見直しが必要だな

開錠棒を口にくわえ、なんとか腕にかけられていた錠を開けると。後の作業は比較的楽だった。


耐魔術式を完全に解除した後。自分に回復の祭辞を唱え、身体に異常がないかチェックする。視力も完全に戻り、ケガも見当たらない。


軽い酩酊感が襲ってきたが…… むしろ活力がみなぎってきた。


ホルスターの上にあった、半欠けの魔法石が共鳴したような気がしたが。

「どちらにしても、この回復術は見直しが必要だな」

俺はゆっくりと立ち上がって、周囲を再確認する。


閉じ込められた牢は、岩をくりぬいたような造りで。3メイル四方が硬い岩肌でおおわれ。鉄格子以外に出入り口になりそうなものがなかった。


鉄格子にも鍵がかけられ、その外を覗くと。

ぼんやりとした魔法灯が、暗い岩肌むき出しの通路を照らしている。


「よくまあ、陛下ひとりで入り込んできたな」

人工的な彫跡や魔法干渉が少ないから。

ひょっとしたらこれは、過去ダンジョンだった場所を改装したのかもしれない。


魔物出没の危険性は無いかも知れないが。ダンジョンアタックの経験者でなければ、おいそれと踏み込める場所でもなさそうだ。


ナイフホルスターを着こみ鉄格子の鍵を解錠して。気配を消ながらその通路へ身体を滑り込ませる。


陛下が去った方向へ辺りを付け、幅1メイル程の狭い通路を、魔法灯の明かりを頼りに進んでゆくと。時折壁に同じような鉄格子があった。

中を覗くと、誰もいないか…… 既に朽ちた遺体が放置してある。


100メイル程進んで廊下に外の空気が感じられたあたりで。

横道にそれる通路と登り階段に別れた。


「出口は階段で間違いなさそうだが」

横道に入れるから、人が苦しむ唸り声のようなものが聞こえる。


経験上そう言ったものに係わって、苦労した事しかないが。

「後悔するよりましか」



俺は心の中でため息をつきながら……

――その通路へ、足を踏み入れた。



++ ++ ++ ++ ++



その通路は徐々に広がり、幅が4メイルを越えた辺りで。左右に大きな鉄格子が確認できた。右側には、先ほどの俺と同じように手足を拘束された見知った顔の女性がひとり、転がされている。


耳を澄ますと左側にはなんの気配も感じられない。ただ拷問用具のようなものと、血塗られた大きなテーブルが1台あるだけだ。

俺は女性がいる鉄格子の開錠に取り掛かる。


「あ、あんたは……」

どうやらまだ意識があったようで。開錠の音に気付いた真夜中の福音、ジェシカ・ブラディ隊長はゆっくりと首をもたげ。

――不思議そうに俺を見た。


「静かにしてくれ。今、解錠する」

俺がそう言ったら、ジェシカはクスリと鼻で笑い。


「どうやってここに入ってきたかは知らないが、そのカギは、そんな棒切れで開くような代物じゃないんだ。財団が集めた遺跡をベースに、神学院が湯水のように金を使って最新の応用魔法学で作り直した。現代魔術の粋なんだよ」

あきれたように呟いたが。


俺が鍵を外して、鉄格子の扉を開くと。

「そ、そんなバカな?」

ジェシカはちょっとアホ面で口を開けたまま。切れ長のパープルアイを揺らし、俺を見つめている。


確かにそう言われると、少し複雑な魔術回路と設計だったが……

――開錠棒で何とかなるレベルだ。


近付いてジェシカを確認すると、スラリと伸びた瑞々しい四肢に。

両腕、両足、首の5カ所が輪の形をした魔道具で拘束され。それぞれが鎖でつながり、後ろの壁に描かれた魔法陣に繋げられていた。


以前会った時と同じシスター服を着ていたが。拘束時に戦闘でもあったのだろうか、あちこちが割け。太ももや、おへそが見えている。

20代初めぐらいの女性特有の美しさと、艶っぽさが…… その、アレで。


「見たことの無い魔法陣だが……」

なんとか俺が、拘束されたエロい格好のジェシカから視線を外し。

壁の魔法陣を眺めていると。


「ここは元々『不帰カエラズのダンジョン』と呼ばれた場所なのさ。

奥には、殺すことができない魔物なんかを封印する地下牢があって。

この魔法陣はそこから魔力を吸収して、あたいを拘束してる。

――さすがのあんたでも、それは無理だろう」

何かをあきらめたようなジェシカの呟きが聞こえてきた。


「奥と言うと、ここをそれてもう一本入った場所か?」


「あんたあっちにも足を踏み入れたのかい? なら、早々に引き返して正解だよ。あそこのトラップもダンジョンにあったものを、神学院のやつらが応用魔法学で改良した、厄介なやつばかりだから……

命があった事を、喜ぶんだな」


たぶんその最奥部に閉じ込められてたはずだが。

――そう言えば、いくつかトラップのようなものがあった気がする。

まあ、適当に解除しながらここに来てしまったが。

そう言うのなら、きっと運が良かったんだろう。


「迷宮系のダンジョンの応用魔法陣か」

なら、地下から溢れる魔力を利用したものだろう。


「この魔力を吸収できるか?」

ホルスターからガロウを引き抜き。


「やあ、ダーリン! 変な術式が邪魔してるけど、それをどけてくれれば大丈夫」

魔法陣を逆算して、魔力の制御部分をガロウで数カ所削り取り。


「なら、存分に喰らえ!」

力の統制が取れなくなって、赤く脈打つように膨れ上がった魔法陣の中央にガロウをつき立てる。


「ははっ! 結構な量と味だったね。

これならアイギスがしばらくの間は、楽しく遊べるんじゃないかな?」

それがどれほどのモノか見当がつかなかったが。


魔法陣がガロウに吸収されるように掻き消えると。カシャンと鎖が外れる音がした。俺は振り返って、ジェシカを確認する。


「あ、あんたは…… いったい……」

顔を青く染め震える姿は、怖がられてるようにしか思えない。


「鎖までは、魔力の供給を切ったら外れたが。その拘束具は、物理的な能力もあるみたいだな。ひとつひとつ開錠しなくちゃいけないが、良いか?」

だから俺は、念の為確認しておいた。


「なにが目的なんだ!」

美女が地下牢で鎖に縛られながら震えるのは、やっぱりエロすぎるんだが……


「目的なんかない、俺もこの牢に閉じ込められてね。通りすがりのついでだよ」


どうも信用してくれないようで、はいずりながら距離を取られた。

もう、完全にパンツが見えちゃってますが。


「あたいを人質に財団と交渉なんてできないよ、見ての通り……

――もう見捨てられてるからね。

後はあっちの部屋で、実験成果の確認とか言って。神学院の連中にバラバラにされるのを待つだけだったんだ。

ああ、それから。体が目的なんだったら。とっとと済ませてくれ。もっとも、こんな人形みたいなものを抱いても楽しくないだろうがな」


俺はジェシカを拘束する5つの魔道具を確認する。二の腕の2つと、左足首の1つは、さっき俺にかけられていたものと同じものだろうが。

首の拘束具には、起爆術式が仕込まれていそうだし。右足は…… なぜか太ももに巻かれ。ボルトのようなものが数本、直接足に打ち込まれていた。


「そうか、ならとっとと済ませるよ」

俺はため息交じりにそう言って、震えるジェシカを抱きかかえ。



その細いあごをつかんで、ゆっくりと持ち上げながら……

――首の拘束具に、開錠棒を差し入れた。



++ ++ ++ ++ ++



正直、開錠にはものすごく手間がかかった。

首に巻かれた拘束具の鍵穴は、あご下にあり。開錠棒を動かす度に、薄く形の良い唇から吐息がもれるし。


二の腕に巻かれた拘束具も…… ジェシカの形の良い、ツンと上向きのおっぱいに触りそうで。

――いろいろ神経を使った。


教会に襲撃に来たシスターたちもそうだったが、どうも財団のシスターは修道服の下にブラジャーをしていないようだ。宗教上の理由でもあるんだろうか?

汗ばんだ布が張り付いて、その形がハッキリとわかって困る。


「いったい何を……」

3カ所の開錠が終わったあたりで、ジェシカは俺に聞いてきた。


「後は脚の2カ所だが、片方は痛みが伴うだろう。俺の時もそうだったが。回復術も、すべての拘束具が外れないと効き目がない」


しかも太ももの鍵穴は、内側のやや後ろ側についていた。

――これ、後ろを向いて脚を大きく開いてもらわないと開錠できないな。


「さっきも言ったろう、あたいを助けても。なんの利益にもならないよ」

不審そうに呟くジェシカに、どう応えたらよいか悩む。


確かに、敵だった人間に突然助けられても信用できないかもしれない。

俺としては、どんな事情かは別として。


ただ単に、この状況をなんとかしたいだけだが……

――問題は、彼女の生きることをあきらめたような目だ。


「せっかくの美女なんだ。どうせなら、もっといい場所でゆっくりと楽しみたい。ケガをして疲れ果てた女を抱く趣味も無いしな」

だからわざと憎まれ口調でそう言ったら。


少し顔を赤らめ、そっぽを向かれた。

サラリと、透き通るような紫の髪が揺れる。


まあ、今は憎しみでも何でもいい。ジェシカの気力が戻るのなら。


「ば、バカじゃないの? さっきも言ったように。

――あたいの体の半分は作りものなんだ」


ちょっとその『つんでーれ』みたいな態度に、少し萌えたから。


「いい女って言うのは、体じゃないんだ。抱きたいのは、その心だ」

俺はクールにそう呟いて、世界の真理をひとつ教えてやった。


俺の言葉を聞いたジェシカが、すねたようににらんできた。きっと真夜中の福音に係わらなかったら。街でも有名な美女で、今頃幸せに結婚でもしていただろう。

キリリと整った目鼻立ちの中にも、可愛らしさが垣間見える。


俺はゆっくりとジェシカを床に寝かせ、足首の拘束具を解錠する。

残りの太ももの開錠のために。


「場所が場所だ…… すまないが、体制を変えてくれないか」

そう頼んだら。


「ああ、わ、わかったわ」

うつ伏せに寝ていたジェシカは、少し恥ずかしそうに腰を持ち上げ、脚を開いた。

切り裂かれた修道服と手で、なんとか脚の付け根を隠そうとしているが。


隙間から黒いレースのパンツが見えちゃってるし。

突き出されたボリュームのあるムチムチお尻に目が行きそうになる。


その恰好がエロすぎて…… アレやコレだ。

うん、この状況は。とにかく急いだ方が良いだろう。


――俺は悩んだが。

結局あお向けに寝て、開いた脚の間に顔を入れて作業を始めた。


たぶん、この太ももが彼女の人造部分の中心なんだろう。エマやジュリーと同じ波動が、一番感じられる。

打ち込まれたボルトも、その波動を制御するような状態だから。ジェシカの能力。 ……あのスピードと怪力を拘束するために、こんな場所にあるんだろう。


細いが、ムチムチとした太ももと、パンツを隠すために添えられた白魚のような指。そしてその隙間から見えるレースの黒パンツに集中力を奪われかけたが。


「解錠はできた、これから拘束具を外して回復術をかける。痛まないよう、できるだけ素早く作業するが…… 声を出さないように注意してくれ。巡回の警備には来てないようだが、大声が聞こえたら監守が踏み込んでくるかもしれない」


俺がそう言ったら、たぶん頷いたんだろう。ジェシカの身体がコクリと揺れた。


ボルトは全部で6本、骨には達していないようだったが。

釣り針のような返しがあり、簡単に抜き取れないようになっていた。


外れる瞬間に、対魔力防御が弱まったから。

心の中で回復の祭辞を唱えながら、俺は一気に太ももの拘束具を外す。


「くっ、んー、んー!」

くぐもったジェシカの悲鳴が聞こえたが。回復魔術が間にあったようで、出血もなく。すべすべの太ももの美しさは、保たれたようだ。


俺がそれを確認して、安心したら。

「はあっ、あん」

ジェシカがやけに色っぽい吐息をもらし。


俺の顔を太ももで挟むと、ビクンビクンと数回腰を震わせ。

「んー!」

もう一度声を殺した悲鳴をあげ、大きく背を反らし。

力尽きたように、おれの顔の上に腰を下ろした。


柔かい太ももの感触がダイレクトに頬に伝わり、顔面にアレやコレやの感覚がパンツ越しに感じられたが。

俺はなんとか桃源郷から脱出し、荒い吐息のジェシカを抱き寄せた。


ジェシカはやけに色っぽい瞳で俺を見つめると。

エロくて薄い唇から、タラリとよだれをこぼした。


「大丈夫か、何処か痛むのか!」

心配になって、聞いたら。


「痛みなんかなかったし、もう体中…… なんだかふわっとしてるわよ」

火照った顔で、途切れ途切れに答え。


そして何かに耐えるように、俺の身体を強く抱きしめ。胸に顔を埋めながら。

「こんな体になってから、女の喜びなんてあきらめてたのに……」

そう呟いた。


ナイフホルスターに入れておいた半欠けの魔法石が、やはり共鳴している。

この回復術は改良が必要だと考えていたが。



どうやら違う方向性で、さらに改良されたようだと……

――俺は心の中で、クールにため息をついた。

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