やっぱりアレって、わざとでしょ?

山小屋で出会った魔族の口振りや、財団の動きから。

狙いはジュリーだと判断し。


「辺境警備兵は念の為ここで待機、引き続き警護と村の復旧に努めて!

他の兵はいったん帰還とする!」

お嬢様は昼食の終わった兵に号令をかけた。


メリーザも、もう一度教会に戻ることに同意してくれたので。

俺としても安心だ。


「ねえディーン、やっぱり迷惑じゃない?」

帰りの馬車に乗り込みながら心配するメリーザに、ローラが笑いかける。


「もういっそ、ジュリーちゃんといっしょに街に住んじゃったら? サイクロンも多民族だから、変に偽装しなくても怪しまれないし!

あたしも大戦中の負傷で何度も聖女の加護や勇者の回復を受けたら、年齢不詳状態になっちゃったけど。

羨ましがられることはあっても、怪しまれることなんてなかったわよ」


若々しい肢体を見せびらかすかのように、ローラは明るい赤髪をかき上げ。

ビキニアーマーからこぼれ落ちそうな胸を、ボインと弾ませた。


あんなに大きいのに、素晴らしいはりと艶を維持しているのは……

――聖女の加護だったのか。


「そうだな、その方が良いかもしれない。

俺は全然迷惑じゃないし、リリーもシスターもきっと喜ぶだろう」

俺はできるだけローラの胸を見ないように、メリーザに笑いかけた。


「ありがとう、じゃあジュリーがちゃんと帰ってこれたら。あの子に相談して、今後の事を考えてみるよ。

また厄介になるけど…… お願い」

メリーザは10代の頃になかった色っぽい微笑みを向けながら。


「けど、さすがに暑いわね」


シャツのボタンを上3つ外し、手で自分を扇いだ。

艶のある首筋と、大きな胸の谷間があらわになる。


こっちの色艶もかなりのものだ……

――神学院の技術も、なかなか侮れない。


俺は知的好奇心と戦いながら、なんとかそこからも視線を外したら。


お嬢様がローラとメリーザの胸を交互ににらんで。

「たしかにメリーザさんは、村から出た方が安全だと思うけど。

違う危険度が急上昇中のような……」



自分の胸に目を落としながら……

――なぜか少し不満顔で、馬車に乗り込んだ。



++ ++ ++ ++ ++



「ディーンの兄貴! それから皆様、お疲れでございました」

教会に戻ると、リリーが最近結成したドラゴン・バスターズの子分?

マルコと言う少女が、俺たちの馬車に走り寄ってきた。


「ああ、昨夜はリリーと教会を守ってくれてありがとう……」


切れ長の整った目鼻立ちに、美しい金髪のショートをバックに流し。

男のような言葉使いと態度だが。


学ランと呼ばれる服の前を大きく開けて、『さらし』を巻いた胸元から。

形の良い胸の上半分が、ガバッと露出している。


華奢な体つきで胸も年相応な大きさのせいか……

そうやって片膝をついて、深々と頭を下げると、その。


――見えちゃイケない所まで、見えてるんですが。


「リリーのあねごが神殿でお待ちです。賊もそこに縛り上げておきましたので、どうか煮るなり焼くなり好きにしてください」

マルコが頭をあげて、ニヤリと笑った。


女らしい格好をすれば、人目を引く美少女なんだろうが……

これはこれで妙な色気? が、あるから困る。


「そ、そうか」

俺がそう言って、馬車から降りると。

マルコの後ろにいた数人の少女も…… 同じように片膝をついて頭を下げる。


皆同じ服装で…… 学ランには、左腕の部分に『リリー様親衛隊』と書かれ。右腕には『喧嘩上等』とあり。背中には例のクマにしか見えない、羽の生えた可愛らしい動物の刺しゅうが施されている。


ドラゴン・バスターズは、もともと『レディース』と呼ばれるストリートギャングたちの集まりらしいのだが。

最大の問題点は……

――なぜか美少女率が異様に高いことだ。

今見てもマルコの後ろには、5人の美少女がいる。


シスター・ケイトから聞いた話では。

「奴隷商や娼館に売られそうな少女たちが、自衛のために集まったのがキッカケみたいですよ」

らしいが…… 

まあ、それが原因で女らしい格好を嫌っているのかもしれない。


「へー、話には聞いてたけど。なかなか気合が入ってんじゃん」

ローラが、少女たちを見て微笑み。


「マルコ久しぶり! お邪魔するわよ」

お嬢様はなんども会った事があるようで、気軽に挨拶し。


「マルコちゃん、また厄介になるわ」

メリーザも、嬉しそうに微笑んだ。


全員が馬車から降りると、マルコはそれを確認して。

「では兄貴! こちらへ」

俺を先導するように神殿に向かった。



うーん、やっぱり……

――何かがズレてるような気がしてならない。



++ ++ ++ ++ ++



神殿には、3人のシスターが椅子の上に拘束され、ぐったりとうなだれていた。年齢は10代後半から20歳ぐらいだろう。

胸や太ももを強調するように結ばれた、耐魔ロープがやけに艶めかしいが。


「あら、マルコ? 一回しか教えなかったのに凄いわね。

――ちゃんと拘束できてるじゃない!」

お嬢様が喜ぶってことは…… まあ、そう言う事か。


「うむ! 下僕よ。

マルコたちはなかなかのものじゃぞ! 我がひっとらえようと考えておったが。

その前に全員行動不能にしてしまったわ」

自慢げに胸を張るリリーに。


「そうか、それは凄いな」

俺がなんとか笑顔をつくってマルコたちを見たら。

少女たちは嬉しそうに微笑んだ。


拘束されたシスターたちを、左目のマーガに聖力ホーリーを供給して確認すると。

エマやジュリーのように、全身から例の波動は感じなかったが。ひとりひとり腕や足など…… 体の部分的な個所から、独特の波動を感じ取ることができた。


着ている修道服も、俺が知っている転神教会正規のものと微妙に違っているし。

縛られた太ももの奥からチラリと見えた下着も。


――例の純白のものではなく。

紫や縞柄や花柄など、個性あふれるものだった。


「キミたちは『真夜中の福音』なのか」

俺が3人に話しかけると。


「あたしたちは闇族殲滅の使命に全てをかけている。

――やつらを囲うような人間に話すことはない。

どんな拷問にも耐えて見せよう! 好きにするがいい」

一番年上に見える、20歳半ばぐらいの。

ブラウンのくせっ髪ショートの女がそう答えた。


俺を睨み返そうと、無理に動いたせいか……

ロープがさらに食い込み、小ぶりだがツンと尖った形の良い胸が強調され、太ももも付け根まであらわになって。

紫のレースのパンツが完全に見えてしまう。


「ってことは…… ケイトを狙ってきたの?」

紫パンツのシスターに、ローラがレイピアを抜いて問いただしたが。


左頬の泣きボクロが印象的な、エロ可愛い紫パンツさんは。

無言で歯を食い縛っただけだった。


まあ、間違いなく…… エマからの情報をもとに、俺が教会を留守にするのを待って襲撃を仕掛けてきたのだろう。


ここまで分かれば十分だ。俺がナイフを抜いて、彼女たちに近付くと。


「ひっ!」

紫パンツさんは小さくそう叫び、大きなブラウンの瞳に涙をためた。

順番にロープを切って、3人を解放したら。


「ど、どんな屈辱を受けても負けないわ!」


彼女たちは抱き合って、さらにおびえだした……

――もう、なんででょ?


「目的は達成したから、シスターたちはもう帰ってくれ。

そうそう、ついでにキミたちの隊長に。

『もう二度とシスター・ケイトに近付くな』と、伝えてくれれば助かるが」


俺がそう言って道を開けると、3人はよろよろと立ち上がった。


よく見ると紫パンツさんだけ、片脚を引きずるような動作だったから……

「ちょっと待ってくれ」

すれ違いざま、彼女の肩に手をかけて回復の祭辞を唱える。


「ああっ、あん!」

妙に色っぽい声を出して、背筋をビクリと震わせた後。

紫パンツさんは、赤い顔で俺を睨みながら自分の身体をあちこち調べ。


「れ、礼は言わないからね!」

内股を少しモジモジさせながら…… 2人を連れ、教会を出て行った。


それを見ていたマルコの瞳がキラリと輝き。

「あれはいったい?」そう、呟いた。


「ディーンの回復術って、相変わらずなのね……」

メリーザがそう言って、マルコに小声でなにかを伝えると。


「へっ? そ、そんなことが」

マルコはおどろいたように、もう一度俺を見た。


「おお、確かに下僕の回復術は……」

リリーもなにやらマルコに耳打ちをはじめ。


「あ、あたしんときもそうだったけど」

ローラもそれに参加しはじめ。

お嬢様もそれに引き寄せられるように、耳を寄せた。


女性陣が徐々に集まって、ヒソヒソ話を始める。


「……って、感じで。 ――来るのよ、直接クッて」

「へー、あたしんときだけの、特別サービスだと思ってけど……」

「下僕のあれはもうほとんど無意識で…… じゃなあ……」

「そーなのかな? あたし若い頃アレで何度もイカされ……」

「キャー! うそっ!」


漏れ聞こえる内容と、雰囲気のせいで近付けないでいたら。


ふと、メリーザと目が合い。

「やっぱりアレって、わざとでしょ?」

首をひねりながら、可愛らしく問いかけられた。


リリーやローラは、睨むような視線だし。

マルコたちドラゴン・バスターズのメンバーは、なぜか目をキラキラさせながら。

――俺を見つめている。


「な、なんのことだ?」俺がその異常な雰囲気に後退ると。

「キャー!」っと女性たちの悲鳴が、神殿に大きくこだました。

俺はその衝撃に耐えながら。



この術は改良が必要だと……

――深く心に刻んでおいた。

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