第156話 蛇の巨魁(きょかい)
『あっ。ごめん。ちょっと電波が』
ヤヌダークはようやく我に返ってありきたりな返事をした。
「そ、そう。ヤヌでもあなたのせいじゃないわよ。
繰はヤヌダークの
電波が弱まったなんてことは口から出任せだと気づきながらも今はそれがいちばん正しい選択だと思いそれ以上話を広げることをしなかった。
誰にだって触れられたくはない傷がある。
それを知らない
『繰。その言葉に救われたわ。ありがとう。でも繰よく考えてみて十年前のバシリスク出現時に六角市にはバシリスクを倒せそうな能力者は堂流以外にいた?』
「えっ? 堂流以外の能力者?」
(あのときって……。たしか升教育委員長も五味校長もつぎの国際交流会会議で六角市にいなかった……)
「いいえ。いなかったわ」
『その意味がわかる?』
「……ん?」
(まさか日本は升教育委員長と五味校長の不在時を狙われたってこと?)
『……モンゴルはミドガルズオルムとヨルムンガンドに攪乱させられていた。そんな真っ只中フランスの実力者であるボナも偶然モンゴルに向かっていた。その隙にヨーロッパはバシリスクの進入を許した。とくに進入口にあたる東ヨーロッパの被害は甚大だったと聞く』
「あっ、話の中に登場する国、日本、モンゴル、フランス三カ国すべて
(そんな偶然あっていいわけがない。偶然すぎる偶然は作られた悪意。誰かが
『世界を股にかける狡猾な
そういったヤヌダークはここでロベスの姿を浮かべたわけではなかった。
その理由に明確なものはないけれど、ただの感覚だ。
あんな掴みどころのないやつがここまで緻密な作戦を練ることができるのだろうか?と思いながらもなにかを知っていることは間違いないとも思う。
――おまえは
ヤヌダークの不安はロベスのその言葉に集約されていた。
(狡猾な
繰は電話越しに身震いする。
そんな狡猾で冷徹な存在に心当たりがあったからだ。
いまだにいるかいないかも判明してはいないけれどいつもいつもその存在をにおわす
(蛇……。旧約聖書から抜け出した災い堕天の悪魔。その堕天の悪魔が遣い魔を遣うってほんとうにそのまま)
「さらにそいつがもしなにかしらの能力者だったら。いいえ。そんなやつが無能力なわけがないか……」
(真野絵音未を唆した人物も人体模型をブラックアウトさせた人物もバシリスクを操っていた者もすべて同じ人物……。あの日学校はブラックアウトした人体模型に狙われて
今このときヤヌダークと繰はその者かがどこにいるかを考えていた。
ヤヌダークはフランスあるいはEUをふくむヨーロッパとモンゴルあたりを想像している。
反対に繰は日本以外には考えられないと思っていた。
繰にはさらに踏み込んだ考えが生まれる。
そうしてふたりの思考に
『これは世界規模の緊急事態に発展するかもしれない……』
(それに二条さんのいっていた藁人形……あれって忌具よね? 蛇はあの日忌具をも同時にぶつけてきたのかもしれない。それこそ忌具を
「ヤヌ。そいつの目的ってなんだろう?」
『目的……ね。人が罪を犯す動機は大きくわけて四つ。怨恨、異性間トラブル、金銭目的、快楽ね』
「その中で考えるなら……」
(怨恨の場合は対象者が多すぎる。この状況で異性間のトラブルってのも考えづらい。快楽目的でここまで綿密に計画するかな? これもあんまり現実的じゃない気がする。だとしたら金銭目的か……あっ!? そ、そっか世界を混乱させれば全世界が緻密に連携してる
『どのみち今、私たちが話したことをトレーズナイツのみんなに進言してみる』
「ええ。お願い。手遅れになる前に……。それにフランスという国が動けば日本の当局にも話が通りやすい」
『そうよね。そういえば当局で思い出したんだけど
(ジーラディアってアンゴモアが具現化したあの大陸か。アンゴルモアって言葉は
「失われた大陸ね。いいえ知らないわ。そこまでの情報はここにはきてないし。そもそも省庁の情報は私たちにまでは下りてこないの。升教育員長になら話はいってるかもしれないけど」
『そっか。まあ、そういうことで……私もやれることをやるわ』
「ええ。ありがとう。ヤヌ」
(堂流。お願いみんなを守って。……この話は九久津くんにするべきなのかな? でも場合が場合だけにまだ早いかな)
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