キラキラ眼で

夕刻にシスター・ケイトが帝都から帰ってくると。

「まあ、にぎやかですね!」

彼女は集まった面々を見て、嬉しそうに微笑んだ。


シスターの勧めで、お嬢様もローラもドラゴン・バスターズのメンバーも。

教会で食事をしながら今後の作戦を練る事になり。


「ケイトちゃん! あたしも手伝うわ」

メリーザと2人で夕食を準備する事になった。


シスターは……

「メリーザ様は、あのお化粧を落とされたんですね。

やっぱりそちらの方が素敵です!」

――そう言って笑っていたから、どうやら初めから気付いていたようだ。


「シスター、帰ってきたばかりですまない」

俺がそう話しかけると。


「そんな、ディーン様!

なんだか修道女時代を思い出して、とっても楽しいです」

ニコリと微笑んだ。

シスターの、この人の好さはどこから来るんだろう?


俺が悩みながら振り返ったら。

あちこちでキャピキャピした会話や笑い声が聞こえてきた。



確かに今この教会は、修道女院とも言えなくなくて……

――男の俺は少し肩身が狭いのだが。



++ ++ ++ ++ ++



お嬢様がサインロードの出来事を説明すると。続いてリリーが昨夜の武勇伝を身振り手振りで話だし。最後に帝都の報告をシスターがしてくれた。


「それでは、さらわれたジュリーちゃんを見つけ出さなくちゃいけませんね!」


例の下着みたいな服装に着替えたシスター・ケイトが。大きな胸をブルンと震わせ、そう叫ぶと。

同じテーブルについていたドラゴン・バスターズのメンバーが。

そのボインボインとした動きにおどろいた後…… 自分の胸に視線を落とした。


リリーの話では、彼女たち『親衛隊』はマルコをリーダーに6人いて。全員10代半ばだとか。


――なら、心配しなくていい。

まだ可能性と言う名の未来がいっぱい詰まってる時期だ。


俺はふと彼女たちの『さらし』を見たが。

妙に形がハッキリわかるし、上半分は出ちゃってるし。

若い張り艶が全開で…… あれはあれでエロすぎる気がしてならなかった。


「シスターの話からジュリーの居場所は見当がついたよ。

後はどうやって、マリスの屋敷から彼女たちを保護するかだが……」

俺が気を取り直してそう答えると、シスターは不思議そうに首をひねった。


「うむー、下僕よ!

どういうことじゃ、我等にもわかるようちゃんと説明せい!

主は途中の説明がいつも飛んでおる」

リリーが大きな肉を飲み込むと、不満そうに抗議してくる。


優雅にナイフとフォークで食事をしていたお嬢様も、手を止めて俺を見るし。ローラはぺろりと口周りをなめて、艶めかしい視線を俺に向け。マルコたちドラゴン・バスターズのメンバーも、ワクワクとした表情で見つめてくる。


「ディーンの説明不足は、今も治ってないのね」

あきれたように笑うメリーザに。


「……どうも苦手でね。

そうだな、ちゃんとわかるように順を追って説明するよ」

俺は苦笑いで、そう応えた。



++ ++ ++ ++ ++



「最初のサインロードの襲撃とキュービの失踪は、同じ理由で動き出した財団の罠なんだ。 ――そう考えると全てのつじつまが合う」


メリーザの話で分かったが、この事件は13年前。神学院の研究にキュービが係ったことに端を発している。


「そもそもキュービの商会『カグレー&キュービ』のもとになったカグレー商会は『財団』や『神学院』とつながっていたんだろう」

カグレーさんの言葉や行動を思い浮かべると、その可能性は極めて高い。


「神学院の研究が……

どこかで『財団』のアームルファムの秘宝伝説にぶつかったのかもしれない」


キュービの手紙に書かれた『秘宝』の言葉と、エマやジュリーの正体。

……そして俺の書いた数式と、メリーザに行われた神学院の実験。


「メリーザ、ここまでは間違ってないか?」

俺がそう問いかけると。

「やっぱりディーンは、なんでもわかっちゃうのね」

メリーザは苦笑いした。


――なら、俺の考えに間違いは無いようだ。


「今朝あった魔族バド・レイナーを名乗った男の口ぶりからして。

やつらはなんらかの理由でジュリーを探している。そして、その情報を魔族に流したのは『財団』だろう。

最初の襲撃でタイミングよく真夜中の福音が村に入れたのも。2回目の襲撃に備えて兵を配備したのも。

そう考えればすんなりと腑に落ちる」

俺がそこまで話すと。


お嬢様が上品にナフキンで口を拭き。

「確かにそうだとしたら説明がつくけど。いったいなにがしたくて、財団はそんな事したの?」

そう質問してきた。


「財団は襲撃に来た闇族と、ジュリーとメリーザの両方を殺すつもりだった。そして失敗したやつらは2回目のサインロード村の襲撃と、この教会への襲撃を企てた。目的はシスター・ケイトか、キュービの手紙だと見当をつけていたが…… この教会を襲撃したあいつらにカマをかけてみた感じだと。狙いはどうやらシスター・ケイトのようだ。

とすると…… 財団の目的は、闇族の討伐と。

――神学院が行った実験の証拠隠滅だろう」


あるいはアームルファムの秘宝について、なにか探っているのかもしれないが。

今の状態では確証が少なくて想像の域を出ない。


「その、聖国でリリー様に聞きましたが。あたしには、やっぱり闇族の血が流れているのでしょうか? それで皆様にご迷惑を……」

消え入るような声で、シスターが呟いた。


「そんなことは気にしなくていい、シスターは素晴らしい人だ。

だいたい闇族に罪がある訳じゃない。

それを統べていた『闇の王』と呼ばれる魔族に問題があるだけだ」

大事なことだから、俺が強くそう言い切ると。


「そんな…… 素晴らしいだなんて」

なぜかシスターは頬を赤らめた。

あれ? なにか勘違いされてしまったのだろうか?


俺が戸惑っているとリリーとお嬢様が、深くため息をついたが。


「ケイトはあたしの大切な友達なんだから。マーベリック家の名にかけて、必ず守って見せる! だから心配しないで」

お嬢様がそう言い。


「そうじゃ、お人好しすぎて心配なところもあるが。

我とて、そなたのことを決して見放したりはせん!」

リリーも同調するようにそう言って。


――リリーとお嬢様が、なぜか俺をにらみ返した。


俺は咳ばらいをひとつして、説明を続ける。

「マリスは財団が魔族に情報を流す前から、何かに気付いて動いていたか。

この事件の主導的な立場にいる」


そう言ったら、メリーザが不思議そうに聞いてきた。


「そもそもあの手紙はキュービが書いたんでしょう?

あたしも読んだけど、筆跡は間違いなくキュービのものよ。

それにマリスがこの件に係る理由がさっぱり分かんないわ」


「俺もその理由までは分からんが…… マリスがなにかを隠しているのは事実だ。あんな大きな屋敷で、使用人を雇わずに暮らしている事すら怪しい。

金に困っている訳ではないし。マリスは自分の身の回りのことをこまごまとするタイプじゃないが。やけに調度品の手入れや、掃除も行き届いていていた。

それに手紙を届けたシスターとナタリー司教を、追い返すようにしたのなら。

まず間違いないだろう」


「ねえ、マリスが悲しむなんて。

――いったい手紙になんて書いたの?」

メリーザの責めるような口調に、また視線が俺に集中する。


「あの手紙には『何があっても、マリスを信じる』と、書いておいた。

俺の本心だ。

そして今までの状況をまとめると……

――その帝都の屋敷に、ジュリーとエマがいる可能性が高い。

そして、マリスはこの件に巻き込まれている。

だから彼女も、助け出さなくてはいけない」


俺がそう言ったら。

テーブルに何人かのため息がこだました。


「下僕は、やはり下僕じゃなあ……」

リリーがそう呟くと、シスターは嬉しそうに笑い。

お嬢様とローラは、お互いに目を合わせた。


「確かにディーンらしいわね。で、これからどうするの?」

メリーザも安心したように微笑む。


そしてドラゴン・バスターズのメンバーは……

――なぜか俺をキラキラ眼で見つめ始めた。


「どちらにしてもあの襲撃してきたシスターたちが手ぶらで財団に帰ったんだ。そろそろ、むこうからアクションがあるだろう。後はそれにどう応えるかだが……」


俺がそう言って、スープを飲もうとしたら。

懐の通信魔法板が輝いた。


通話ボタンを押したら。

「ディーン司祭! い、いったい…… なにをやらかしたの!」

ナタリー司教の慌てた声が響いてくる。


「どうしたんだ?」俺が問いかけたら。

「皇帝陛下から緊急の呼び出しよ、明日の午後までに帝都のお城まで来いって!」

ナタリー司教が大声で喚いた。


さて、このアクションにどう応えればいいか。

この方向性は予想していなかったと。



俺はさめかけたスープを口に運びながら……

――心の中で、深いため息を漏らした。

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