第44話 学校の6不思議。ひとつ足りないなら俺が創ってもいいよな?

 「まあ、でも沙田のおかげで助かったよ!?」


 九久津もたまには褒めてくれるんだ、てか、もういつもの九久津に戻ってるし。

 死者のときスゲー殺気のときあったからな。

 でも、イケメンってなんか傷とかあったほうがかっこいいよな? 卑怯じゃねーか!?

 あっ、あれ……? この顔恐竜のときの人に似てる……あの人も傷だらけだったよな……? それでも家に送ってくれたんだよな……? あの人って誰だったんだろう?


 『ときがきたら君の力を貸してほしい』


 俺の脳内あたまの中にラプラスとは違うそんな言葉が響いた。

 どうしてこんな言葉が……俺が覚醒したから……? 誰の声だ。

 でもどこか頼りがいのある声だ。


 「沙田の潜在能力はさすがだな」


 今思ったけど頭の中の声って九久津にも似てる気が……。

 なんでだ? まあ、世の中にはイケボの人もたくさんいるから九久津と声が似てる人もいるか。

 ってことはこの声の主もイケメンかも。

 九久津は寄白さんの上体をゆっくりと起こした。

 朦朧としていた寄白さんの意識はすでに回復していて、寝違えたときのように首筋をさすっていた。

  

 「痛ッ……」


 「美子ちゃん大丈夫? 手かすよ?」

 

 九久津は寄白さんに肩を貸したまま廊下の壁際まで運んでいった。

 そして体を支えながらも紳士的に手をサッと外した。


 「美子ちゃん、大丈夫?」


 寄白さんはスカートをヒラリとさせ、ひとり石膏の壁にもたれ全体重を預けた。

 

 「ああ」

 

 まだ肩を上下に揺らして呼吸している。

 それだけ大変な状態だったってことだよな。

 

 「よくやった。さだわらし」


 「あ、あのさ、寄白さん。前からいおうと思ってたんだけど俺は“さだただし”って名前なんだけど?」


 俺のこのどさくさに紛れていおうという魂胆と下僕精神だ。


 「そんなの知ってるわ。バカが!!」


 よ、良かった元の寄白さんに戻ったみたいだ。

 怒られたのに、な、なぜか嬉しい。

 あっ、でも、ストレートの髪型でこの性格ってことはの性格こっちか~。

 ツンツンだったか~、そうかツンツンか~? でもこの髪型もかわいいな。


 「じゃあ、なんでさだわらしなの?」


 「漢字にしてみろ!? そもそもすでに私の下僕だろうが。この情弱じょうじゃくDQNが!!」


 「なっ!?」


 復活したとたんに、なんつー暴言吐くんだよ!?

 そう思ったけど寄白さんの痛々しそうな両耳の六つの赤い跡を見ると、いたたまれない気になった。

 まあこんな悪口くらいかわいいもんだ。

 この町の不文律は崩れた。

 このさきアヤカシたちがどうなるか俺にはわからない。

 それでもここにいる四人が無事ならそれでいいと思う。

 あっ、校舎の下の階は大丈夫なのか?


 「あのね。みんな聞いてほしいの? 私ね、株式会社ヨリシロの社長と六角第一高校の校長の両立場から四校は新築しようと思うの?」

  

 校長は大粒の涙を流しながら顔を覆った。

 やっと落ち着いて気が緩んだんだな。

 でも校長はすぐにクレンジングでもするように涙を払った。

 「六角第四高校よんこう」の解体工事の指示を出したこと後悔してるんだろう。


 ――いいけど。寄白さんも九久津もふたつ返事で賛成した。


 また校長の目から涙がこぼれた。

 良かった、今度の涙は嬉し涙だ、俺にもわかる。

 校長も元気になったしこれはもしかしたら《保健室パンツ》あるか?


 「それで六角市は元に戻るんですか? あと六角第一高校うちの四階より下は大丈夫なんですか?」


 俺は単純に六角市の今後が知りたかった。


 「ええ、校舎は大丈夫よ。四階は戦闘に特化した造りになってるから。町も六芒星が復活すれば大丈夫だと思うわ……。でも上層部うえとの話し合いになるかな」


 そっか、大丈夫そうだ。

 いや信じるか。

 上層部ってのはやっぱりアヤカシに関することを管理してる組織か? 話は変わるけど俺はすこし前から思ってたことをみんなに提案しようと思う。


 「六角第一高校の七不思議って六個しかないんだよな?」


 「そうだね」

 

 九久津は七不思議製作委員会の委員長の顔に変わった。

 あの日のあの変なテンションで演説していた九久津に。


 「じゃあ、ひとつ足りないなら俺が創ってもいいよな?」


 ――なに……? 九久津と校長の声が合わさった。

 〇.一秒ほど遅れて寄白さんの――なんだよ……?も聞こえてきた。

 良かった三人とも興味を持ってくれたみたいだ。


 「学校の七不思議の七番目は《学校の七不思議から人知れずに生徒を守ってる戦士がいる》ってどう?」

 

 ――おお。九久津の一言。


 ――いいかもね!? 校長の賛同も得た。


 今度は〇.二秒ほど遅れて寄白さんの――いんじゃねーの。も素っ気なく聞こえてきた。

 まあ、そのツンツンでこそ本当の寄白さんだけど。


 「日本全国の七つ目のない七不思議の七番目が《学校の七不思議から人知れずに生徒を守ってる戦士がいる》になるように知名度を上げよう」


 「おう、頑張ろう」


 九久津が俺の手を握ってきた。

 なんだこの親近感? あっ、手のひらも傷だらけ。

 そうだよなさっきまであんな戦いを繰り広げてたんだもんな? そりゃあ体に傷や痣もつくわ。

 九久津、転校初日にSとかMとかそういう禁断の趣味でもあるじゃねーのって思ってごめん。


 うっ、て、手が動かねー。

 九久津の手にがっつり力が込められてる。

 そうだ忘れてたけど九久津はソフトマッチョでもあったんだ。

 九久津自身はふつうの力加減にしか思ってないのかもしれないけど、こんな生活してたらそりゃあ筋肉もつくわ。


 「これからはさだわらし。改めナードと呼ぶことにしてやる!!」


 寄白さんは相変わらずだった。

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