Phase epilogue 柔らかい日差しに包まれて
・・・ イザベラ ・・・
あいつから、リリーが箱に封印されたって聞いたときに。
お父様に相談して兵を預かり、教会の警備に当てたまでは良かったけど。
それでもリリーがさらわれちゃったのは失策だった。
「内部からの裏切り行為だろう。帝国の犬どももうろついておったし。
初陣にしては、良くやった」
お父様はそう言って下さったけど……
やっぱり学園で学んだ兵法と実戦は違う。
裏切りの対処や、それを見越した戦術なんて。
――教科書のどこにものってない。
まだまだ、学ばなきゃいけない事は山ほどあるわね。
最近、通信魔法板の掲示板で仲良くなった『ふぇい』さんの助言がなかったら。
現状はもっと悲惨だったかもしれない。
まとまらない「地元出身」派と「男爵家からの生え抜き」派のイザコザも。
「共通の敵を作っちゃえばいいのよー」の、一言が効いた。
あの事件を繰り返すな! を、スローガンに。
今回行った軍事演習自体は成功したし。
派閥を越えて、リリー誘拐の反省会を独自に開いたりしてる。
『ふぇい』さんは忙しいようで、こちらの連絡から返信が無いと……
ふぇいさんの助手? だろうか。『ていらあ』さんが返答をくれる。
こっちの助言もなかなか為になるけど。
問題は、『ふぇい』さんに対する愚痴が多い事だ。
この2人はお父様の知り合いでもあるようで、4人で暗号魔術を使った『えすえぬえす』をしてる。
「彼等から学べることは大きい」
あのお父様がそうおっしゃるんだから。
それなりに地位がある方たちなんだろう。
あのエロシスターとの争いも。
「ライバルがいるのなら、そいつと交友を深めろ。
友愛は最大の障壁になるし、情報もつかみやすくなる。
今の時代、情報戦を勝ち抜かなければその先はない」
『ていらあ』さんと『ふぇい』さんの助言をもとに。
あいつを敵にしてエロシスターと仲良くなったら、状況が変わった。
こっちは順調に作戦が進んでいるけど。
新しい問題も無きにしもあらずだ。
修復工事の打ち合わせを理由に……
やたらべったりと寄り添う『ルウル』とか言う獣族や。
「ディーン様に何かあってはいけませんので」と言って、あいつから離れない……
『ルイーズ』とか言う女騎士。
なんでもジョージの兄妹で、今回の事件を重く見た帝国が派遣したらしいが。
「あの2人は要注意ですね!」
エロシスターも警戒してる。
工事も既に終わって、今日が教会の竣工式だから。
あの2人は、もう気にしなくても済みそうだけど。
「イザベラ! やはりあの男はなかなかの者だ。
プレセディア家の名にかけて、狙った獲物は逃すんじゃないぞ!」
お父様は、教会の竣工式に出席するために着た。
最近はやりの異世界服『タキシード』の胸を叩いた。
そこには数々の勲章に混じって、我が家の『家章』が飾られている。
あたしも自分のドレスをチェックした。
暖かくなり始めたこの季節に合うように。
ちょっと胸元が大胆に開いたものを選んだし。
それでも品が落ちないように、細心の注意も払った。
「もちろんよ、お父様!」
あたしがそう意気込んだら。
ドレスに飾った家章の『聖なる虎』の目が……
――薄く輝いた気がした。
・・・ ケイト ・・・
今日は教会の竣工式だ。
日柄は明日の方が良いのですが……
駅の開通式と重なるので。
ご来賓の方々に配慮して、急遽今日に決まりました。
朝からあたしは、バタバタとあちこち走り回っています。
「シスター、落ち着きな。
今更なにかやったって、変わりはしないんだから」
ディーン様は、のんびりとあくびをしながら朝食を召しあがってます。
確かにその通りですが…… なんか落ち着かないんですよね。
「そ、そうですよ、シスター・ケイト様」
ディーン様の横には、まるでそこが自分の指定席だと言わんばかりに。
竣工式のためでしょうか?
乙女力満載のヒラヒラ衣装をまとった計算女、ルウルさんが座ってます。
「その通りだシスター、あなたはゆっくりお茶でも飲んでいればいい」
その後ろでは、男のような衣装を着たルイーズさんが。
ディーン様に寄り添っています。
なぜか今日は、シャツのボタンが上3つも外れてます。
……そのささやかな胸が、こぼれてしまいますよ!
落ちつけない原因の一端に、なにかを言われたのが気に障って。
あたしがふくれっ面になったら。
「シスター、他になにかしなくちゃいけない事があるんなら手伝うよ」
ディーン様がそう言って、席を立たれました。
「そんな…… この後の竣工式では、ディーン様が主役ですから。
雑用はあたしがやります! 今はちゃんと朝食をとってください」
あたしが慌てたら、そっと近くまで来て。
「あいつらから逃げる口実が欲しかったんだ」
そうささやかれました。
あたしが満面の笑顔になると。
「下僕よー! 残すんなら我がもらうぞ!!」
後ろからリリー様が叫ばれました。
いつも思うのですが……
あんな小さな体のどこに、あの大量な食糧が消えてゆくのでしょうか?
「キレイになったな」
「そ、そんなあ」
あたしがモジモジしてたら、ディーン様は神殿の天井を見上げて。
「もう、ボロ教会じゃない。俺達もしっかりしないとな」
そう仰いました。
――そっちなんですね。
今日のために髪型も整えて。シスター服も夏服に変えたんですが。
きっとこの人は、気付いてくれないんだろうな。
「資料では、宝石などが散りばめられた豪華な装飾だったそうですが。
これはこれで、美しいですね」
気持ちを切り替えて、あたしも天井に描かれた
あの計算女は、性格に難はあるけど。腕は確かなようです。
「掃除はもういいだろうから。
少し早いが、神殿の扉を開けておこう」
今日の竣工式は、神殿内で行われます。
普段は開放しない5つの大扉を、順番に2人で開けました。
この神殿を中心に、5つの塔が見えます。
1つはまだ修復をしていませんが。
見栄えが悪くないよう、キレイに塀がおおっています。
「結局、あの塔はどうして壊されちゃったんでしょう」
あたしが、ついそう聞いたら。
「
『陽』『助陽』『動』『助動』『暗』の5方角。
下部を司る『陽』か『助陽』からなんだ。
解呪の基本は、全て下からだからな。
方角の起点はこの神殿で、祭壇の位置から考えると。
あの塔は、やはり上部なんだ。
この教会を
――やはり建物内に起点操作が存在するのか。
破壊した奴らが、なにか勘違いをしたのか」
「案外、中の宝物が狙いだっただけかもしれませんね」
教会の宝物は、ほとんど盗まれて存在しないですから。
あたしがそう言ったら。
ディーン様はあっけにとられた顔で。
「その線をすっかり忘れていた。ならあの場所は『暗』だから……」
なんだかブツブツと悩み始めてしまいました。
でも、その悩む仕草も。筋肉質で生々しい首筋も。
――とっても素敵です。
なんだかムラムラと、噛みつきたい衝動に襲われてしまいます。
食事が改善されたせいでしょうか?
最近体調がとっても良くって。
以前はたまにしか見えなかった、頭上に浮かぶ色も。
今ではハッキリと見えるようになってきました。
おかげでイザベラ様が仕掛けてくる心理戦も、楽勝で見破ってます。
「爽やかな風ですね!」
朝の新鮮な空気に、あたしが喜びの声を上げたら。
……やっとこっちを向いてくれました。
あたしが腕を組んでいたせいでしょうか?
ディーン様の目線が、胸元に移行しました。
ついでなので、もうちょっと押し上げてみます。
冬服の修道服は、首がしっかり閉まるデザインでしたが。
夏服は、首回りに余裕があります。
フェーク様から教えていただいた「夏服改造」で胸元をガバッと開けて。
さらなるアピールをしてみるのも、良いかもしれません。
ディーン様は……
――おっぱいが大好きですから。
・・・ ラララ ・・・
例の司祭が、壇上で祭辞を述べ始めた。
最前列を乗っ取ったルウルちゃんが、必死になって可愛さアピールしてるけど。
もう本性バレてるんだから、逆効果にしかならないと思うんだが……
まあ、計算女やってるけど…… それに騙されるのって。
バカな男どもだけで。
ちゃんとした男や、女にはもともと通用しないんだよ。
――早くその辺も気付いてほしい。
ほら。さっきから、あのエロい感じのシスターが。
ルウルちゃんを凄い顔で睨んでる。
後ろに控えてるルイーズも、あたしの事になんか気付いたか心配だったけど。
あれ以来なーんも言ってこないから。
バレてないんだなあ……
逃げるリリーに手を焼いて。
上手く封印できなかったルイーズに変わって。
あの子を『箱』に詰め込んだのも。
手際が悪すぎたリリー誘拐の手助けをしたのも。
……どうやら誰も知らないようだ。
さすがにあの剣士に切られたときは、肝が冷えたけど。
ルイーズは自分でリリーを閉じ込めたと思い込んで。
襲撃されたふりまでしてたし。
帝国が調べ上げた毒の情報も……
どうせ漏れるし、自分の潔白を訴えたかったんだろう。
ぺらぺらしゃべり出してたし。
あの御方は……
あたしの傷を治すか、ルイーズの暗示を解くために。
あの司祭が『ラズロット』を呼ぶのを待ってたって言ったけど。
定期的に治療してくれたとは言え、ケガを放置されたんだから。
あとでたっぷり文句を言ってやろう。
強制デートとか、チューとか。
そのぐらいのご褒美がなきゃ、やってらんない。
魔族側の動きも見たいから、こんなややこしい方法になったみたいだけど。
ライアンもルイーズも、どう見てもただのお人好しだよ。
今も、みんなにこやかに笑ってる。
あー、こんな2重だか3重だか分かんないスパイなんて。
とっとと辞めてしまいたい。
ルウルちゃんも……
――早くその辺にも気付いてほしい。
まあ、あの子はある意味素直過ぎるから。
やっぱり話す気にはなれないけどね。
あたしは、春の柔らかい日差しに包まれて……
――ひとり寂しく、ため息をついた。
End of the Prime Ministers assassination plan
to be continued.
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