透けちゃってますが

・・・ ルウル ・・・


ディーンがのんびりと、散歩にでも出かけるように。

正面改札口に向かうのを、あたい達は呆れてみてた。


どんな神経してたら、あんな事が出来るんだか。

――敵の数も、能力も、分かってないのに。


ジャックナイフの武勇伝は幾つか耳にしたけど。

あれは拡張でも、嘘でもなさそうだな。


「ルウルさん、それでは援護にまわりましょう」


薄ら笑いヤロー……

たしか本名はライアンって言ったっけ。


そいつがスーツって呼ばれる。

最近商人が好んで着てる、異世界服の襟を正した。


「あんたと2人で、通気口からのアタック。

残りが非常口で待機だっけ」


確認するとライアンは頷いて、他の隊員に指示を出す。

見ると全員、建築商会の顔見知りだ。


――その時の名前と、本名は違うんだろうけど。


「なんだか驚きだよ」

あたしが隊員たちを見て呟いたら。


「ルウルさんの演技に、我々も驚いてますよ」

ライアンが相変わらずの薄ら笑いで応える。


やや垂れ目だけど、整った顔立ち。

背も高く、ディーンほど筋肉質じゃないが、引き締まった身体つき。


こんな変な笑い方しなきゃ、イケメンで女にもてるんだろうに。

案外それを知ってて、わざとやってんのかな。


あたいがライアンを眺めてたら。

隊員が居なくなったのを確認して。


「これでやっとお話ができますね。

じゃあ、種明かしをしていただけませんか?」


そう言って、また薄ら笑いを浮かべる。

――この、ボケた感じも曲者だな。



あたい達は搬入口に向かって歩きながら、話をした。


「ダビスってのは、賢者会の逸話に出てくる裏切り者の名前なんだ。

ディーンは、あんたの背で馬を駆ってた奴が、犯人だって考えてるんだろう。

現地での準備ってのは、そいつにパルの実を食べさせたことだ」


「パルの実?」


「強壮剤のチコラそっくりの、幻覚剤になる実だよ。

あいつは『睡眠薬』替わりに使ってるようなこと言ってたが……

普通は2~3個口にしたら、数時間でまともに歩くことも出来なくなるね」


ライアンはそれを聞いて、少し悩んでから。

「念のため、賢者マーリンの話を教えてください」

そう、聞いてきた。


「賢者マーリンの悲劇ってのは、賢者会に伝わる昔話でさ。

マーリンが、自分がそろそろ引退しようって時に。

学び舎の長にするのは、3人の高弟の誰かにするって、言うんだ。


内2人は人望も厚くて、マーリンにも気に入られてたし。

甲乙つけがたい才能だった。

残りひとりはマーリンに怒られてばかりで、人望も無かった。


で、気に入られてた2人が学び舎で権力争いを始めちまって。

マーリンはそれを嘆いて。

次の長の名前を書いた紙を封印して、山にこもっちまう。


そして人望の無い弟子がマーリンを追って、殺しちまうのさ。

――師匠を殺した後、封印を解いて。

紙の名前を自分に変えて後継ぎになろうとしてね」


マーリンの悲劇を話しながら、搬入口まで着くと。

地下へ潜る通気口が見付かる。


「その弟子の名前が、ダビスなんですか」

人ひとり通るのが、やっとの大きさだ。


「ああ、そうさ。

だから賢者会では、身内の裏切り者をダビスって呼ぶんだ」


あたいが通気口をのぞき込んでると。

「その紙には、誰の名前が書いてあったんでしょう」

とぼけた感じで、ライアンが聞いてきた。


「ダビスだよ。

マーリンはダビスの才能を見抜いてて。

初めから奴に継がせる気だったんだ。


ただ、大人し過ぎるダビスを奮起させるために。

叱ったり、争わせたりしたが…… それが裏目に出たって、話さ」


「賢者会の逸話ですよね。

なら、それはどんな教えなんですか」


「さあな、あたいにその話を教えてくれた師匠は。

悲劇は誤解から生まれることが多いって、言ってたよ」


「なるほど……

ディーンさんの言わんとしたことが、なんとなく見えてきました」


したり口で、なかなか通気口に入ろうとしないライアンをせかすと。


「その話を聞いた後、先に入るのは気がひけるなあ」

と、またあの笑いを浮かべる。


あたいが自分のスカートを指さしながら。


「こいつの中身を見るのは、有料なんだ。

いくら払ってくれる?」

ディーンの時は、宝石1個分のサービスだったんだ。


あたいがそう言ったら……

奴は少しの間、真剣に悩んで。


「なるほど、了解しました。ではお先に失礼します」


物音も立てずに、素早く通気口にもぐり込む。

その動きは、盗賊から見ても見惚れるぐらいだ。



――ホント、くえないヤローだな。



++ ++ ++ ++ ++



改札を抜けると大きな通路が広がり、列車の搭乗口までそれが続いていた。

設計図にあったコンコースが、ここなんだろう。


隠れる場所が多くて、見晴らしもいい。

確かに、応用魔法銃器で狙うなら絶好の場所だ。


周りの気配を探りながら、コンコースの中央を歩いていたら。


「ディーン司祭!」

ジョージが駆け寄ってきた。


「どうした、こんな所に」

「これを見つけまして、急いでお知らせしなくてはと思いまして」


左手で、握りしめた紙を見せる。


ジョージは右利きだったから。そのしぐさに違和感を感じて。

いつでも反撃できるように、俺はゆっくりと右側に回り込んだ。


「なんだそれは?」


ジョージの格好を確認しても。

剣は持っていないし、応用魔法兵器の類も見当たらないが。


「あの脅迫状と同じ筆跡で、このような手紙が」


ジョージは俺に、手紙に注意を引かせながら。

右手を腰の辺りに移動した。


「それより大丈夫か? 足元がふら付いてるぞ。

ケガが治ったばかりなんだ。無理はするな」


ズボンのポケットに手を入れる寸前で。

俺はジョージの右脇に手を入れ、抱き留めるように押し倒した。


「な、なんですかいきなり……」


覆いかぶさると、顔と顔が急接近する。


サラサラの前髪が、汗で額に付き。

大きくキリリとした瞳が、驚きに歪む。


ジョージを抑え込んだまま、ズボンのポケットに手を突っ込む。


「そんな、あっ……」


抵抗はされたが、パルの実が効いてきたんだろう。

簡単に、小型魔法銃器を奪う事が出来た。


「女をいたぶる趣味はないんだ。大人しくしてくれると助かる。

――本名はルイーズだったか。

リリーを返してくれないか? そうしてくれれば……

見逃してやってもいい」


「なんで…… そんなバカな」


「さっき治療したときに、どっかのバカが……

そのキズが俺のナイフの物だって、教えてくれたんでね。

それに、最初から話のつじつまが合わなかった。

いくら獣族の力任せの攻撃を受けたって。

着ていた服がキレイなままなんて、ありえない」


ジョージ…… いや、ルイーズの顔が悔しさで歪む。


「くそっ! あと一息だったのに」


もだえるように暴れたせいで、スーツと呼ばれる服がはだけ。

白い襟付きのシャツが、あらわになった。


そうなると、胸がちゃんと膨らんでいて女だって分かるが。


あのー、それ。ブラジャーしてないですよね……

ポッチとかが、透けちゃってますが。


「ひとりめの下僕とか言うバカが言ってたから。

どこまで確かか分からんが。

お前は精神汚染系の呪術……

――『記憶操作』が、かかっているらしい。


心当たりはないか?


定期的に変な薬品を飲まされたり。

過去の夢を見たり。

あるいは、どうしても思い出せない記憶が有るとか」



ルイーズの表情が変わった。

これは、心当たりがある証拠だろう。


「そんなものは無い! 手を放せ!」


必死になって暴れるが。

ただ服がはだけて、汗がにじみ。

よりポッチがはっきりするだけだった。


上気した顔が、徐々に表情を失ってゆく。


パルの実は、睡眠薬として優秀だ。

あの量を一気に食べれば。

今起きている事自体が不思議なくらいだ。


うなされるように寝込んだルイーズから離れ。


「ちょっと待っててくれ。

今、その悪夢を…… 止めてやるから」


俺はクールに呟き、数歩あるいてから。


ルイーズのはだけた胸が気になって……

もう一度戻って、ジャケットを正し。寝顔と脈拍を確認して。



再度、地下格納庫へ向かって……

――クールに歩き出した。

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