モンスターハウス・ルール take over
俺の横にはオカマでマッチョな変態マーガ。
正面には露出狂で顔面に死相を浮かべてる変態ガンリウ。
そして斜め前、テーブルの最奥部には童顔で自己陶酔型の変態バド・レイナー。
うん、やはりここには変態しかいない。
しかも全員イケメンなのが妙にムカつく。
闇族やアンデッドと言った
こう…… 変態的な意味で。
おかしなことが満載だったが。
まずは自己陶酔系の変態バド・レイナーに俺は突っ込みを入れた。
「ミリオンの名を知ってるんなら、あの皇帝陛下が何をしてて、どんな状態なのか分かってるってことだな。
だがそれが影武者で、陛下が既に存命してないってのは……
話が飛躍し過ぎじゃないのか?」
帝都で怪盗ごっこをしたり、ダンジョンを改造した地下牢にひとりで侵入したり。陛下の身体能力は常人を超えた何かがある。
しかも地下牢で感じたシスター・ケイトと同じ、あの特殊な魔力の波動は……
バド・レイナーの話を全て信じるわけじゃないが、説得力がある。
「うむ、まずはそこだな。不思議に思うのもしかたがないが、あの人族の皇帝が偽物なのは間違いない。なぜなら私が先の大戦でその命を奪ったのだからだ」
バド・レイナーは俺の目を見てゆっくりと説明し。
その後、ニヤリと笑ってマーガに視線を向けた。
「ディーンちゃん、その言葉にウソはないわ。バドは今、自分の思考に対する防御魔法を解いてるの。普段は使わないけど…… あたしはケイトちゃんと同じで、思考を読むことができるのよ。それでハッキリと真実だと感じるし、どうやら変な隠ぺいもしていないようだし」
マーガがゆっくりと首を振りながら、そう呟く。
それを鵜呑みにする気はないが……
――どうやら事態は、変態のたわごとでは済みそうにないようだ。
++ ++ ++ ++ ++
バド・レイナーの話を要約すると。
そもそも事のきっかけは帝国…… たぶん財団側からの情報で。
「ある村に『
リークがあったそうだ。
バドはその真意を確かめるべく。
「あの村に入ったんだが……」
サインロード村で俺たちにあって、状況を確かめるべく帝都まで足を運び。
「この屋敷の主と出会った」
だ、そうだ。
そこまでの話を聞いた後。
「今マリスたちはどこにいるんだ?」
俺はバドに問い返した。
「彼女たちは、帝都のキミたちの教会に返したよ。
――無益な殺生は私の望むところではないからね。
キミが地下牢で大人しくしているか、あの教会にとどまっていれば、この状態にはならなかったんだが」
相変わらず歌劇役者みたいに抑揚をつけた言い方が妙に腹立たしかったが。
どうやら俺の勇み足が事態を複雑にしたようだから…… なんとも言えない。
「それで、今のこの状態は何なんだ?」
俺が不貞腐れたようにそう呟くと。
「ああ、ここはキミの想像通りモンスターハウスだよ。正確には、屋敷を魔力で増幅した疑似生命体だがね。
あの女性たちを狙った帝国の輩を眠らせるのが目的だったが。
そこにキミが飛び込んできたんでね。
ガンリウにも協力してもらって、試練を課したんだよ」
バドはそう答えて、不敵に笑う。
それと同時に、マーガがテーブルの下で俺に合図を送るように指を動かす。
特に打ち合わせをしていなかったから、意味不明だったが。
「ご主人様、マーガは『ウソはないけど、なにか含みがある』と、言ってます」
脳内でアイギスの言葉が聞こえてきた。
なら、俺はここでヤツから何かを引き出し。この空間から離脱しなくてはいけないのだろう。まあすべてが好意で、単純に「ありがとう」で済む話ではないと思っていたが。
俺はもう一度確認するように。
「その試練ってのが、どうもひっかかる。お前は俺になにを求めているんだ?」
そう言うと、バドはあきれたように両手を上げ。
「私の目的は初めからひとつだよ……
私は個人的に、どうでもいいと思っている。
――世界の成り立ちなんて、我らがどうこうするものじゃない。闇族として生まれた以上、その種を守る。それがこの世界に対する唯一の私の抗いだからね。
勘違いしてるようだが、私はキミに何かを求めている訳ではない。
真なる
そう答えた。
真なる
「バド、ケイトちゃんのことはいつ知ったの?」
マーガがそう呟いて、またテーブルの下で俺にサインを送ってきた。
「マーガは『危険、魔力の増大』と、言ってます」
それに合わせて、脳内でアイギスの声が響く。
「さて、それは答える必要があるのかな?
あの小賢しい古龍の娘が隠ぺいしていなければ、もう少し早く発見できたのだろうが。今となってはどうでもよいことだ。
それにしばらくの間は、真なる
まあ、今後どうするかは、もう少し流れを見てから決めるがね」
バド・レイナーはそう言うと片手で空中に軽く印を描き、俺とマーガの顔を楽しそうに見る。古龍の娘とは、話の流れからシスター・ケイトを保護していたテルマのことだろう。
マーガはバドをにらみ返しながら、テーブルの下で素早く複雑なサインを描いた。
脳内でアイギスの声が響き。
「ご主人様『バドが遮断魔法と防御魔法を展開した、魔力の流れもおかしい』そうです」
と、警告してきた。
俺はため息をつきながら。
「どうやら勘違いしてるのはお前の方だな。シスター・ケイトはそんな妙なものなんかじゃない。たとえその素質があったとしても…… 彼女はお人好しすぎる、ただのウチの大事なシスターだ」
シスター・ケイトのエロすぎる容姿は、別の問題だからこの際おいといて。
とりあえず俺はそう告げた。
バド・レイナーが俺をにらみ。マーガの手がせわしなく動いて、脳内ではアイギスが警告の言葉を続けたが。
「御大層な試験だか試練をやったようだが、残念ながらそんな物に意味なんてない。俺は誰かに頼まれなくても彼女を守るし、もしそれを邪魔するやつがいるなら。 ――全力で蹴散らすだけだ」
そう付け加えて、クールに微笑んだ。
ここでヤツがマーガに悟られないよう精神を遮断した訳は?
この空間に存在する違和感の正体は?
今までのバド・レイナーの話が本当だとしても、やはりヤツは信用できない。
正面に座るガンリウは、俺たちの話に興味なさそうにお茶を飲んでいるが……
そもそもこいつはなぜこのテーブルに着いてるんだろう。
「なかなか頼もしい言葉だが、勇気と無謀は全く別物だ。
キミは自分の立場と、事の重大性が理解できているのかな?
……少々不安になってきたが」
バド・レイナーの言葉を聞きながら、俺はこの違和感を再確認した。
まず初めに、この屋敷に入って気付いたことなんだ?
リリーのつるりとした可愛らしいお腹…… じゃなくて。
「真夜中の福音」を襲うモンスターが殺傷目的と言うより、精神攻撃に近いことをしていたことだ。
特殊部隊を襲っていたガンリウもまた同じだ。
そして、その事を思い出そうとすると襲ってくる頭痛と既視感。
――まるで同じような事を何度も何度も繰り返したような。
ルージュちゃんに協力を得て、その違和感を確かめようとして侵入してしまったこの空間も、あの屋敷と同じ違和感がある。
そう、記憶の世界。まるで屋敷で起きたこの一連の出来事がすべて夢のような。
なら……
「物事をたのみたいんなら、初めから素直にお願いしますと言えばいいんだ。だますようなことをして、ひとを言いくるめるような態度が気にくわない。
ガンリウ、この森はお前の精神下にあると言ったよな」
俺がガンリウに問いかけると、ヤツは死相満載の顔を楽しそうに歪めた。
――なんかちょっと不気味だが。
「マーガ、闇族ってのはずいぶん精神系魔法が得意なようだが。
集団催眠…… 例えば屋敷ごと、眠りの館に変えることは可能なのか?」
「ディーンちゃん…… そうね、バドなら技術的には可能かもしれないけど。
相当の魔力が必要になるから、それは……」
悩みながら答えたマーガは、ふとガンリウの顔を見上げて目を見開き。
「東国の
ポツリとそうもらした。
ガンリウはもう一度お茶を口に運ぶと、忌々しそうな表情で俺を見るバドに。
「バドよ、お主のことは親友だと思っておるし恩もある。
だが、プライドが高すぎると言うか…… こう、まわりくどいと言うか。
――ここは、素直に引いたらどうだ?」
のんびりとそう言った。
どうやらこの『モンスターハウス・ルール』正解に近付いたようだ。
「ガンリウ、しかしこいつは肝心な自分の存在意義を把握してるとは思えない。
お前も見ただろう、この空間の入り口になった少女に対して……
――過去を書き換えた。
いやアレは書き換えるべき過去の輪廻に、今こいつが干渉したんだ。
それがどんなことか!
危険ならここで殺すし、利用できるなら確かにこれ以上の駒は無い。
だから私は……」
バド・レイナーはガンリウにそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
交渉の行く先も不透明になったし、やつが何を言っているかも理解できなくなってきたが。ここが精神世界で、バド・レイナーが術師、ガンリウが魔力庫なら。
必要なのは戦闘ではなく、そのバランスを崩すことだ……
――しかし、とっさに思いついた策はあまり使いたくない手しかない。
だが人を殺さないために。
こんな
「やはりここで消えてもらうか!」
しかもバド・レイナーが右手に魔力をためだした以上、急がなくてはいけないから。もう選択のよりは無いのだろう。
俺はおもむろにテーブルの上に登り。
不思議そうに俺を見上げるバド・レイナーを無視して、ガンリウに視線を合わし。両手を合わせてお辞儀をする『名乗り上げ』をした。
「いざ尋常に勝負!」
俺がそう言うと、ガンリウが楽しそうに。
「ここでそう来るか! 面白い、受けてたとう」
そう言って立ち上がると、黒いマントに手をかけた。
同じような映像が頭の中でグルグルと周り、頭痛と既視感が襲ってくる。
なら、これが正解なんだろう。
ガンリウがマントを広げた瞬間。
俺はジャスミン先生秘伝の技、もう二度と世に出したくなかった……
――ボディビルという謎の術のひとつ。
「フロント・ダブルバイセップス」を笑顔で決めた。
ガンリウの魔術で俺の衣装が消えると、俺の雄姿を見たガンリウが。
「なんと素晴らしい!」叫び。
「美しいわ……」と、マーガが呟く。
そしてバド・レイナーはアホ面をさらして、ポカンと大口を開けた。
そしてそのまま、部屋に静寂な時が流れた。
あきらめて次の策に打って出るか、引き続き「サイド・トライセップス」という技に移行しようか悩んでいると。
ぐにゃりとテーブルが歪み…… パタパタと音をたてて山小屋の壁が倒れて行く。
「ガンリウ、魔力の供給が止まったぞ!」
我にかえって慌てるバド・レイナーに。
「いや、お主の術が乱れておるのだろう!」
ガンリウはあきれたように答え。
そして暗く深い森が、白い霧に包まれ始めた。
また意識がもうろうとしてきたが。
「くそっ! こんなはずじゃ」
嘆くようなバド・レイナーの声に、俺は正解を引いたことを確信した。
ついでに「あーん、あの素敵な筋肉が見えなーい!」
ど変態のオカマな声や。
「ご主人様ステキー!」「ダーリンもっかいやってー!」
脳内で変な叫びが聞こえたが、俺はサラッと無視した。
そしてあの技は永遠に封印しようと……
――俺は心に、強く誓った。
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