー。

 他の女子に――あいつ。パフェ食ってるヤバくネ? っていわれたら終わりだ。


 ――マジだ。フォークでイチゴ刺した。うける~。


 ――ふうつクリーム最初じゃネ。キモっ!!

 

 なんていわれたら、もう立ち上がれねーぞ。

 ってまあ、そんなことをいいそうなギャルはいないか、い、いや、チョロっといてはるな。

 まあ、俺は今日一日、絶対パフェ食うぜ魂で過ごしてきたわけじゃないし、いつでもこれるし。

 いや、ほんとは昨日アイスを食い損ねたぶんの心残りは若干あるけど。

 それより明太マヨポテトとかチーズバジルポテトとかないかな~? 今となってはそっちのほうが食いてー。


 「いただきます」


 「いただますアル」


 ふたりは意外と礼儀正しくて両手を合わせてちょこんと頭を下げた。

 エネミーの語呂がちょっと変だけどそれでも挨拶をしてから食べるのは好印象だろう。


 「このパフェのシズル感は生々しい証言アルな」

 

 「ええ。瑞々みずみずしい証言でして」


 証言ってなんだよ? 「生々」しいも「瑞々」しいもここで使う言葉じゃないし。

 ただエネミーのシズル感だけは現代いまふう。

 挨拶を褒めたそばからシシャ語(?)で会話かよ!!

 寄白さんとエネミーは俺の知らないところでこっそりとミックスパフェの大盛を頼んでいた。


 俺がレジの前から勝手に遠ざかっていったわけだからこっそりでもないか。

 パフェの上には生クリームにプリン、それにキャラメルクッキー、イチゴ、バナナ、キウイなんかのフルーツも乗っている。

 いたってふつうのパフェ、ザ・フルーツパフェ!! 

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