取引をしないか

問題の破壊された個所は、小さな塔があったようで。


「この土台はっ、壊さないで…… 保護したのかなっ?」

井戸のような状態で、安っぽい屋根が後から覆いかぶせてあった。


「ラララさん、下手にのぞき込むと危険ですよ」

頭のどこかで警告音が鳴る。


ダンジョンでトラップを見落とした時の違和感と同じだ。


「内側に何か書いてあるよっ……

魔法陣じゃないし。ひょっとして宗教画イコンかなっ?」


気になってしかたがなかったお尻を、じっくりと観察する。


突き出された肉感的なフォルム。

ふくよかな太もも。

短すぎるショートパンツから、チラリと見える縞柄のパンツ。


――やっと違和感の正体に気付いた瞬間。


「うわあっ」

魔法が発動して、彼女が淡い光に包まれた。


「しまった!」

慌てて後ろから抱き留めたが……

俺も意識ごと、暗闇の中に引きずり込まれてしまった。



――まったく、後悔は先に立たない。



++ ++ ++ ++ ++



意識が戻ると……

背中にゴツゴツとした岩のようなものが当たるが。

顔に弾力のある膨らみが押し付けられていた。


呼吸が困難だったから、首を振ると。


「あっ、うん……」

妙に色っぽいうめき声が聞こえてきた。


「大丈夫か?」

なんとか声を出すと。


「その…… あたしは司祭様が守ってくれたので。

ケガはないみたいですが……

押しつぶす形になっちゃって、ごめんなさい。

ここ狭くって、上手く動けないんです……」


彼女もモゾモゾと動き出し、その度に膨らみが俺の頬をなぜる。


「あやまらなくてもいい、礼を言いたいのはこっちだ」

「へっ?」


鼻を衝くかぐわしい匂いも、実に素敵だ。

大きく深呼吸したい気持ちを、グッと抑える。


「あっ、でも、なんとかすれば……

――横穴に入れるかも。

あっ、ううん。はあはあ、も、もう少し奥に入れて」


わざと言ってないだろうか?


しかも大きな膨らみの先端が、徐々に硬くなって……

頬にハッキリと感触が伝わってきだした。


まさぐるように、俺の胸元に手が這うのも。

バタつく太ももが、艶めかしく俺の下半身に当たるのも。

――かなりまずい。


まだ落下の衝撃で手足がちゃんと動かないが。

別の場所が動き始めそうで、いろいろとピンチだ。


「も、もう少しでイキそうです。

あっ、んん…… あっ!」


そしてゴロンと転がるように、彼女は横にずれ。


「司祭様、大丈夫ですか!」

なんとか横穴に脱出できたようだ。


「ギリギリだったが…… なんとか間に合ったよ」

俺はクールにそう呟いたが。


犬耳のキュートな少女は……

――不思議そうに首を捻るだけだった。




「これ…… どこまで続いてるんでしょう?」


高さは2メイル程、左右も3メイル以上あるその通路は……

なじみの深いダンジョンそのものだ。


ついつい冒険者時代の癖で、足音を消して歩いていたせいだろう。

通路には、微かな風の音しか響いてこない。


「教会の下がダンジョンだった?

――いや、違うな。様式はまったく教会と同じだ」


壁のレンガは、教会と同じ物が使われている。

組み方や工法もたぶん同じだろう。


そして行き止まりになると、大きな扉があらわれた。


「困ったな、これじゃ外に出られないよっ」


落ち込んで顔を伏せると、犬耳もペタンとしおれた。

――やはり萌えるな。

もうその動きは、間違いないだろう。


扉の鍵は、古い施錠タイプだ。

俺はポケットから開錠用の棒を数本出す。

魔術的な拘束も無いようで、扉は簡単に開いた。


「司祭様、凄いですね。

なんか尊敬しちゃいます。さっきも助けていただいたし。

そのっ…… とても、カッコいいです」


上目遣いに見詰める少女を、そっと抱き寄せ。

抵抗しないのを確認して部屋の中に連れ込み、鍵をかけて押し倒しす。


「あっ、こんな場所で…… ダメです、司祭様」


俺はその言葉を無視して。



胸元に手を差し込み……

――奪われた羊用紙を取り返した。



++ ++ ++ ++ ++



手足を手持ちのワイヤーで拘束すると、さすがに諦めたのか。


「エロオヤジ! キモイんだよバカヤロー」

言葉遣いが急に上品になった。


「ダンジョンで足音を消すのは基本だが。

素人じゃ、あんなに上手く出来ない。

演技をするなら、もっと徹底してやらないとな」


俺の言葉にそっぽを向く野良犬娘は、不貞腐れ顔で呟いた。


「あたいが羊用紙スッたの、最初から気付いてたんか」

「まあ、その前にいくつかヒントをいただいてたからね。

じゃなきゃ、アレは気付けなかった」


あのおっぱいの感触は、実に危険な罠だった。

――自分を褒めてあげたい。


「ヒント? なんだよ、それ」


「大浴場で、ラズロット像の腕から宝石を抜き出しただろ。

――あのパンツの見せ方は、あざと過ぎたよ。

それぐらいなら見逃すつもりだったけど、状況が変わってね」


ラララの格好をした少女の顔が急変する。


「ラララは大丈夫か? 魔剣の傷は、放っておくと命に係わるぞ」

「母さん以外で、気付いたやつは初めてだよ……

いったいどうして?」


顔も背格好も同じだし、しゃべり方や動きもそっくりに真似ていた。

たぶん子供の頃から、常習的にやっているんだろう。


「バカだな…… ラララは太ももがもう少しだけ細いし。

お尻も上がってる」

ルウルの肉感的なお尻も好きだが。



俺の言葉に、ルウルは凄く嫌そうな顔をして……

――ぽつりと「サイテー」と、呟いた。



++ ++ ++ ++ ++



「取引をしないか?」


すっかり地が出たルウルは、器用に縛られた脚を崩して、あぐらをかいている。

もう一度縛り直そうか悩んでいたら。


「ジャックナイフ・ディーン。

噂には聞いてたけど、ここまでとは思わなかったよ。

あたいらも、オルトロスの名前でそこそこ名を売ってる盗賊なんだ。

依頼主を売ってもいいし。

あたいの体に興味があんなら、好きにしてもいい」


「それじゃ取引にならんだろ。

依頼主の情報は……

お前を当局に突き出せば、拷問魔術師が白状させるよ。

連中は容赦がないからな、早めに吐いた方が身のためだぜ。

お前を犯したければ、今ここですればいい。

誰も止めはしないし、捕まえた賞金首を煮ても焼いても。

――罪にならんからな」


本当にオルトロスなら、この領まで名前が響き渡る賞金首だ。

帝国の難攻不落と言われた宝物庫を襲撃した噂は、俺も耳にした。


「それでも司祭かよ! 慈悲ってのはないのかっ!」

「まだなったばかりでね。

―――いま勉強中なんだ、悪いがもう少し待ってくれ」


よくまわる口を塞ぐためと、ボディーチェックのために。

俺はナイフで、ルウルのシャツと下着を切り裂いた。


「ひっ!」


白く美しい胸が露わになると、幾つかの暗器らしきものがこぼれ落ちる。

使い方までは分らないが、応用魔法兵器なのは確かだろう。


依頼主とやらの要求が満たされれば。

俺の命も奪うつもりだったのかもしれない。


「せめて、ラララだけでも助けてくれ。

あの変な男に切られてから……

回復魔法をいくらかけても、意識が戻らないんだ」


やっぱり、襲撃者はラララだったのか。

――半分は勘だったんだが。


「残念だけど、お前らは死罪だよ。

盗賊だって帝国に逆らったら、命はない」


暗器を取り上げ、部屋の探索を始める。

位置的には中庭の下になるんだろう。

噴水のための水道が壊れ、露出している個所があった。


「こいつを利用すれば、上まで行けそうだ」


ひとり担いで中を通るぐらいの広さは十分にある。


「うーん、はあ、はあ。 ……ううん」

脳内でアホの子の声が聞こえてきた。


「リリー、お前までなに悶えてるんだ?」

「下僕よ、すまん。

バレんようにずっと我慢しておったが…… お別れかも知れんな。

短い間じゃったが、楽しかったぞ……」


「おい、リリー。なに寝ぼけたことを……」

俺があせって、箱を懐から取り出すと。


「そうだ、解毒剤なら持ってる!

念の為に、依頼主からパクッておいたんだ」


ルウルが叫んだ。


「急いでんだろ、ジャックナイフ!

――あたいと取引しないか?」


「聞こえるのか?」


今までリリーが脳内でしゃべる『声』を聴いたやつはいない。

あの竜人たちですら、波動しか感じていなかった。


「あたいは、犬族じゃないんだ。

神獣…… 狼族の生き残りだ。

だから神の声を聴くことだってできる」


「解毒剤は本当にあるのか!」

「祖たる大賢者、ドーン・ギウスの名に懸けて」

――ルウルの真っ直ぐな瞳を見返す。


俺はルウルに上着をかけると。

ナイフで手足の拘束を解いた。


「よくあんな言葉だけで信用したな」

「言葉なんて、信じちゃいないさ」


悪党の顔を見飽きるほど知ったせいか。

……ただ、そうじゃない顔が珍しかっただけだ。



俺は、上着で隠しきれてないおっぱいを見つめながら……

――心の中で、クールにそう呟いた。

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